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「なぁシェーア。君の言った事は本当だったのかい?」

「ん? なぁにぃ突然……」

 ドリアム城の一室、ケーニッヒの自室にて男女の囁き声が漂う。
 灯りを消された室内、床には乱雑に脱ぎ捨てられた衣服が散らばり、声の主の体はベッドにあり、互いを抱き寄せている。
 キャロラインを追い出した後、舞踏会は恙無く行われて婚約に関しての発表も終わった。
 ケーニッヒはキャロライン・リーブスランドとの婚約を白紙に戻し、大公の娘であるシェーアとの婚約を発表したのだ。
 シェーアの幼い体がケーニッヒにまとわりつき、四肢を絡めるその姿は小さな蜘蛛を連想させる。
 ケーニッヒの首筋に赤い舌がチロチロと這い周り、その都度ケーニッヒは小さな呻き声のようなものを上げる。

「キャロラインが子供を攫い、売り飛ばしているって」

「んふ……私の事が信用出来ないって言うの? 公爵たる私のお父様が仕入れてきた情報よ、私を疑うって事は……お父様を疑うのと同じよ?」

「疑っているわけじゃない。君みたいな素敵な子が嘘を言うわけがないだろ。ただ……何故そんな事をしていたのか、って思ってさ」

「優しいのね……そんな所も素敵よ……あ、な、た」

「う……」

 シェーアがケーニッヒに伝えたのはキャロラインの行っていた非道の数々、数多の子供を攫い売り飛ばしては私腹を肥やし、処女の生き血を飲み、数えきれないほどの男を誑かしてきた、というものだ。
 勿論話はそれだけではなく、隣国であるヴィーヴル皇国の非合法組織と繋がっている、だとか害のある薬物を乱用し、領民を洗脳している、などの荒唐無稽な話が多数あった。
 普通に考えればおかしい話だというのに、ケーニッヒの頭脳ではそこまで辿り着く事が出来なかった。
 実際に被害にあったという女性と会わされ、慰めて欲しいと懇願されてその女性を抱いた時もあった。
 思慮が浅く、思い込みが激しく、第一王子という立場ゆえ自分の考えは間違っていない、と信じ込む。
 それがケーニッヒという男だった。
 容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、この三つのうちで彼を表すなら、容姿端麗という部分だけが突出しており、あとの二つは地に埋まっているようなものだ。
 現王はそんなケーニッヒを案じているが、本人はどこ吹く風と全く意に介しておらず、あまつさえ自分の考えを理解出来ない愚物だとすら思っている。
 
「あなたは……私のモノよ……? この国も……ね……んふふふ」

 月夜に照らされ、ケーニッヒの上に乗るシェーアが壁に投影される。
 シェーアの怪しげな呟きはケーニッヒには届かず、静かに暗闇に溶けていった。
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