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しおりを挟む「ジョン?」
「ちょっと待ってくれ。君、少し席を外してくれないか? また後ほど呼ばせてもらう」
紅茶の表面をじっと見つめていたフィエルテが、壁際に控えていた使用人を外へと出した。
使用人が退室した後、応接室の扉を薄く開け、周囲に人の目がない事を確認したフィエルテは扉に鍵を掛けて席へと戻って来た。
「あの……何を……?」
ひどく真剣な眼差しのフィエルテに少しドキリとしつつも、意図せずして男性と二人きりになってしまった事態に身が硬くなってしまう。
警戒しているわけではないけれど、鍵まで閉められてしまっては何かあっても逃げられない。
フィエルテが何かをしてくるとは到底思えないけれど、緊張するものは緊張するのだ。
ケーニッヒと二人きりになった時はこんな密室じゃあ無かったし、私からもそれは避けるようにしていたもの。
何を語るわけでもなく、ただじっと私の瞳を見つめてくるフィエルテに一人でドキドキしていると、彼はゆっくりと口を開いた。
「リーブスランド家の助言を無視してはならない」
「え?」
「ヴィーヴィル皇国の王族に伝わる訓示のようなものさ……父上からよく聞かされていたんだけどね。まさかこんなにも早く向き合うことになるとは思わなかったよ」
「え、えぇ?」
ふっと笑うフィエルテの態度とは裏腹に、私の心中は混乱の只中にあった。
リーブスランド家の助言を無視してはならない、というのは一体どういう事なのだろうか。
仮にそのままの意味だとしてもなぜ王族のお歴々が、たかが伯爵位のリーブスランド家を重宝するのかが分からない。
「この言葉が王族内に浸透したのは四世代前からなんだけどね。当時のリーブスランド家は戦果を上げた功績で男爵位を与えられたんだけど……ある日当時の当主が王に進言したのがきっかけと言われている。それからだよ、リーブスランド家の当主の進言、忠言はよく当たる、とね」
「そんな事があったなんて……という事は私の父も……?」
「聞いていなかったのかい? 君のお父上は戦場で将軍を勤めていたんだよ。将軍の采配は素晴らしく、数分後に敵がどう動くかを完全に把握しているようだった、とほぼ伝説のような逸話もある。けど……残念だったね」
「父の事はもう大丈夫です、乗り越えましたから」
「そうか。でもまぁ、そういう事なのさ。だから君の助言は真摯に受け止めたいと思う。詳しく聞かせてくれないか」
「わかりました……では……」
にっこりと笑うフィエルテに促され、私は夢で見た事実を伝えるべく口を開いたのだった。
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