欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四五八話 手合わせ?

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「は!? いやまってよ、何でそうなるんだ!?」

「俺が隊長と戦ってみたいからだ」

「……俺では役不足って言いたいのか」

「そうではない。元隊長、トムさんを葬りロンシャンにおける反乱戦争を収束させた第一人者と拳を合わせたい、ただそれだけだ」

「……分かった」

「悪いな。表で待っていてくれ」

 ブラックはそう言うと奥の部屋に引っ込んでしまった。
 彼が言ったいい口実というのは俺と戦えるから、ということ。
 一応理由はあるようだけどブラックは元からそういう……戦闘民族みたいな気質だったのだろうか?
 強い奴にワクワクするような感じの……。
 どこだっけな、南方の大陸にそんな種族がいたはずだ。
 ケルナグール……違うな、ナックルズ……いや違う……そうだ、フォーリア族だ。

「待たせたな」

「あ、うん……っておい……それアリか?」

 俺がそんな事を考えていると小屋の扉が開いてブラックが姿を現した。
 ブラックはいつもの鎧をしっかりと着込み、手には二振りの長剣が握られている。
 
「大丈夫だ、刃は潰してある」

「いやそういう事じゃないよ! 鎧まで着込んで! 手合わせ的な感じじゃないのか?」

「手合わせのつもりだが? 俺達でな」

「俺、達……ってまさか!」

「ふ……」

 片方の口角を上げ、不敵に笑ったブラックの思惑を示すように小屋の地下室から二人の人物が上がってきた。
 誰かは分かる。
 未だ自我が戻らない強化兵、ブラウンとホワイトの二人だった。
 ブラウンとホワイトも、それぞれに己の得意とする武器を持っている。
 
「大丈夫だ、刃は潰してある」

「だからそう言う事じゃあないだろって! 強化兵三人がかりって本気で言ってるのか!」

「俺達強化兵は隊長の部下、それは変わりないがやはり強い者と戦いたい。俺達の中に埋め込まれた戦闘衝動がそう告げている」

「だからって」

「卑怯だ、と?」

「いや……卑怯っていうか……これじゃリンチじゃないか?」

「馬鹿を言え、トムさんは俺達四人と互角に戦ってた。トムさんに出来て隊長に出来ないわけがない」

「えええ……」

「どうした? 怖いのか?」

「べ、別に怖いってわけじゃないさ! いいよ、やってやろうじゃんか」

「そう言ってくれると思っていた。そら」

「うおっとと……剣を投げるなよ、危ないだろ」

 不敵な笑みを浮かべたままのブラックは俺に向けて長剣を放り投げ、戦闘態勢に移行しているブラウンとホワイトの前に立った。
 そして長剣を青眼に構え——。

「行くぞ」

「来い!」

 ブラックは音も無く地面を蹴り、一直線にこちらへ向かって来た。
 ブラウンとホワイトは左右に広がって同じ速度で詰めて来る。
 左右と正面の同時攻撃か。
 速い、けど見切れないほどじゃない。
 
「【ブラックアウト】」

「はぁっ!? 魔法有りとか聞いてない!」

「油断大敵、というやつだ」

「そういう問題かっ!?」

 三人を視界に捉えながら対処法を考えていた時、唐突に視界が黒く染まって何も見えなくなった。
 視覚を奪う状態異常魔法、まさかブラックがこんな魔法を使えるとは思ってもみなかった。
 確かにブラックの言う通り、剣のみの戦いだと思い込んでいた俺の失態だ。
 しかし今悠長に考えている時間はない。
 ここで止まっていれば三人の攻撃をモロに喰らってしまう。
 俺は急いで数メートル後方に飛び退がり、前方にいるであろう三人の気配を追う。
 しかし——。

「気配が、消えた?」

「違うな」

「うっそだろ!?」

 前方にいるはずのブラックの声が背後から聞こえ、俺は咄嗟に自分自身を地面に叩きつけるように身を投げ出した。
 一瞬遅れてブラックの振るう長剣の空を切る音が頭上で聞こえた。

「さすがだ隊長! だがまだ!」

「全方位【エアブラスト】!」

「何っ!?」

 すかさずブラウンとホワイトの追撃が来る事を踏まえ、上と左右に低級風魔法を発動させた。
 風の衝撃波が周囲を舐めたと同時にフライを発動、俺は射出された砲弾のように勢いよく前方にすっ飛んで行った。
 これで即座に三人の攻撃がくる事は無いし、ブラックアウトの効果時間は三十秒、そろそろ効果が切れてもいい頃だ。
 フライでこのまま空に上がり、魔法で一発決めてもいいかと思ったが流石にそれは卑怯な気がするのでフライを解除した。
 しかしながらこの時俺はまたしても油断をしていた。

「っつぅ!」

 フライを解除した瞬間脇腹に鈍い痛みを感じ、思わず身を捩る。
 そして立て続けに二発、三発と脇腹にめり込む何か。
 四発目が体にめり込んだ所でそれを掴み、うっすら見え始めてきた視界に入れる。

「弓矢だって!?」

 俺の手に握られていたのは練習用の殺傷能力の無い鏃が付けられた弓矢、ブラックもブラウンもホワイトも弓を持っていなかったのに一体どこから射出されたと言うのか。

「せいやあああ!」

「くそっ!」

 不意に食らった弓矢のせいでブラック達への注意が逸れ、接近を許してしまう。
 今まさに左肩へ振り下ろされそうな長剣を認め、不安定な態勢ながらも長剣を受け止めるべく俺も剣を走らせた。
 ガキン! という鈍い音が鳴り、防御に成功したと思ったのも束の間、休む間も無く左右から挟み込むようにブラウンとホワイトの武器が迫る。

「んなろうう! 【アンチマテリアル】!」
 
 両サイドに出現した対物理障壁が、ブラウンとホワイトの攻撃を防いでくれた。

「やはりやる!」

「どーも! どっせい!」

 ブラックの長剣を力任せに跳ね上げて再び後方に下がるが、今度は背中に二本の弓矢がめり込んだ。

「なん……で……!」

 次の射撃から逃れるべく身を捩り、弓矢が放たれたであろう場所に目を向ける。
 そして俺は新たな事実を知った。

「ピンク! 何でここに!」

「隊長! お覚悟を!」

 俺が目を向けた先には茂みの中に立ち、ロングボウを構えて照準を俺にピタリと合わせたピンクの姿があった。
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