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 悔しそうな顔の大臣を尻目に、私は建物から出て山肌にぽっかりと口を開ける坑道へと向かいました。
 坑道の前にはいくつものトロッコが並び、何十人もの人が集まっていました。

「そんなわけだ……逆らえば皆殺される。従うしかない」

「横暴すぎる! 俺達をなんだと思っているんだ!」

「怒る気持ちはわかる。俺だって同じ気持ちだ……だがやるしかない」

「ごちゃごちゃ揉めてても仕方ねぇ! 斬り殺されるぐれぇなら山の岩を抱いて死んでやるよ!」

 鉱山関係者と坑夫が先ほどのやり取りを聞き憤っていたけれど、坑夫の一人がツルハシとロープを肩に担ぎ、トロッコのヘリに手をかけて奮起するように怒鳴っていた。
 それに触発されるように他の坑夫達もそれぞれ道具を手に持って、坑道の中へと入って行った。
 私も彼らに習い、共に進んでいきましょう。



◇◆◇



 坑道はトロッコのレーンが二本伸びており、その両脇は人が一人通れるほどの間隔しかない。
 坑夫は移動用のトロッコに乗り、順次奥へと向かっていく。
 私もその一つに上がり込み、ぎっこぎっこと鳴る滑車と歯車の音を聞きながら坑夫達の顔を見る。
 坑夫達はみな一様に暗い顔をしており、指を擦り合わせたり、ツルハシを磨いたりと不安を紛らわせていた。

「一体全体何がどうなっちまったってんだ? 俺ぁその場にいなかったから知らねぇんだ」

「俺も詳しくは分からんが、地滑りか落盤らしい」

「崩落した区画は休憩所もほど近いから運良くそこに逃げ込めていれば……」

「けどこの小さな揺れはなんだ? おっかなくて仕方ねぇ」

「山神様がお怒りになってるんじゃあねぇだろうな」

 坑夫達が思い思いに話を進めていると、トロッコが軋みながら停止した。
 ここからは歩きになるようで、坑夫達はランタンを掲げながら側面に掘り抜かれた横道へと入って行った。
 坑道は木材でしっかりと補強されているが、坑夫達の言うように微弱な振動が時折発生しているらしく、路肩に落ちている小石がカタカタと揺れているのが見えた。
 二十分ほど横道を歩くと少し開けた場所に出たのだけれど、私はそこの光景を見て息を飲んだ。
 ここから先に通じているであろう道が大量の土砂と岩石により塞がれていたのだ。
 この土砂と岩石を取り除くのは一筋縄ではいかないだろう事は、素人の私でも想像が出来た。
 しかも先ほどから続く振動により土砂が少しづつ広がりを見せている。
 確かにこれでは二次、三次被害が起きたとしても不思議ではない。
 けれど今の私にとってこの土砂と岩石はなんの障害にもならない。
 雨や人に触れられないと言う事は、この土砂であっても私を阻むことは出来ないのです。

「……行きましょう」

 これは夢であり、私自身には何の被害も起きないと分かってはおりますが、緊張するものはするのです。
 深呼吸を一度した私は、意を決して土砂の中に身を埋めて行ったのです。
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