欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四六〇話 反撃

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「行くぞ」

 そう言うと同時にまず狙うは、

「私ですか! お相手しま……っかは……」

 ピンク。
 遠距離でチクチクやられてリズムを乱されては困る。
 右、左とフェイントを掛け、鳩尾に一発。
 女の子を殴るのは卑怯とか言う人もいるが、これは試合だ。
 容赦なくピンクの意識を刈り取り、そっと地面に寝かせる。

「ぬうん!」
「遅いぞブラック」

 俺の動きに追従したのか、背後からブラックの剣が走るがそこに俺はもういない。
 ブラックを背後に置き、そのままブラウンとホワイトを仕留めにかかる。
 それぞれの獲物を振りかぶり両サイドからの挟み撃ち。
 
「腕は盾なり、拳は戦鎚なりて」

 強固なイメージで腕を硬質化し、それぞれの獲物に打ち合わせる。
 ガギン、という硬質な音がなり純粋なパワー勝負となる。
 
「く……さすがに片腕一本じゃ押されるか」

 拮抗してはいるが、かち合った腕がジリジリと押し込まれているのがわかる。
 体重をずらし、獲物をはね上げ、ブラウンの腹部に回し蹴りを叩き込み、ホワイトのみぞおちに掌底を入れた。
 白目を剥きその場に崩れ落ちる二人を横目に残る一人に視線を向けた。

「くくく……よもや、よもやここまでとは思わなかったぞ隊長」

「隊長の意地ってやつかな」

「言ってくれる」

「まだやるかい?」

「無論! ちぇええい!」

 剣の切っ先を地面スレスレに置き、流れるような動きで詰め寄るブラック。
 俺はそれに合わせて剣を構え、流線を描いて放たれた剣撃に真正面から刃を合わせた。
 ブラックの呼吸が分かるほどの至近距離、合わせた刃がギチギチカチカチと音を奏でる。

「隊長」

「なんだ?」

「感謝している」

「それ今言うかよ」

「言いたくなったのだ」

「そうか」

「そうだ」

 ブラックのパワーはブラウンやホワイトの比ではない。
 膂力で言えばトムに匹敵するのではないだろうか。
 もしかすると自我が有るなしで出せる力が違うのだろうか。
 ブラウンとホワイトも早く自我が戻って欲しいものだ。

「終わらせるぞ」

「そのようだな」

 ほんの一瞬張り合っていた力を抜くと、ブラックの体勢が僅かに崩れた。
 しかしブラックもやはり百戦錬磨の猛者である。
 刹那のパワーバランスを見切り、瞬時に体勢を立て直すが--。

「勝負あり、だろ?」

「く……参った」

 刃がズレた一瞬、その一瞬で俺は剣を流し、剣先をブラックの喉元に当てたのだった。

「文句無しの完敗だ」

「えっへん」

 深いため息を吐いたブラックは両手を上げ、首を左右に振った。
 ピンクやブラウン、ホワイトも、意識を取り戻したのかゆっくりと立ち上がって俺の方に歩いてきた。

「さすが隊長、やられちゃいました」

 ピンクが心底悔しそうに口をへの字に曲げて肩を竦めている。
 ブラウンとホワイトは相変わらずの仁王立ち。
 
「すごい……」

 と、そこでここにいるはずの無い幼い声が聞こえた。

「ボス凄い!!」

「アーサー!?」

 家で待っているはずのアーサーが茂みからひょっこりと顔を覗かせ、目をキラキラさせていた。

「ピンク」

「はい!」

「何でアーサーがここにいるんだ?」

「実はですね……」

「違うんですボス! 僕が連れて行って欲しいってお願いしたんです」

「と言うと?」

「その先は私から、ブラックの思念が届き、家を出ようとした際にアーサーに勘付かれまして……ボスの本気の戦いを見たいと懇願されたのです」

「そうなのか」

「はい」

「ボスごめんなさい、プルミエールさんとの戦いを見て、あれよりも凄いのかなって思ったらいてもたってもいられなくて」

 と、アーサーはピンクの服の裾をキュッと握って俯いてしまった。
 
「アーサーは戦いが好きなのか?」

 純粋な疑問だった。
 
「好きなのかな……わかんない……んですけど、でもカッコイイな、凄いな、僕もボスやプルミエールさんやマムみたく強くなりたいなっていう気持ちはあるんです」

「そうか」

 アーサーは十歳、確かに戦いに興味が出てくる歳頃だとは思う。
 英雄譚やら冒険譚などがよく読まれる世代だし、剣術や武術などを習い出すのも確かそれくらいの歳の子達が多いと聞く。

「今の戦いを見て、どう思った?」

「え……?」

「純粋な感想でいいよ。アーサーが感じたままに教えてくれ」

「えっと……かっこよかったです。全然何が何やら分からなかったけど、凄いしかっこよかった」

「そっか。アーサーもそうなりたいか?」

「なりたいです!」

「なら、ピンクとプルミエールに稽古してもらうといい。きっといい先生だぞ」

「ボス……!」

 アーサーは怒られると思っていたのか、終始所在なさげにしていたが、俺の言葉を聞いて顔がパッと明るくなった。
 瞳は輝き、頬は僅かに上気していてとても嬉しそうだった。
 ピンクに「良かったね」と頭を撫でられるアーサーと、それを慈しむように見つめるピンクはもう、完全に母と子だった。
 
「ブラック、俺はそろそろ帰るぞ」

「そうか、了解した。手合わせすまなかったな」

「いいいよいいよ。俺こそまた頼む」

「そう言ってくれると嬉しい」

「早く、戻るといいな」

「そう、だな」

 仁王立ちをしてピクリとも動かないブラウンとホワイトをちらりと見ると、ブラックは口角を僅かに上げて言った。
 
「俺とピンクが戻ったんだ。アイツらも必ず戻る、俺はそう信じてるよ」

「だ、な」

 会話を終えてブラックと握手を交わし、フライを発動。
 ピンクに遅くならないよう言いつけた俺はそのまま空へと舞い上がった。

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感想 116

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みんなの感想(116件)

断空我
2025.02.05 断空我

|⌔•..)チラッ

解除
mame
2019.11.09 mame

まだかなぁー(((o(*゚∀゚*)o)))

登龍乃月
2019.11.09 登龍乃月

お待たせしました!

解除
玲羅
2019.09.20 玲羅
ネタバレ含む
登龍乃月
2019.09.22 登龍乃月

感想ありがとうございます!
プルとピンクの恋愛観に関してはちょっと偏りがあるかもしれませんね。
フィガロの役に立ちたいと思ったゆえにあんな感じになってしまったのでしょう。
玲羅さんの考えは決してマイノリティじゃあないと思いますよ!

解除

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