隣国の王子に婚約破棄された夢見の聖女の強かな生涯

登龍乃月

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「一体どういう事なのかしら……?  ジョンと私に何の関係が?」

 幾つもの疑問が頭に浮かんでくるが、今はそれを考えている場合ではないわね。
 この予知夢の顛末と結末を知らなければならない、知る義務がある。
 いつ覚めるかも分からないこの夢、ヴィーヴィル皇国の皇子であるフィエルテが関係しているのなら急がなければならない。
 漫然と景色を眺めていた先ほどまでの私を叱咤してやりたい気分だった。
 私は急いで足を動かして馬車の止まっている大きな建物の中に飛び込んだ。
 室内には十数人の男女がおり、数人の皇国騎士と皇国大臣の姿もあった。
 そして彼らは何やら言い争っているらしいのだけど、その内容が聞こえない。
 彼らの言葉が私に届くように意識を集中させていくと、徐々にだが言葉が聞こえるようになってきた。

「救護班と救出班を急ぎ撤退させるんだ!」

「しかしそれでは!」

「鉱山の中で微細な振動が続いている! このままいけば救護班と救出班も二次、三次被害に繋がる可能性もあります!」

「だからと言って! フィエルテ殿下をこのまま見捨てろとでも言うのか!」

「あれだけの崩落です! 存命は絶望的です!」

「口を慎め無礼者が!」

「あぐっ!」

「ジョンが……崩落に巻き込まれたのね」

 鉱山関係者と見られる男性が騎士の一人に殴打されて床に転がる様を見ながら、私はこの予知夢が何を示しているのかを悟った。
 さらに追撃を加えようとする騎士を大臣が手で制し、真剣な面持ちで他の鉱山関係者の男性に言い放った。

「犠牲が出てもかまわん。皇子の救出が最優先だ!」

「そんな! 我々の命はどうなってもいいと言うのか! 死にに行けと言っているようなものだぞ!」

 激昂する男性は敬語を使うことも忘れ、大臣に言い寄っている。
 
「その通りだ。鉱山に従事する貴殿らには感謝している、しかし、皇子の命と貴殿らの命、天秤にかけるまでもない」

「貴様ぁ!」

 大臣の冷徹な物言いに、我慢の限界を迎えたのであろう男性が殴りかかるが……男性の拳が届く前に騎士の剣が煌めいた。
 
「ぐ……くそぉ……」

 騎士の剣により背中をばっさりと斬り付けられた男性はくぐもった声をあげて床に倒れ、段々と瞳の光を失っていった。
 気付けばこの場にいる騎士全員が抜剣しており、切っ先を鉱山関係者へと向けている。
 逆らえば男性のようになる、と暗に示しているようだった。

「もう一度言う。撤退は無しだ。そのまま救出を優先させろ」

「悪魔め……!」

「何か言ったか」

 憤怒の形相で大臣と騎士を睨みつける女性に剣が向けられ、女性は俯いてしまった。
 鉱山関係者はやりきれない顔をし、大臣達を睨みつけながらも外へ出ていった。
 いくらなんでもこれはやり過ぎではないか、と私は思ったけれど、大臣達の気持ちも分かるし、鉱山関係者達の気持ちもよくわかる。
 労働者の命か、皇子の命か。
 究極の二択を迫られる大臣の胸中も、冷徹な表情とは裏腹に穏やかではないだろう。
 全ての鉱山関係者が外に出た後に見せた、大臣の歯を食いしばって虚空を見つめる悔しそうな表情がとても印象的だった。
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