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しおりを挟む「本日はご多忙の中、ご来館誠にありがとうございます。まず初めにグリフォーネ商会、現最高責任者、セルジュ商会長よりご挨拶がございます。それではよろしくお願い致します」
私を案内してくれたメートル・ドテルが、金属で出来た短筒を手に司会を進めた。
あの短筒は、使用者の声を増大させて聞こえる範囲を拡大するマジックアイテムで、開発者のイニシャルを付けて【ブイ・エクステンド】と呼ばれているらしいわ。
希少価値が高く、世にはあまり流通していないもので、私も見るのは初めてですの。
「むほん! 紹介に預かりましたセルジュ・ジェンテローニでございます。今日は思う存分飲んで食べて、交流を深めて頂きたい。もちろん席移動をして頂いても構いませんぞ? さて、長々と話すのも興が冷めるというもの。私からはこれくらいにして、サプライズゲストへと話を繋ぎましょう。国を離れ、遠方の地で勉学に励んでいた……王太子へと」
あら、王太子様がいらしてるのね。
それは確かにサプライズだわ。
でも……遠方で勉学に励んでいたって……?
私が頭の中であれこれ考えていると、お歌と見られる人物が席を立ってセルジュの元へと歩み寄る。
銅色の髪に懐っこそうな瞳をした青年は、セルジュからブイ・エクステンドをバトンのように受け取り、会場を端から端まで見回した。
「皆さんこんばんは。ヴィーヴル皇国第一皇子、フィエルテ・コルベール・ヴィーヴルだ。今日はこのような会に呼ばれた事を光栄に思う。父上は多忙の身ゆえ、参列することは出来ないが、父の代理として非礼無きよう務めたい」
「あ……やっぱり……!」
遅すぎず早すぎず、言葉の間隔と抑揚を巧みに調節して会場の視線を一身に受けながら話す青年、それは先程私と会話し、ジョンと名乗ったあの青年だった。
「あの方、王太子様だったのね……。でもなぜ身分を隠したのかしら……?」
遠方で勉学に励んでいたというキーワードを聞いた時、私の中で何となくあの方の顔が思い浮かんだのだけど、やはり間違いではなかったようだ。
「さて、今回の懇親会の目的だが、聡明なる皆は既に理解していると思う。我が国ヴィーヴルにおいて非常に重要な位置付けにある貴族の一人が二ヶ月前にこの世を去った。そしてそれを引き継いだ方がいる。今日はその方へのサプライズ、キャロライン・リーブスランドの爵位継承記念パーティーとなる!」
「はぇ!?」
王太子が声高に言うと、会場からは割れんばかりの拍手が湧き上がり、音楽隊が華やかな曲を流し始めた。
唐突の出来事に私がワタワタしていると、セルジュが私の席に歩み寄り、強引に席から立ち上がらせたのだった。
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