22 / 82
21
しおりを挟む悔しそうな顔の大臣を尻目に、私は建物から出て山肌にぽっかりと口を開ける坑道へと向かいました。
坑道の前にはいくつものトロッコが並び、何十人もの人が集まっていました。
「そんなわけだ……逆らえば皆殺される。従うしかない」
「横暴すぎる! 俺達をなんだと思っているんだ!」
「怒る気持ちはわかる。俺だって同じ気持ちだ……だがやるしかない」
「ごちゃごちゃ揉めてても仕方ねぇ! 斬り殺されるぐれぇなら山の岩を抱いて死んでやるよ!」
鉱山関係者と坑夫が先ほどのやり取りを聞き憤っていたけれど、坑夫の一人がツルハシとロープを肩に担ぎ、トロッコのヘリに手をかけて奮起するように怒鳴っていた。
それに触発されるように他の坑夫達もそれぞれ道具を手に持って、坑道の中へと入って行った。
私も彼らに習い、共に進んでいきましょう。
◇◆◇
坑道はトロッコのレーンが二本伸びており、その両脇は人が一人通れるほどの間隔しかない。
坑夫は移動用のトロッコに乗り、順次奥へと向かっていく。
私もその一つに上がり込み、ぎっこぎっこと鳴る滑車と歯車の音を聞きながら坑夫達の顔を見る。
坑夫達はみな一様に暗い顔をしており、指を擦り合わせたり、ツルハシを磨いたりと不安を紛らわせていた。
「一体全体何がどうなっちまったってんだ? 俺ぁその場にいなかったから知らねぇんだ」
「俺も詳しくは分からんが、地滑りか落盤らしい」
「崩落した区画は休憩所もほど近いから運良くそこに逃げ込めていれば……」
「けどこの小さな揺れはなんだ? おっかなくて仕方ねぇ」
「山神様がお怒りになってるんじゃあねぇだろうな」
坑夫達が思い思いに話を進めていると、トロッコが軋みながら停止した。
ここからは歩きになるようで、坑夫達はランタンを掲げながら側面に掘り抜かれた横道へと入って行った。
坑道は木材でしっかりと補強されているが、坑夫達の言うように微弱な振動が時折発生しているらしく、路肩に落ちている小石がカタカタと揺れているのが見えた。
二十分ほど横道を歩くと少し開けた場所に出たのだけれど、私はそこの光景を見て息を飲んだ。
ここから先に通じているであろう道が大量の土砂と岩石により塞がれていたのだ。
この土砂と岩石を取り除くのは一筋縄ではいかないだろう事は、素人の私でも想像が出来た。
しかも先ほどから続く振動により土砂が少しづつ広がりを見せている。
確かにこれでは二次、三次被害が起きたとしても不思議ではない。
けれど今の私にとってこの土砂と岩石はなんの障害にもならない。
雨や人に触れられないと言う事は、この土砂であっても私を阻むことは出来ないのです。
「……行きましょう」
これは夢であり、私自身には何の被害も起きないと分かってはおりますが、緊張するものはするのです。
深呼吸を一度した私は、意を決して土砂の中に身を埋めて行ったのです。
0
お気に入りに追加
2,977
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。
window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」
弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。
結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。
それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。
非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる