欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四三四話 登録と提案

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 翌日、俺は魔装具を着用したクーガとラプターを伴い自由冒険組合の応接室に来ていた。

「ふん! 久しぶりだな! フィガロよ!」

「お久しぶりです、オルカ支部長」

 相変わらずの筋肉をモリモリ動かすオルカを前に、俺はカウチに座りクーガはその横でおすわりをしていた。
 ラプターはクーガの頭の上に乗り、静かに目を瞑っていた。
 オルカはテーブルに出された紅茶を飲みつつ、ラプターと俺を交互に見て口を開いた。

「二度目の昇級試験には来なかったようだが……見ない顔があるな。フィガロのペットか?」

「いえ、これは新しい私の従魔です。この子の登録もお願いしたくて」

「なるほどぅ! 見た感じは大きな梟といった所だな。よかろう!」

「ありがとうございます!」

「名前はあるのか?」

『我が名はラプター、親愛なる親父殿の下僕だ』

「ぶふぉっ!」

「だっ大丈夫ですか支部長!」

 突如目を開いて喋り出したラプターの声に驚いたのか、紅茶を飲みながら話していたオルカは口に含んだものを盛大に噴き出した。

「ゲホッエッホ! んんん! どういう事だフィガロ! 喋ったぞ!」

『喋るのがおかしいのか?』

「ラプター! 俺がいいって言うまで口を開くなと言っただろ!」

『む、そうだったな。すまない親父殿』

「そ、その従魔もクーガ君と同じく人語を解するか……どこで見つけてくるのだ、まったく……」

「すみません……」

「まあいい。ラプター君と言うのだな? よろしく頼むぞ」

『うむ。頼まれた』

 自分が吹き出した紅茶を拭き取るオルカに、ラプターが頭を下げた。
 咳払いを一つしたオルカは姿勢を直し、腕を組んで俺に質問を投げかけてきた。

「さて、この際だから聞いておく。次の昇級試験はどうするのだ?」

「試験は受けたいと思います。ですが今は……」

「辺境伯としての雑務が多すぎる、と?」

「なぜわかったのですか!?」

「フィガロが迷宮を抜けた後、大々的に発表があった。そして君は組合に顔を出さなくなり……日が落ち着いてからこうして顔を出した。そうなれば考える事は自ずと分かるだろう?」

「そう、ですね」

 実際はロンシャン連邦王国に出向いて軽く戦争やってました、なんて言える訳もなく、俺は同意するしかなかった。
 もしかするとクロムも同じように考えてくれていたのかもしれない。

「そこでだ。フィガロ。君は風鳴りの塔というのを知っているか?」

「はい。この国にある遺跡ですよね」

「うむ。最近になって風鳴りの塔の地下にさらなる階層が続いている事が発見された」

「何ですって!?」

「長年攻略組は最上階を目指すばかりだった。しかしたまたま地下に潜ったパーティーが偶然にも隠し扉に繋がる技巧を発見してな。しかし……白金等級パーティー、君も知るブレイブなども攻略に向かったのだが……難易度がかなり高く、相当な実力者でなければ進む事は難しいという報告が上がっている」

「もしかして……それをフォックスハウンドに……?」

「ご名答。察しが良くて助かる。ブレイブが君達を推しているというのもあるがな」

「バルティーさん達がですか?」

「迷宮の後、彼らが私の所に押し掛けて来てな。フィガロはいずれヒヒイロカネに至る男だと、熱く語ってくれたよ」

「いやはは……それほどでも……」

「謙遜する事は無い。彼らは幾人もの冒険者を見てきた実力者達、その彼らが推すのだ、誇ることこそすれ恥じる事など何も無い」

「はっはい! ありがとうございます!」

「前置きが長くなってしまったが……もしフォックスハウンドが風鳴りの塔、新地下層を攻略出来たなら……」

 オルカは一度そこで言葉を切り、心を覗き込むようにじっと俺の瞳を見つめてきた。
 至極真剣なその面持ちに、俺は何を言われるのかと思わず生唾を飲み込んだ。
 すぅ、と大きく息を吸い込んだオルカは衝撃的な言葉を発した。

「君達フォックスハウンドをミスリル等級と認めよう」

「えぇ!? ちょっ、ちょっと待ってください支部長! 等級飛ばしすぎじゃあないですか! 私はまだ……!」

「そうだな。これは特例中の特例、異例の措置だ。ブレイブの後押しや、迷宮での踏破速度、戦闘面においての実力を見るに君達へ昇級試験を行うのは無駄だと判断した所もある。通常であれば何度も面談を行い、心と体、両方の実力の詳細を測るのだが……な。他にも理由は幾つかあるが、根本的な理由は今述べた通り。どうだ? やってみないか?」

「やります! やらせて下さい!」

「よく言った! 君なら即答するだろうと思っていたよ! そして日程だが、なるべく早い方がいい。今の組合には白金以上の等級がいない状態だ。上が居なくなった事により白金以下の冒険者がこぞって昇給試験を受けている。風鳴りの塔新地下層に挑む者も増えてくるだろうからな」

「分かりました! って……あれ?」

 オルカから説明を聞いていると、妙な違和感を覚えた。
 確かランチア支部にはミスリル等級の冒険者がいたはずだ。
 トムが率いていたハンニバルには上がいた。
 その者に指示されてトムは勢力を拡大させていたのだから。
 さらに言うならば、その者が色々と妨害をして白金等級以上の冒険者を排出させなかったのだから。

「オルカ支部長、ミスリル等級がいないって……どういう事ですか?」
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