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しおりを挟む「君は僕を助けてくれようとしている。なのに僕が何もしないのはおかしい。力になれることがあるなら……手を貸したい」
私の瞳を真っ直ぐに見つめる殿下からは、本当に真摯な思いが伝わってくる。
これを話すべきなのかどうか悩んだけれど、話さなければきっと殿下は食い下がってくるだろう。
それに……殿下は皇太子、話せと言われて話さないのは宜しくないわね。
そう判断した私は奥歯を一度強く噛み締め、少しずつ少しずつ、舞踏会で起きた出来事を語り始めたのだった。
「馬鹿な……! 何だそれは! 一国の王子がする事ではない!」
話を終えると殿下は拳を膝に叩きつけ、怒りを隠すこと無く吠えた。
拳はプルプルと震え、口はへの字に曲がっている。
「ですが今お話しした事が私の身に起きた全てでございます」
「だから君は舞踏会を……すまない」
「殿下が気に病む事ではございませんのよ。これは私とケーニッヒの問題ですから」
「こんなにも見目麗しい君を……例え婚約者だったとしても他国の伯爵家当主をそんなにも侮辱するなんて……許される事じゃない、最悪国交問題に発展してもおかしくない問題なんだ。ドリアム王国は戦争でもしたいのか!」
「……いいんですの。私が身を引けばいい事、殿下がお怒りになってくれただけで……私の心は充分救われましたわ」
「キャロライン……君は、優しすぎる。そして自分に対して厳しすぎる。自分を一番大切に出来るのは自分だけなんだよ」
殿下は私の手を取り、慈しむようにそう言った。
先程まで晴天だったはずの空は薄暗い雲に覆われ、細かい雨がポツポツと私のデコルテに落ち、雨の存在を教えてくれた。
雨はだんだんと勢いを増し、あっという間に地面と私を濡らしていった。
「城に入ろう、キャロライン。風邪を引いてしまう」
「はい、殿下」
薄暗い空は私の心を映し出しているかのようだと思いながら、殿下に手を引かれるまま私は城の中へと帰って行ったのだった。
◇◆◇
「寒くはございませんか?」
「はい。お心遣い痛み入りますわ」
城に入った私は貴賓室へと通され、暖炉の前のソファに座っていた。
殿下の指示の元、使用人が暖炉に火を起こし、砂糖とミルクがたっぷり入った温かいミルクティーが私の元へ運ばれて来た。
ぱちぱちと音を立てる薪と、緩やかに燃える炎をじっと見つめ、ミルクティーをゆっくりと啜る。
貴賓室には私と使用人だけ、殿下は着替える為に自室へと向かい、ここで待っているように命じられた。
私の濡れたドレスは水気を取り、暖炉の傍で干されている。
どうしてこんな事になってしまったのか。
私はただ殿下をお救いしようと思っていただけなのに……逆に心配されてしまうなんて。
雨は先ほどよりも勢いを増しており、強風とクイックステップを踊っているようにリズム良く窓を打ち揺らしていた。
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