欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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3巻

3-1

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 冒険者として登録するため、俺――フィガロは、自由冒険組合ランチア支部所を訪れていた。
 総括支部長オルカとの面談をて、演武場へ移動。そこで魔法の適性試験をクリアした俺は、特例が認められ、剣技試験抜きで別室へ通された。
 通された部屋は簡素な造りになっていて、石床いしどこやレンガで作られた壁がき出しになっている。
 中央に事務机が置いてあり、机と向かい合わせに木製の椅子が四脚置いてあった。
 年季が入った色合いの事務机の前には、自由冒険組合の事務官であろう人物が座っており、書類をにらんでいた。
 事務官は眼鏡をかけた、感じの良い青年だった。俺が入室すると、柔和にゅうわな笑みを浮かべてくれる。

「こんにちは」
「こんにちは、よろしくお願いします」

 俺が着席すると、青年は簡単な挨拶あいさつの後、自由冒険組合の規則や注意事項の説明を始めた。
 低等級でいる間は、色々と細かい制限が多いらしい。
 自分の実力をきちんと把握する必要性や、油断しているとモンスターに殺されてしまうという基本的な心構え。
 また、個人的に受けた依頼は自由冒険組合の補償や優待などの対象外であることや、相応ふさわしくないと判断された場合は、等級の剥奪はくだつ、降格もありえることなど。
 駆け出しの冒険者にはありがたいお話だった。
 他にも、冒険者には【八つの遵奉じゅんぽう】という規律があり、それを遵守じゅんしゅせよ、と言われた。


 おごり高ぶるなかれ
 勇気と蛮勇ばんゆうを取り違えるなかれ
 弱者には手を差し伸べよ
 正直であれ
 名声を求めるなかれ
 冒険を敬愛せよ
 未知への貪欲どんよくさを忘れるべからず
 不要な殺戮さつりくは控えるべし


 これらが【八つの遵奉】だった。
 規則の説明を受けた後は登録の書類に記入した。そして、「良い冒険を」と事務官から鉛色に鈍く光る十等級ルーキーのタグを受け取った。
 簡単に整理すると、自由冒険組合には等級という制度がある。
 十等級ルーキーから一等級エース一等級エースから上は、銀等級シルバー白金等級プラチナム、ミスリルに上がっていく。
 一等級エースまではゴロゴロいて、銀等級シルバー白金等級プラチナム、ミスリル、と上がるにつれ、その数も減っていく。
 そしてアダマンタイト、ヒヒイロカネの冒険者はほとんど存在しない。伝説的、英雄的な強さを持ち、冒険者のいただきにいる、皆のあこがれのような存在らしい。
 ランチア支部には銀等級シルバー白金等級プラチナムやミスリルこそ在籍しているものの、それ以上の境地に至る冒険者は、まだ一人も出ていないそうだ。
 目安ではあるが、隣国で剣聖と呼ばれる人物――つまり俺の兄様、ルシウス・アルウィンがヒヒイロカネと同程度だと言われている。
 さて、依頼に関しては、事故や人的被害を防ぐために、適正等級以上の依頼は受けられないようになっている。それでも、自分の実力を過信した冒険者による死亡事故が後を絶たないのだとか。
 一週間に一度、実技と面談による昇級試験が行われ、合格すれば一つ上の等級へ昇格する仕組みらしい。
 自由冒険組合が斡旋あっせんする依頼は、大きく分けると討伐系コンクエスト採集系サーチの二つ。
 討伐系コンクエストは、害となるモンスターや異常繁殖してしまったモンスターを対象にする討伐依頼や、武具や装飾品、特殊な薬品などに使うモンスターの素材を集める狩猟依頼がある。
 採集系サーチは、回復薬やその他一般薬の原料となる様々な薬草や植物を探したり、昆虫類や特殊な木材など依頼に応じた素材を集めたりする依頼が多い。
 中には鉱山に潜り鉱石などを掘る、などの冒険者とは無縁そうな依頼もあり、その依頼の種類はかなり多岐たきにわたる。
 聞くところによれば、採集系サーチの依頼だけをやっていても生活には困らないのだそうで、それ専門のパーティもいるらしい。
 基本的に自分の等級内であれば、どのような依頼を受けても構わないが、組合が危険だと判断した場合、人員追加を指示される事もあるんだとか。
 これも冒険者の命を守る措置なのだろう。
 人員追加を断って無理やり依頼先へ行った結果、無残にも全滅、というケースが多いため、基本的に断る冒険者はいないらしい。
 命大事に、ってことだな。
 帰ってくればまた行ける、帰れなければ……そこで人生が終わるのだから。
 依頼を受け、そのモンスターから取れる素材や、依頼された品物以外の素材は、組合に併設されている素材管理部が、優先的に買い取ってくれる仕組みになっている。
 素材にはランクがあり、高ランクの物は高値で取引されている。
 その中で高品質と見なされるのは、状態のいい物や付加価値のある物、希少な物など。
 ぎ取りで得られる素材は、剥ぎ取りの技術が問われるため、価格の変動が大きいそうだ。
 依頼などでパーティを組みたい場合はどの職と組みたいか、条件、報酬の振り分けなど、細々した項目を申請書に記入し、組合の依頼掲示板に張り出せばいい。


       ◇ ◇ ◇


「やぁ、おかえりフィガロ。登録は無事終了したようだな。最後に、例の従魔を見せてもらいたいのだが」

 冒険者としての説明を受けた後、俺は最初に案内された部屋に戻ってきていた。
 どうやらこの部屋は、オルカ支部長の執務室兼私室になっているらしい。
 天井の高さも部屋の広さ的にも、ここでクーガを出しても問題はなさそうだ。

「分かりました。では少し離れていてください、私の従魔は結構大きいので」
「あい分かった。ここらでいいかね?」

 オルカ支部長は窓際まで下がり、広背筋を見せ付けながらポージングをキメた。

「だ、大丈夫かと。クーガ、出てこい」
『オン!』

 いつも通りに影の中から出てきたクーガは一度俺の周りをぐるりと回り、左隣に座って落ち着いた。

『マスター、あの岩のモンスターは?』
「あの人は自由冒険組合のえらい人だ。礼儀正しくしような」
『は、マスターの仰せのままに』
しゃべった……? は……はは……こりゃすごい……」

 オルカはクーガの姿を目の当たりにするとポージングをやめ、引きつった表情でクーガを見つめていた。
 対してクーガは尻尾をゆっくりと床に打ち付けて、オルカの様子をうかがっているようだった。


「なるほど……こいつは大した従魔だ……大きさもそうだが、貫禄というか実力に裏打ちされた自信というか、大物感がすごいな……これでは私でも勝てるかどうか……ううむ……これほどの魔獣を使役しえきするとは、さすがは陛下に認められた男という事だな」

 呆気あっけに取られた顔をしていたオルカだが、途中で腕を組み、値踏みするようにクーガの体を眺め始めた。

「ありがとうございます。こいつは知能も高いですし、オルカ支部長に勝てるかどうかは分かりませんが、戦闘能力も高いです。ちなみに今連れているのはこのクーガだけなのですが、もう一体従魔がおりまして」
「何ぃ!? そいつもこの従魔と同程度なのか!?」
「あ、いえ、もう一体は小さいです。多分」

 こう伝えておけば、王女であるシャルルの使用するシキガミを、俺のもう一体の従魔としてオルカは認識するだろう。
 まだ、使役魔法の使い手であるアルピナからシキガミを借りる許可を得ていないが、ダメだったらダメで、俺のバルムンクを見せればいいだけだ。

「多分……? まぁ出来れば今日連れてきて欲しかったのだがな……いないというなら仕方ない。よし、陛下の書面にある通り、従魔の使役を認めよう。ただし従魔専用のあぶみくらをつけるようにしてくれ。そうすれば街中でも騎乗してかまわん。ルシオ君の所であれば取り扱っているだろう。このランチアには従魔を使役する冒険者はいないから、特注になるだろうがな」

 複雑な表情をしながらオルカが椅子に腰を下ろし、革張りの椅子はギシギシと悲鳴を上げてオルカの巨体を受け止める。
 ゴーレムのような巨体が椅子にちょこんと納まる様は、少し可愛らしくも見えた。
 しかし特注か……お金、どれくらい必要なんだろう。

「あの……つかぬ事をお聞きするのですが、特注だといくらぐらいかかるのでしょうか……?」
「うーむ。素材を全て自分で揃えるなら……鞍だけであれば金貨二枚くらいだと思うぞ? そこらへんはルシオ君と相談してみるといい」
「金貨二枚……ですか……」
「なぁに十等級ルーキーでも一週間ほど死ぬ気で依頼をこなせば金貨の一枚や二枚、容易たやすい容易い!」
「はぁ……分かりました……」
『鞍? とは何でしょうかマスター』

 俺とオルカが話している間、静かにしていたクーガが首を傾げながら尋ねてきた。

「移動用の獣に乗る場合につける、装具みたいなもんだよ。それがあれば街中を堂々と歩けるんだぞ? まぁ俺を乗せている場合という限定条件だけどな」
『装具! この私にも装具をいただけるというのですか!? 何という素晴らしき事か! 感謝の極みにございます!! ウォゥ! ウォォオーーン!』

 俺の言葉が余程嬉しかったのか、何度も小刻みに遠吠とおぼえを繰り返して歓喜を表すクーガ。最後に出した声は、先日王宮で出したものとはかけ離れた野太く雄々しいたけりだった。
 尻尾ははち切れんばかりにグルングルンとすごい速度で回転。床に当たる度に、バタンバタン! と大きな音が鳴った。
 その音に紛れてガタン、という音が鳴り、音がした方を向けば、座っていたオルカが椅子を蹴り倒して、身構えているのが見えた。

「おいおい……思わず立ってしまったが……フィガロ! よっぽど嬉しかったのか知らんが、クーガ君に少し限度ってものを教えてくれないか! 威嚇いかくなどではないのだろうが、闘気がビンビン伝わってきて思わず身構えてしまったぞ」
「す、すみません。おいクーガ! 聞こえたろ! 遠吠えをやめろ!」
『はっ! 大変お見苦しいところをお見せいたしました。申し訳ございません』
「ふぅ……ありがとう、クーガ君。年甲斐としがいもなく取り乱してしまった。見苦しい姿を見せたのは私も同じだ、許してくれ。クーガ君は力のセーブというものを覚えるように。フィガロも同じだ。分かったな?」

 額の汗を拭う仕草をしながらオルカが言った。
 俺とクーガがうなずいた直後、廊下ろうかから大勢の走る足音がこちらに向かっているのが聞こえた。

「支部長! ご無事ですか!」
「オルカさん!」
「しぶちょおお!」
「支部長はん大丈夫かいな!?」
「敵襲……?」

 廊下を走る足音はみるみる大きくなり、声を荒らげながら、五人の男女が扉を蹴破るように突入してきた。男女は恐らく冒険者達のパーティだろう。
 軽装備で身を固めている男や魔導師風の少女、ハンターらしき風体の女性などが皆それぞれに武器を持ち、血相を変えていた。

「なんだお前達! この部屋には無断での入室を禁じているだろう! それに武器など持ち出して何を考えているんだ!」

 入ってきた五人の男女を、開口一番で怒鳴り付けるオルカ。俺とクーガは状況を掴めずに、呆気に取られてその光景を見ていた。

「な! モンスター!? どうしてこんな所に!」
「でっかい狼……! こんなモンスター知らないわよ!」
「ただ座っているだけなのに……何だこの狼から感じるプレッシャーは!」

 突然慌ただしくなった室内でどうしていいか分からず、俺とクーガは固まってしまった。

「静かにしろ! 騒々しい! この狼はこの少年の従魔だ! 武器をしまえ!」

 オルカの怒号が飛び、飛び込んできた冒険者達はたじろぎながらも武器をしまう。
 だが目線はきっちりと俺とクーガに向けられていて、どうにも居心地が悪い。

「突然遠吠えが聞こえたと思ったら、下の階までとんでもない殺気のような波動が流れ込んできたんだ。低等級の冒険者達なんて泡吹いて倒れちまった!」

 どうやらクーガのテンションを振り切った遠吠えが、階下でとんでもない事態を引き起こしてしまったらしい。
 クーガを横目で見ると、申し訳なさそうに耳を伏せて項垂うなだれている。
 力のセーブ、覚えような。

「今の遠吠えはこのフィガロ君の従魔、クーガ君が発したものだ。害はない、ちょっと力の加減を間違えただけだ」
「従魔……ですって!?」

 魔法使い風の少女が、驚愕しながら言った。

「これが……従魔の放つ力のプレッシャーなのか……信じられない」
「でも綺麗きれいな毛並みや……体毛の模様もエラいカッコええなあ」
「見てあの瞳、気高いたましいの輝きに満ちあふれているわ」
「あの丸太のような四肢、オルカ支部長にも負けず劣らずの強靭きょうじんさに違いない」
「この少年がこの従魔の主ですって? まだ子供じゃないの」

 入口に陣取っている冒険者達が、クーガを見た感想を次々と口にする。いや、まぁもう子供扱いされるのは慣れたからいいけどさ。

『マスター、あの女、マスターを子供扱いしております。噛み殺してもいいでしょうか』
「やめてくれ、不必要なトラブル起こしてどーすんだよ。ここは穏便にいくんだ、元はと言えばお前が調子に乗るからいけないんだぞ」
『ぬぐ……面目めんぼく次第もございません……』

 クーガが俺の耳にそっと口を寄せ、物騒な事を言い出したので少し強めに注意してしまった。
 それに成人していると言っても、まだ世間的に見れば子供だという事には変わりない。
 ましてや俺を子供と言ったのは、俺よりも一回りは年上そうなお姉さんだ。こればかりは致し方ないだろう。

「詳しいことは後で話す、今は下がれ。階下で倒れた者達の手助けをしてこい」
「だが支部長さん!」
「いいから行けと言っている!」

 一際大きい怒号が飛ぶと、集まった冒険者達は仕方なさそうに扉を閉めて出て行った。
 扉が閉まり切って数秒の後、深いため息がオルカの口から出た。

まったく……クーガ君。力の加減を誤るとこういったトラブルにもなりやすい。分かってくれたか?」
『理解いたしました。今後は気をつける所存です。マスターへもご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした』

 そう言うと、クーガはクーンと小さく鳴き、床に伏せて、下を向いてしまった。
 勢いよく振られていた尻尾も股の間にしまわれており、完全に意気消沈してしまっている。
 ここまでしょぼくれられると、逆にこっちが悪いかのような錯覚におちいってしまう。

「大丈夫、ちゃんとクーガに色々教えなかった俺が悪いよ。そして申し訳ありませんでしたオルカ支部長」
「うむ。あの冒険者達は白金等級プラチナムの者達で、なかなかの熟達者達だ。ゆえにあのような行動を取ってしまったのだろう。仕方がないので許して欲しい。皆には私の方から説明しておくから、今後、こういった事がないようにしてくれよ? だがまぁ今回の件で、冒険者の中に従魔の遠吠えで気を失うレベルのやからが多いと分かった。これは今一度、昇格試験などの見直しを考えるべきだな」

 オルカは声のトーンを通常に戻し、さとすように言ってくれた。
 こうして、低等級とはいえ、冒険者達を遠吠え一発で失神に追い込んでしまったクーガの、華々しいお披露目ひろめが終わったのだった。


       ◇ ◇ ◇


 騒動の後、オルカから解放された俺はクーガを影に入れて、階下の依頼掲示板の前に来ていた。
 白金等級プラチナムの冒険者に顔を知られてしまったのと、遠吠えで失神者が出てしまったという理由で、装具をつけるまでは組合内に入れる事を禁じられてしまった。
 他国と違い、従魔の存在が浸透していないランチアでは怖がる一般人もいるので、鐙と鞍などの装具が出来るまでは外に出すな、とも言われた。
 屋敷が拠点になると話したところ、庭先に出して、ご近所にクーガの顔を売っておけとも言われた。
 そんなに神経質になるほどの事なのか? とも思ったが、とりあえずは言われた通りにするつもりだ。
 この世界には獣人ビースト亜人デミ巨人族ギガンテスなどの別種族も存在するが、ランチアの街中でそう言った人種を見かけるのは珍しく、そのほとんどが冒険者に身をやつしている。
 冒険者の中にも従魔を使役する者はいないので、街中に大型のモンスターが闊歩かっぽするという事態がない。それゆえの処置なのだろう。
 ランチア守護王国に在住するのは、ほぼほぼ通常人種ノーマルだ。
 かと言って他種族に対しての差別用語や卑下ひげする言動も見聞きした事がないし、少なからず他人種もいるので、通常人種ノーマル至上主義というわけでもなさそうだった。

「さてさて……何だかんだあったけど、無事に十等級ルーキーのタグももらったし、早速依頼を見てみよう。何があるかな……とりあえずご飯食べたいから、サクッと串焼きが食べれるくらいのお仕事は……」

 実のところ、起きてから今まで何も口にしていないのでお腹の虫が鳴りっぱなしなのだ。
 先に依頼を受けてお腹を満たし、その後ルシオのいるタルタロス武具店へ。クーガの鐙と鞍の話をして、トワイライトに寄ってシキガミについての相談をする予定だ。
 今後の予定を組みながら首元に揺れる、鉛色に鈍く光る小さいタグを指でもてあそび、依頼が張り出された掲示板に目を通す。
 迷子の犬探し、人探し、どぶさらい、草むしり……散歩代行……なんだこれ?
 十等級ルーキーが受けられる依頼って、こんなものしかないのか?
 理想と現実のギャップに頬を引きつらせながら依頼書を見ていると、良さげな案件を見つけた。

「害虫駆除、か……対象は【ジャイアントクインビー】。これにするか」

 掲示板の下の方に張り出されていたそれを剥がして詳細に目を通す。

「屋敷の裏庭に巣食ったジャイアントクインビーを処理して欲しい……成功報酬は銀貨一枚。なお、巣にいると思われる幼虫の捕獲数だけ銅貨をプラス!? これは熱いんじゃないか? 銅貨一枚で串焼き一ダースは買える! 銀貨一枚で銅貨十枚分だったよな……うおおおお! 串焼きが百二十本も食えるぞ!! 冒険者万歳!」

 依頼書を手に小躍りしつつ受付へと並ぶ。
 今の時間は人が少ないのか、すぐに順番は回ってきた。

「あら、フィガロ様……さん……えっと、合格おめでとう、初仕事ね? オルカ支部長から話は聞いているわ。詳しい事は教えてくれなかったけど貴方のことは一介の冒険者として扱えと言われているわ。もちろん王家の書面を持っていた事は内密にしておけと厳命されているから安心してちょうだい? さぁさぁそれじゃ……えっと……クインビーね、支部長いわく貴方、可愛い顔してミスリル以上の素質を持っているらしいじゃない? 十等級ルーキーから一等級エースまでのお仕事に関しては、ソロでも問題ないと太鼓判を押されているわ。人員などは気にせず好きな依頼を受けて行ってね。あぁ、もちろんその等級にあったものじゃないとダメだけれどね?」
「あはは……ありがとうございます」
「この依頼は組合に報告しないでいいわよ。報酬は依頼主から直接支払われるタイプだからね、それじゃ行ってらっしゃい」
「はい! 行ってまいりますお姉様!」
「やだ……お姉様だなんて……」

 照れ臭そうにはにかむ受付嬢から依頼主の家までの地図をもらい、建物を出て意気揚々と道を歩く。
 太陽は大空の頂点を過ぎ、だんだんと沈みかけている。
 急いで依頼をこなせば、閉店ギリギリにはタルタロス武具店に行けるだろう。
 腹の虫がたまに鳴るが、気にせずに地図を頼りにずんずんと歩いていった。
 今までは分からなかったが、往来する人々の中に冒険者の姿をちらほらと見かける事が多い。首元に揺れる等級タグがその証だ。

「思ったより出歩いているもんなんだなぁ……」

 冒険者だって食事をするし、買い物もする、娯楽だって楽しむ、考えてみれば当たり前の事なのだが、今では何事も新鮮に見えて楽しくて仕方がない。
 こんにちはニューワールド、こんにちは冒険者。

「ここか……屋敷でっか……さすが伯爵家。佇まいが違うわな……」

 テクテクと道を歩き、辿り着いたのは七区画にある伯爵家の前。俺の屋敷の倍はあろうかという敷地の広さ、敷地は全て塀で囲まれていて、中の様子は門からでしか分からない。
 アルウィン家は公爵位ではあったけれど、家自体はそこまで大きくなかった。
 それでも俺の屋敷よりかは大きかったけれど、目の前に広がる伯爵家ほどではない。


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