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しおりを挟む「その……申し訳ございませんでした。殿下」
「キャロライン?」
フィエルテとケーニッヒは似ても似つかない容姿をしている。
似ているとすれば第一王子という肩書きだけ。
私は一体何を考えていたのでしょうか。
考えないように、思い出さないようにしていた舞踏会での出来事が、瞼の裏に鮮明に浮かんできては消えていく。
私に向けられた侮蔑の視線、売女というありもしない汚名、シェーアの勝ち誇った瞳、汚物を見るようなケーニッヒの視線。
それらが瞼の裏に浮かぶ度に、腸が煮えたぎるようにグラグラと音を立て、じわりと涙が滲み出てくる。
「不敬な態度、度重なる無礼な発言、如何すればお許し頂けますでしょうか」
「キャロライン……違う。僕は怒ってなんか無いんだ」
「いえ、殿下は次代の皇帝となられるお方。父から継いだとはいえ、私如き新米がお言葉を交わせるようなお方ではありませんでした。迎賓館でお言葉を交わせた事に気を良くし、調子に乗っておりました」
目を伏せ、フィエルテの表情を見ないように謝罪の言葉を連ねていく。
今すぐ泣き出したい気持ちを堪え、歯を食いしばって言葉を紡ぎ出す。
そこでふと気付いた。
私はフィエルテにケーニッヒを重ねて見ていたという事に。
迎賓館で身分を隠し、親しげに話しかけてきてくれた彼の態度に甘え、身分を明かした後も変わらぬ態度で接してくれた彼に自分の憧れを重ねてしまっていた。
身分を違えていた王子様の妻となるというのは、女子が夢に描き、心踊らせるサクセスストーリーの代表例であり、恥ずかしながら私もケーニッヒの婚約者と言われた時は胸を高鳴らせた。
良き妻となるよう、良き理解者となるよう、良き支えとなるよう心掛けねばならぬ、と乙女心を震わせていたのだ。
それを……ケーニッヒとシェーアは粉々に打ち砕き、嘲笑うように汚名を着せて踏みにじった。
夢で見ていたから平気だった。
そんなハズは無い。そんなわけは無い。王子の伴侶になるべく努力してきた日々が音を立てて崩れていく事に、何も感じないわけがなかった。
私にとってケーニッヒは初めての交際者だった。
確かにケーニッヒは碌でもない男で浅はかな思考の持ち主だ。
好きだったかと聞かれても、首を縦に振る事は難しい。
だが私にとっては初めて交際した男性だったのだ。
婚約が無かった事になったのは正直良かったと思っているけれど、言われのない汚名を着せられた事まで無かったようには出来ない。
だけどそんな私の思いは、フィエルテにとって何の関係も無い。
私は無意識にフィエルテの皇子という肩書きに甘い夢を重ね、自己の悲しみに酔っていただけだ。
王子様の伴侶という非現実なモノを、現実のモノとして味わっていたかった故に自国の皇子に無礼な態度を取り続けていた。
本当に、馬鹿ね、どうしようもない大馬鹿者。
私もケーニッヒと同じ、浅はかで非常識な愚か者という事ね。
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