隣国の王子に婚約破棄された夢見の聖女の強かな生涯

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
36 / 82

35

しおりを挟む
 
「君は僕を助けてくれようとしている。なのに僕が何もしないのはおかしい。力になれることがあるなら……手を貸したい」

 私の瞳を真っ直ぐに見つめる殿下からは、本当に真摯な思いが伝わってくる。
 これを話すべきなのかどうか悩んだけれど、話さなければきっと殿下は食い下がってくるだろう。
 それに……殿下は皇太子、話せと言われて話さないのは宜しくないわね。
 そう判断した私は奥歯を一度強く噛み締め、少しずつ少しずつ、舞踏会で起きた出来事を語り始めたのだった。

「馬鹿な……! 何だそれは! 一国の王子がする事ではない!」

 話を終えると殿下は拳を膝に叩きつけ、怒りを隠すこと無く吠えた。
 拳はプルプルと震え、口はへの字に曲がっている。

「ですが今お話しした事が私の身に起きた全てでございます」

「だから君は舞踏会を……すまない」

「殿下が気に病む事ではございませんのよ。これは私とケーニッヒの問題ですから」

「こんなにも見目麗しい君を……例え婚約者だったとしても他国の伯爵家当主をそんなにも侮辱するなんて……許される事じゃない、最悪国交問題に発展してもおかしくない問題なんだ。ドリアム王国は戦争でもしたいのか!」

「……いいんですの。私が身を引けばいい事、殿下がお怒りになってくれただけで……私の心は充分救われましたわ」

「キャロライン……君は、優しすぎる。そして自分に対して厳しすぎる。自分を一番大切に出来るのは自分だけなんだよ」

 殿下は私の手を取り、慈しむようにそう言った。
 先程まで晴天だったはずの空は薄暗い雲に覆われ、細かい雨がポツポツと私のデコルテに落ち、雨の存在を教えてくれた。
 雨はだんだんと勢いを増し、あっという間に地面と私を濡らしていった。

「城に入ろう、キャロライン。風邪を引いてしまう」

「はい、殿下」

 薄暗い空は私の心を映し出しているかのようだと思いながら、殿下に手を引かれるまま私は城の中へと帰って行ったのだった。


◇◆◇


「寒くはございませんか?」

「はい。お心遣い痛み入りますわ」

 城に入った私は貴賓室へと通され、暖炉の前のソファに座っていた。
 殿下の指示の元、使用人が暖炉に火を起こし、砂糖とミルクがたっぷり入った温かいミルクティーが私の元へ運ばれて来た。
 ぱちぱちと音を立てる薪と、緩やかに燃える炎をじっと見つめ、ミルクティーをゆっくりと啜る。
 貴賓室には私と使用人だけ、殿下は着替える為に自室へと向かい、ここで待っているように命じられた。
 私の濡れたドレスは水気を取り、暖炉の傍で干されている。
 どうしてこんな事になってしまったのか。
 私はただ殿下をお救いしようと思っていただけなのに……逆に心配されてしまうなんて。
 雨は先ほどよりも勢いを増しており、強風とクイックステップを踊っているようにリズム良く窓を打ち揺らしていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

その白い花が咲く頃、王は少女と夢を結ぶ

新道 梨果子
恋愛
 王都を襲った大地震を予言した少女、リュシイはその後、故郷の村に帰って一人で暮らしていた。  新しく村に出入りするようになったライラを姉のように慕っていたが、彼女に騙され連れ去られる。  エイゼン国王レディオスは、彼女を取り戻すため、動き出した。 ※ 「少女は今夜、幸せな夢を見る ~若き王が予知の少女に贈る花~」の続編です。読まなくてもいいように説明を入れながら書いてはいますが、合わせて読んでいただいたほうが分かりやすいと思います。 ※ この話のその後を主人公を変えて書いたものが完結しております。「銀の髪に咲く白い花 ~半年だけの公爵令嬢と私の物語~」 ※ 「小説家になろう」にも投稿しています(検索除外中)。

婚約破棄令嬢は王子と結ばれたかった。

白雪みなと
恋愛
婚約破棄されてしまった伯爵令嬢であるアカリア・クリア。 もうまともな結婚ができるとは思えなくなったアカリアは、決死の覚悟で学園の王子様といわれるリリック・シルクロードに思いをぶちまけようとする――。

処理中です...