欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
280 / 298
第九章 穏やかな日々

四四二話 試験の話

しおりを挟む



「大事な話はお終いかしら?」

「え? あ、うん、聞きたい事は聞けたし、今はもう浮かばないかな」

「なら今度は私とお話し出来るのかしら?」

「うん。シャルルにも話さなきゃいけない事があるからね」

「なぁに?」

 シャルルは丁寧に料理を食べ進めながら視線を俺に送り、先の言葉を待っていた。

「オルカ支部長からミスリル等級への昇級試験を提案されたんだよ」

「へぇ! 一気に飛んだわね! それでそれで?」

「試験会場は風鳴りの塔。その地下に新しい階層が発見されたんだ。俺達フォックスハウンドの試験内容は新地下層に潜り踏破することだ」

「なにそれ楽しそうね!」

「新地下層の詳しい情報はまだ聞いてないけど、オルカ支部長が俺達の力を見込んで提案してきたんだ。俺は乗るべきだと思うんだけど……どうする?」

「行きましょ! ね、お父様、公務はしっかりやるわ。だから行かせて欲しいの」

「ふむ。よかろう。ロンシャンで見たシャルルの新しい能力を使うのだろ? であれば危険も無い。ついでに見聞を広めるいい機会だ、行っておいで」

「ありがとう! という事よフィガロ!」

「決断が早いなぁ……さすが王族、判断力が違う」

「そんな事はないと思うわよ? それで? いつにするの?」

 ナプキンで口の周りを拭ったシャルルは、一度食事の手を止めてチビチビと飲んでいたミードに再び手を伸ばした。
 つられるように俺もミードに手を伸ばしてゴクリと一口飲み込み、コク深い味に喉を鳴らした。

「日程はシャルル次第で決めようと思ってて」

「あ、そうなのね? んー……今ここでっていうのは難しいわね。スケジュール調整してからでもいいかしら?」

「もちろん。俺もそのつもりだよ」

『私としては早く遊びに行きたいのだがな』

「ふふ、ごめんね。でもそんなに遠くならないと思うからもう少し待ってて」

『シャルルが多忙なのは理解している。大丈夫だ』

「ありがと!」

 俺の横でおすわりをしていたクーガの頭をシャルルが撫で、クーガは気持ち良さそうに目を細めた。
 シャルルのリスケが済み次第、フォックスハウンドとして一度集まり、軽い依頼をこなして意思の疎通を図ろうと思う。
 フォックスハウンドとして活動したのは迷宮攻略の時だけだし、その時も俺とリッチモンドとクーガしかいなかったからな。
 ラプターも加えると三人と二匹、パーティーとしては少ないのかな? 
 ブレイブは五人だったし……もう二人くらい加入させても良いのかもしれない。

「なぁシャルル」

「なぁに?」

「ラインメタルとダンケルク、覚えてるか?」

「もちろん覚えてるわよ。魔人の方とドワーフの方でしょう?」

「うん。その二人をフォックスハウンドに迎え入れるってのはどうかな」

「んー……どうかしら……私としては微妙だと思うわ」

「それに関しては私も同意せざるを得ない」

「ドライゼン王まで……どうしてですか?」

「お父様も私も多分同じ事を考えていると思うんだけどね。実力差がありすぎる気がするのよ」

「うむ。その通りだ」

「実力差か……」

「だってね、フィガロは一人で悪魔を倒しちゃう化物よ? しかも大悪魔と悪魔将軍なんて普通一人の人間が太刀打ち出来る存在じゃないわ。フィガロが人間っていう事がおかしいと思うもの」

「……そこまで言うか」

「いや、シャルルの言う通りだぞフィガロ。普通、名のある悪魔ならばそれなりの人数を揃えなければならん。だのにお主はたった一人で撃破してみせた。これが異常な事だと認識すべきだ」

「えぅ、はい」

 王族二人に真剣な眼差しを向けられると、どうにもむず痒くなってしまう。

「リッチモンドだってそう。あの人は普通の人間じゃあないでしょう?」

「まぁ、な」

「リッチモンド殿か。私は二言三言しか交わした事が無いが、ロンシャンでの戦いを見る限り彼も異常な強さを持っているな」

「それに魔獣が二匹、どう考えても普通の人が入れるパーティーじゃないわ。私自身気後れするもの」

「そっか……でもダンケルクは魔人だぞ? リッチモンドや俺ほどじゃないにしても、かなりの強さを持つはずだ」

「ならラインメタルさんは?」

「あの人の実力は知らない、な」

「そう。フィガロはどうしたいの?」

「俺は……彼らがイエスと言うなら一緒に冒険してみたいと、思う。実力に差があるから入れないっていうのは確かに正しい考えだし、誰に聞いてもそう答えるかも知れない。でも、冒険ってそういう事じゃない、気がするんだよ」

「ふむ……気の合う仲間と助け合いながら、力を合わせて冒険したい。という事か?」

「正解では無いですが、それに近いです。俺とリッチモンドの基準で選ぶなら……思い上がるわけでは無いですが、確かに普通の方々では役不足かと思います。ですけど、そんな事を言ったら誰ともパーティーを組めなくなってしまいます」

「確かになぁ……冒険者という者達の内情には疎いが、誰とも組めないというのは寂しいかもしれんな」

「フィガロがそう考えるなら私は止めないわ。フォックスハウンドのリーダーは貴方だから、私は貴方に従う。異論を唱える者はいないと思うわよ」

『私もマスターのご意向には従います』

『親父殿がいいなら良いのではないか? 異論を唱える理由がない』

 今までずっと口を閉ざしていたラプターが、すっと目を開いて言った。
 シャルルと二匹の同意は得られたし、リッチモンドに話をしてみて彼が良しと言うならばラインメタルとダンケルクに会いに行こう。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。