欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四三七話 晩餐会に向けて

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 シャルルと晩餐の約束を取り付けた後、俺は一度屋敷へと戻り、どうせならと思い服を新調する事にした。

「というわけで付き合ってくれ」

「申し訳ございませんフィガロ様、全く話が見えません」

「隊長の余所行きを一緒に選べばいいんですか?」

「そうだ。プルとピンクならいい感じに見繕ってくれると思ってな」

 皆が集まっている中で俺がそう言うと、シロン、ハンヴィー、アハトの三人が口々に不満を言い出してしまった。

「えぇー! その言い方だとまるで私達がセンス無さそうみたいじゃないですか!」

「そうですよフィガロ様! どうしてプル姉とピンク姉なんですか?」

「貴族様の装いなどは分かりませんけれど……でも私にも何か出来ると思うんです!」

 女三人よれば姦しいと言うけれど、そこまで突っかかってくる事は無いんじゃなかろうか。
 
「いやほら、プルもピンクも大人だろ? だから」

「「「私達が子供だって言いたいんですかっ!!」」」

 墓穴だった。
 彼女達の言い分も分かる。
 何しろ皆俺より歳上なのだ。
 ただプルとピンクが一番年長者だし、とか言うとそれはそれでまた何か言われそうな気がする。

「違う違う! そうじゃなくて! 何となくだよ何となく!」

「「「むー!」」」

 詰め寄る三人の気迫に負けて足が若干後退るけれど、「何となくなら、まぁ」と俺が出した苦し紛れの言い訳に、渋々だが納得して頂けたようだ。
 
「では隊長、準備して参ります!」

「は! わた、私も!」

 ピンクが直立不動の体勢で敬礼をして、慌ただしく自室へと戻るのを見たプルも急いでシスターズの自室へと駆け込んで行った。
 俺は既に一度外出しているので支度も何も無い。
 ので、ダイニングのソファへ身を投げ出し、ぼけっと窓から見える庭の木を眺めていた。

「どうぞ」

「ん? あぁありがとう」

 横からアハトの声が聞こえたと同時に、淹れたての紅茶がテーブルに置かれた。
 余談ではあるけれど、屋敷で使っているティーカップや食器は全てシスターズの目利きによるものだったりする。
 クライシスが持参した食器などもあるけれど、何ぶん数が少ないので大所帯になった今、滅多に使わなくなっていた。
 しかも。
 さらに余談なのだが、クライシスが持ち込んだ食器は全て昔の物で、焼き手が失われた有名な陶器であったりしたのだ。
 これはピンクとシスターズ総出の意見なので間違いはないだろう。
 美術館にあってもおかしくない逸品ばかりらしく、今までそんな大層な食器で食事をしていたのかと思うとゾッとしてしまう。
 クライシスに聞けば「昔適当に買ったもんだからわかんねーや」とあっさりしていた。
 実にクライシスらしい返答だとは思ったけれど、今まで割ることなく過ごせて良かったと心底思ってしまう。

「あれ、茶葉変えた?」

「はい。珍しい茶葉が市場で売っておりましたので試しに購入してみました。お口に合いますでしょうか」

「うん。美味しいねこれ。なんて言う茶葉なんだ?」

「良かった……! えっと、ローラングレイというものです。サイラムやロイヤリエなども合ったのですけれど、お値段的にもこちらが良さげでしたので」

「へぇ……始めて聞く名前だ」

「店主曰く最近流通し始めたばかりのものらしいです。見慣れないゆえにあまり買い手が無くて困っていたのだそうで」

「そうなのか。うん、これ気に入ったよ。出来れば多めにストックしといて貰えるか?」

「分かりました! すぐ買い占めて来ます! それでは失礼します!」

「え、あ、ちょっ! 行っちゃったよ……そんな慌てないでもいいのにな」

 アハトは勢いよく頭を下げ、脱兎の勢いでダイニングルームを飛び出して行った。
 パタパタという階段を登る音と共に「ハンヴィー! シロンー!」という声も聞こえて来たので、三人仲良く買い物に出掛けるみたいだな。
 となると……。

「屋敷」

『何でございましょう、ご主人様』

「聞いていたろ? 俺とピンク、シスターズが皆外出する。子供達を頼んだぞ」

『かしこまりました。屋敷の柱にかけてお守り致します』

「クライシスもいるから多分大丈夫だろうけど、念の為戸締りや周辺の警戒を怠るなよ」

『おまかせを』

「あ、そうだ。前から聞きたかった事があるんだ」

『私にですか?』

「うん。屋敷は自我があるだろ? それってどの程度まで有効なんだ?」

『有効……とは?』

 俺の質問が悪かったらしく、屋敷は困惑したような言い方をしてきた。
 
「仮に屋敷の敷地にある土でゴーレムなんかを作ったら、それは屋敷の自我が反映されるのか?」

『それならぱ答えはNOでございます。確かに庭にあるもの達もご主人様の寵愛を受けて在りし日の姿を取り戻しましたが、アレらに自我はありません、そして私の自我の範疇にも入っておりません。屋敷を構成している木材で作られた物ならば……あるいは』

「えまじか。でも屋敷の木材使ったら……あー、もしかして再生ってまだ可能なのか?」

『勿論でございます。仮に一番太い柱を折り取られたとしても、屋敷が全焼したとしても、崩れたとしても、私は私の姿に再生する事が可能でございます。それがご主人様から頂いた寵愛の一旦でございます』

「なにそれ……めちゃくちゃ優良物件じゃん」

 屋敷の権利を得た時に入った損害保険なんて必要ないじゃないか。
 今度抜けておこう、あれ地味に金取られるからな。

「なるほどなぁ……ありがとう」

『いえいえ。もし柱を使うご予定がありましたら何なりとご用命下さいませ』

「そうするよ」

 俺が屋敷からずっと聞きたかった事を聞けて満足していると、ダイニングルームの扉が軽くノックされた。
 反射的に振り向くと、そこにはバッチリメイクを施して、いつもと違う装いの服に着替えたピンクとプルが立っていた。

「「お待たせ致しました」」

「へぇ……二人共よく似合ってるよ!」

「「ありがとうございます!」」

 普段見慣れない服やメイクというのは、やはり多少なりともドキリと来るものがある。
 だからと言って浮気心が芽生えるわけじゃないけれど、装いを新たにした二人は文句無しの美人だった。
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