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しおりを挟む「ごちそうさま。美味しかったわ」
「ありがとうございましたー!」
カフェで小一時間ほどゆっくりさせてもらい、私は代金を支払って外へ出た。
店を出る際に時計を見てみたけれど、予定時間にはあと一時間ほどしかなかった。
居心地がよくてつい焼き菓子と紅茶のおかわりをしてしまい、予想外に時間を使ってしまった。
「今から皇城に向かえば三十分程度の余裕を持って到着するだろうし、特に急ぐ必要もないわね」
青果店に並ぶ色鮮やかな果実や、装飾品店のウインドウを見ながら私は皇城へと帰って行ったのだった。
◇◆◇
「や、待たせたかい?」
「大丈夫よ。とても可愛らしいカフェで素晴らしい時間を過ごせたわ」
「そりゃあ良かった。大臣も帰って来ているし早速始めようか」
皇城へと帰り応接室で待つ事數十分、気楽な物言いで室内に入って来たフィエルテに別室へと案内されたのだけれど、連れてこられたのはなんとフィエルテの自室だった。
フィエルテが扉を開けると中には大臣が窓際に立って待っており、私を見ると軽くお辞儀をしてくれた。
「お初にお目に掛かります。大臣のダントンです、お話は伺っています。ささ、こちらへ」
ダントンは部屋の中央に置いてあるカウチへと私を座らせ、対面にフィエルテとダントンが座る。
するとすかさず使用人がどこからともなく現れ、カウチの前にあるテーブルへ紅茶を置いて素早く退室していった。
「話を始めたい所だけど、もう一人呼ばなければならない人物がいるんだけど、何分忙しい身の上だかね、少し待って欲しい」
「えぇ……構いませんわ。でもどなたかしら?」
「君もよく知っている人物だよ」
フィエルテはそう言って私にウインクを飛ばし、ティーカップへ口を付けた。
待っていたのは本当に数分だった。
部屋の扉が二度ノックされると、フィエルテ自らが扉を開けてその人物を招き入れた。
「そんな……!」
私は部屋に入って来た人物を見て、反射的に立ち上がって勢いよく跪いた。
むしろ座って出迎えるなど出来るはずもない。
なぜなら部屋に入って来た人物こそ、ヴィーヴル皇国現皇帝、ヴィクトル・ラ・グラヴィエール・ヴィーヴルその人だったのだから。
「楽にしたまえ。リーブスランドの若き当主よ」
「は! ありがとうございます! 知らぬ事とはいえ、とんだ無礼を働いてしまい申し訳ございません!」
「よい。顔を上げよ、キャロライン・リーブスランドよ」
「は! 不肖なる私に謁見する事をお許しいただきまして、誠にありがとうございます!」
皇帝の許しを得た私は、緊張をなるべく隠しながら顔を上げた。
私の心臓は早鐘のように鳴り、掌にはじっとりと手汗が沸き出てきたのだった。
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