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「……っはぁ! はっ! はっ! はぁっ……!」

 予知夢から現実に引き戻された私は思わず飛び起きて、乱れた呼吸をゆっくりと整えていった。
 どうやらまだ馬車での帰路にいるようで、キャビンに伝わる微細な振動が私を安心させてくれる。
 息を整えた私は窓に手を当て、宵闇に染まる景色を眺めていると、迎賓館で出会ったばかりのフィエルテの懐っこい瞳が脳裏を過る。
 彼が現地に赴くのはいつなのだろうか。
 近日中と言っていたし、明日ではないだろう。
 仮に今からユーターンして皇城へ駆け込んだ所で、時刻は真夜中を過ぎている、門前払されるのがオチだ。
 ならば明日の予定を変更して皇城へと赴き、フィエルテに取り次いでもらうしか無い。
 
「でも……どうやって……知らせると言うの……」

 問題なのはそこだ。
 いきなり押しかけていき、崩落が起きるのを夢で見たから行っちゃダメ、とでも言うのかしら。
 リーブスランド家の力は秘匿とする所であり、父も祖父もその前の代もきっと他言しなかったはずだ。
 いくら私が伯爵位で、迎賓館で少し話した事があるといってもそれだけなのだ。
 フィエルテから信用を得ているワケでも無いし、何か事を為したワケでも無い。
 だからといって、このまま指を咥えてフィエルテが死ぬ運命を傍観出来るほど冷酷な人間でも無い。

「一体どうすればいいの……お父様……!」

 一子相伝、他言無用なこの力、前当主であった父も同じような事態に直面したのでしょうか。
 誰かに相談も出来ないのであれば、父はどうやって困難を切り抜けて来たというのでしょうか。
 力を持っても使い方が分からなければ、道が分からなければ迷走し、宝の持ち腐れとなるでしょう。
 私は窓の外から自分の手へと視線を移し、ぐっと奥歯を噛み締めて手を握った。

「それでも……知ってしまったからには……何としてでも止めないといけませんわね……! 踏ん張りどころよ、諦めちゃダメ、救える命があるならなんとしてもやるべきよね。そうでしょ? お父様」

 荒唐無稽な話だとしても、誠意を持って話せばきっと伝わるはずよ。
 フィエルテが聡明で理解のある人だと信じたい。
 でなければ……彼は若くして命を落とす事になる。
 私の心は外の宵闇の空と同じように暗く、人知れず課せられた使命は重く、ともすれば吐きそうになるのを胸に宿した決意でぐっと押し留めたのだった。
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