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第九章 穏やかな日々
四四二話 試験の話
しおりを挟む「大事な話はお終いかしら?」
「え? あ、うん、聞きたい事は聞けたし、今はもう浮かばないかな」
「なら今度は私とお話し出来るのかしら?」
「うん。シャルルにも話さなきゃいけない事があるからね」
「なぁに?」
シャルルは丁寧に料理を食べ進めながら視線を俺に送り、先の言葉を待っていた。
「オルカ支部長からミスリル等級への昇級試験を提案されたんだよ」
「へぇ! 一気に飛んだわね! それでそれで?」
「試験会場は風鳴りの塔。その地下に新しい階層が発見されたんだ。俺達フォックスハウンドの試験内容は新地下層に潜り踏破することだ」
「なにそれ楽しそうね!」
「新地下層の詳しい情報はまだ聞いてないけど、オルカ支部長が俺達の力を見込んで提案してきたんだ。俺は乗るべきだと思うんだけど……どうする?」
「行きましょ! ね、お父様、公務はしっかりやるわ。だから行かせて欲しいの」
「ふむ。よかろう。ロンシャンで見たシャルルの新しい能力を使うのだろ? であれば危険も無い。ついでに見聞を広めるいい機会だ、行っておいで」
「ありがとう! という事よフィガロ!」
「決断が早いなぁ……さすが王族、判断力が違う」
「そんな事はないと思うわよ? それで? いつにするの?」
ナプキンで口の周りを拭ったシャルルは、一度食事の手を止めてチビチビと飲んでいたミードに再び手を伸ばした。
つられるように俺もミードに手を伸ばしてゴクリと一口飲み込み、コク深い味に喉を鳴らした。
「日程はシャルル次第で決めようと思ってて」
「あ、そうなのね? んー……今ここでっていうのは難しいわね。スケジュール調整してからでもいいかしら?」
「もちろん。俺もそのつもりだよ」
『私としては早く遊びに行きたいのだがな』
「ふふ、ごめんね。でもそんなに遠くならないと思うからもう少し待ってて」
『シャルルが多忙なのは理解している。大丈夫だ』
「ありがと!」
俺の横でおすわりをしていたクーガの頭をシャルルが撫で、クーガは気持ち良さそうに目を細めた。
シャルルのリスケが済み次第、フォックスハウンドとして一度集まり、軽い依頼をこなして意思の疎通を図ろうと思う。
フォックスハウンドとして活動したのは迷宮攻略の時だけだし、その時も俺とリッチモンドとクーガしかいなかったからな。
ラプターも加えると三人と二匹、パーティーとしては少ないのかな?
ブレイブは五人だったし……もう二人くらい加入させても良いのかもしれない。
「なぁシャルル」
「なぁに?」
「ラインメタルとダンケルク、覚えてるか?」
「もちろん覚えてるわよ。魔人の方とドワーフの方でしょう?」
「うん。その二人をフォックスハウンドに迎え入れるってのはどうかな」
「んー……どうかしら……私としては微妙だと思うわ」
「それに関しては私も同意せざるを得ない」
「ドライゼン王まで……どうしてですか?」
「お父様も私も多分同じ事を考えていると思うんだけどね。実力差がありすぎる気がするのよ」
「うむ。その通りだ」
「実力差か……」
「だってね、フィガロは一人で悪魔を倒しちゃう化物よ? しかも大悪魔と悪魔将軍なんて普通一人の人間が太刀打ち出来る存在じゃないわ。フィガロが人間っていう事がおかしいと思うもの」
「……そこまで言うか」
「いや、シャルルの言う通りだぞフィガロ。普通、名のある悪魔ならばそれなりの人数を揃えなければならん。だのにお主はたった一人で撃破してみせた。これが異常な事だと認識すべきだ」
「えぅ、はい」
王族二人に真剣な眼差しを向けられると、どうにもむず痒くなってしまう。
「リッチモンドだってそう。あの人は普通の人間じゃあないでしょう?」
「まぁ、な」
「リッチモンド殿か。私は二言三言しか交わした事が無いが、ロンシャンでの戦いを見る限り彼も異常な強さを持っているな」
「それに魔獣が二匹、どう考えても普通の人が入れるパーティーじゃないわ。私自身気後れするもの」
「そっか……でもダンケルクは魔人だぞ? リッチモンドや俺ほどじゃないにしても、かなりの強さを持つはずだ」
「ならラインメタルさんは?」
「あの人の実力は知らない、な」
「そう。フィガロはどうしたいの?」
「俺は……彼らがイエスと言うなら一緒に冒険してみたいと、思う。実力に差があるから入れないっていうのは確かに正しい考えだし、誰に聞いてもそう答えるかも知れない。でも、冒険ってそういう事じゃない、気がするんだよ」
「ふむ……気の合う仲間と助け合いながら、力を合わせて冒険したい。という事か?」
「正解では無いですが、それに近いです。俺とリッチモンドの基準で選ぶなら……思い上がるわけでは無いですが、確かに普通の方々では役不足かと思います。ですけど、そんな事を言ったら誰ともパーティーを組めなくなってしまいます」
「確かになぁ……冒険者という者達の内情には疎いが、誰とも組めないというのは寂しいかもしれんな」
「フィガロがそう考えるなら私は止めないわ。フォックスハウンドのリーダーは貴方だから、私は貴方に従う。異論を唱える者はいないと思うわよ」
『私もマスターのご意向には従います』
『親父殿がいいなら良いのではないか? 異論を唱える理由がない』
今までずっと口を閉ざしていたラプターが、すっと目を開いて言った。
シャルルと二匹の同意は得られたし、リッチモンドに話をしてみて彼が良しと言うならばラインメタルとダンケルクに会いに行こう。
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