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しおりを挟むフィエルテに誘われた私は、特に断る理由も無かったので彼の後に付き城の中庭へ訪れていた。
そこには色とりどりの花が咲き乱れていて、柔らかな風と戯れるようにその身を揺らしていた。
「綺麗ですわね」
「そうだろう? ここは城の皆の憩いの場にもなっているブリリアントガーデンさ。今はファミリアエストが盛りを見せる頃さ」
ブリリアントガーデンには庭師の姿や、設置されたベンチに腰掛けて談笑する使用人の姿があった。
花が咲き乱れる庭園の中程にはこじんまりとした噴水があり、数羽の鳥が浮かんでいた。
「キャロラインは……どうして僕に伝えようと思ったんだい?」
「どうしてと言われましても……伝えなければという一心でしたので……」
「そうか……」
庭園の隅にあったベンチに腰を下ろしたフィエルテは、私の瞳を真っ直ぐに見つめてそう言った。
理由を聞かれても、今言った言葉以外の思いは欠片も無かったので正直困ってしまった。
「なんにせよ……ありがとう。例え君の見た夢が現実に起こらずとも礼を言うよ」
「嘘じゃありませんわ!」
「君を疑っているわけじゃないよ。そもそも僕が死ぬと言って君に何の得がある? 下手をすれば不敬罪および恐喝として捕えられてもおかしくない話なんだ。それを承知で君は僕に僕が死ぬ未来を伝えてくれた。余程の覚悟が無ければ出来ない事だ」
「私は……」
「それと……これは全然関係の無い話なんだけど……キャロラインは僕をどう思っているんだい?」
「どう……って……どういう事かしら?」
フィエルテの質問の意図がよく分からず、質問に質問です返してしまう。
彼は微笑みを浮かべて、私から庭園の花々へ視線を移した。
「そのままの意味さ。君は僕が皇太子と知っていながら……まるで対等のように振る舞う。僕としてはとても嬉しい事だけれども……ね。初めて僕の身分を知った時も、皇帝たる父上と相対したような、驚き慌てる素振りが欠片も見られなかったしね」
「あ……」
「ふふ。言われるまで気付かなかったのかい? それは伯爵という立場をして如何なモノかと思うね。でも……僕は逆にそれが嬉しかったのだけれどね」
そう、彼の言う通り、彼は皇国の跡取りであり、本来ならば私が関わる事もないような存在のお人なのだ。
彼が皇太子という事は充分自覚している。
フィエルテが私をじっと見つめ、私は何も言えなくなって地面に視線を落とした。
その時、不意に脳裏にケーニッヒの姿が脳裏にチラついた。
ぽっと出のシェーアにほだされた浅はかな男の姿が、目の前のフィエルテと何故かダブって見えた。
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