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しおりを挟む予定時刻が近付き、バーフロアに続々と集まる今日の客人達。
私はセルジュに付いて回る形で方々に挨拶を交わし、お決まりの言葉をやり取りする。
集まったのはヴィーヴル皇国の大物貴族や、 地方領主、騎士団の幹部連の方々など、実に多彩な取り合わせでした。
各々好きなお酒を手に、葉巻や紙巻タバコを口にして思い思いに煙を吐き出していた。
「噂には聞いていましたけれど……コホッコホッ、こんなにも吸われる方が多いのね……うぅケムイ……」
口と鼻をハンカチで押さえ、立ち込める煙の薄い方へ薄い方へと逃げるようにさまよう私。
ようやく小窓の側まで辿り着いて少しだけ窓を開けると、新鮮な空気が肺を満たしてくれた。
外は黄昏から夜へと変わりつつあり、ダークブルーの空がとても美しく見える。
「こんばんは」
「え? あ、こんばんは、ご機嫌いかがかしら?」
煙草の煙のせいで注意力が散漫になっていた私の背後から、聞きなれない青年の声がした。
私は慌てて振り向いて、誰だか分からない青年に微笑みを返した。
「初めまして。僕の名前は……ジョンと言う」
「初めまして、私は……」
「大丈夫、知っているよ。若き伯爵家当主、キャロライン・リーブスランド、だろ?」
「え、えぇまぁ……そうですけれど……どこかでお会いしました? もし会われていたならごめんなさい。非礼をお詫び致しますわ」
「まぁ会っていると言えば会っている、かな? ここ数年は留学で国内に居なかったから忘れられていても仕方が無い」
「まぁ! ご留学なされていたのですか!? 素晴らしいですわ! どちらの国に出向いていらっしゃったの?」
ヴィーヴル皇国では珍しくも無い銅色の髪を総髪に整え、スマートな礼服に身を包んだ青年は白ワインを片手に苦笑いを浮かべていた。
ぱっちりとした丸型の目は、仔犬のようなあどけなさを残しつつ、しっかりとした芯が垣間見える琥珀色。
「北方にあるバルトランドさ」
「バルトランドって……フリーザース海に浮かぶあの島?」
「へぇ、よく知ってるね」
「そうかしら? 海洋研究で有名な国ですもの、知っていて当然かと」
「これは手厳しいな。ところがね、知らない方も非常に多いのさ。残念な事にね」
「あら……そうなのね。ヴィーヴル皇国からはかなり距離があるから知らない人がいてもおかしくないわね。ごめんなさい、自分の尺度で話してしまったわ」
「いやいや! 謝る必要は無いよ!」
「ありがとう、お優しい方なのね。バルトランドに留学なされたと言う事は貴方は海洋研究に?」
「んー……いずれは、ね。ほら、この国の国土は海に面している場所が少ししかないだろう? けど世界は海の向こうにも広がってる。でも現状はモンスターや海流のせいで密な国交を結ぶのは中々難しい。だからこそ海の研究が必要なんじゃないか、って僕は思うのさ」
「へぇ……お若いながらもしっかりとした考えをお持ちなのね」
「お褒めに預かり、光栄の極みにございます。伯爵閣下」
お互いにグラスを傾けながら、窓から入り込む夜風と共に質の高い話を交わしていると、どこからが小さな槌を鳴らす音が聞こえた。
「お集まりの皆様、開宴のお時間でございます。どうぞごゆっくり中へとお進み下さいませ」
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