欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四五〇話 基礎訓練

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「さぁ次は君の番だ。どうする?」

「あ……あ、あぁ……」

 泡を吹いて地面に転がる先頭の構成員と、怪しげな笑みを浮かべるリッチモンドを交互に見比べて顔を引き攣らせる二番手の構成員。
 そりゃ目の前で仲間が痙攣して泡を吹いてぶっ倒れれば誰でもこうなると思う。
 倒れた構成員は小さく呻いているので生きているには生きているのだが……脳へ与えられた衝撃が強すぎて立ち上がる事が出来ないのだろう。
 ……可哀想に。
 
「お……おおお」

「おお?」

「お願いします!!」

 完全に怯えていた構成員はぎりっと歯を食いしばった後、強い決意を感じさせる瞳でそう言い切った。
 リッチモンドは眉を少し上げ、一瞬驚いた顔をしたが首を縦に振ってその指を構成員の額に当てた。

「あっあっあっあっ」

 二番目の構成員はリズミカルに体を震わせ、同じように泡を吹いて地面に倒れ伏した。
 そこからは誰も拒否する事なく順調に事は進んでいった。
 三番目の構成員の言葉を借りるなら「こいつらが出来て俺がやれねぇわけがねぇ!」だそうで。
 リッチモンドの作業が終わった後、地面には累々と横たわる構成員達の姿があった。

「う……うう」

「気が付いたかい?」

「り、っちもんど……さん」

「うん。意識もはっきりしてるみたいだね。口が回らないのは脳に伝達されたショックのせいだ。もう少ししたら落ち着くと思うからこのまま横になって休んでいるといい」

「あ、あいがおう……ござい、ます」

 リッチモンドは倒れた構成員を順番にみて回り、口に水を含ませて起き上がらせていった。
 
「なぁリッチモンド。俺はそろそろ帰らなきゃだけど……」

「いいよ。この後は僕に任せてくれ」

「悪いな」

 太陽は稜線に沈んでおり、黄昏を過ぎて夜の世界が近付いて来ている。
 そろそろ帰らなければ夕食の時間に間に合わなくなる。
 お腹すいたしな。
 リッチモンドと別れを済ませた俺はフライを発動させ、オーブから一直線に自宅へと帰った。


 ◇◆◇


『おかえりなさいませ、ご主人様」

「ん、ただいま」

『皆さんお揃いです。もうすぐご夕食が始まるようです』

「わかった。ありがとう」

 屋敷に戻り、諸々を済ませた上でダイニングルームへと向かう。
 ダイニングルームにはクライシスとピンク、子供達の姿があり、シスターズは揃って壁際に控えていた。
 
「「「「おかえりなさいませ、フィガロ様」」」」

「ただいま」

「隊長。お食事の用意は整っております。クライシス様はすでに晩酌を始められております」

「クライシス……」

 ピンクの言った通りクライシスは俺に向けて片手を上げ、空いている方の手には小さなショットグラスに似たグラスが握られていた。

「よう。いーじゃねーか。俺にゃこれくらいしか楽しみがねーんだよ」

「まぁ……別に咎める気もないですけど、どこからそのお酒を調達しているんですかね」

「むぐっ……」

「いーですけどね! あまり飲み過ぎないでくださいよ?」

「お、おう」

 ダイニングテーブルの上に置かれている酒瓶は俺が見た事の無いものだった。
 瓶のラベルには【雷電風神】と描かれていて、酒が注がれたグラスからは芳醇な香りが漂ってくる。

「確認だけどそのお酒ってさ……」

「はい。クライシス様から依頼され、私達が購入させて頂きました。なんでも西大陸に分布するとある部族のお酒だそうです」

 俺が誰ともなしに聞くと、壁際に控えていたアハトが一歩進み出て、詳細を説明してくれた。
 
「依頼……ね」

「いーだろー! 少しくらい!」

「構いませんけど、そういう事は一言言って頂きたいです」

「帰ったら言おうと思ってた」

「そうですか」

「あぁそうだ。決して黙って買おうとしていた訳では無い」

「何でそこでやたら偉そうなんですか……。ところで……魔法の基礎技術っていうのは強制的に他人に植え付ける事が出来るものなのですか?」

「ん? なんだいきなり」

「いえ、少し気になりまして」

「んー……結論から言えば可能だ」

「そう、なんですね」

「だが……かなりの危険を伴う」

「危険、ですか」

「そうだ。基礎技術が無い、いわゆる五歳児レベルの脳にこれから培っていくはずの技術をねじ込むんだ。脳へのダメージはかなりでかい」

「あ……なるほど。ではそれが成人男性だった場合はどうなるのですか?」

 クライシスが勘違いしている所はあえて修正せず、自然な流れで聞きたい事を問いかけてみた。

「ふうむ……成人男性であれば脳がきちんと構築されている。ダメージはそこまで大きく無いだろう……だが」

「だが?」

「相当気分が悪いだろうな。いってみればひどい二日酔いが纏めてくるような感じだ」

「……あぁ……それはひどいですね……」




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