欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四三三話 何でも屋

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『なぁ親父殿』

「何だ?」

 屋敷の皆が寝静まった頃、部屋に招き入れたクーガの上に止まったラプターが、首を九十度ひん曲げて口を開いた。

『冒険者とは何だ?』

「何だ、と聞かれてもな……どうして急にそんな事を?」

『いや実はだな。帰ってきた時も話したがブレイブなる冒険者パーティーと、メイド二人が和気あいあいと話し込んでいたのを自分なりに考えてみたのだ。だが冒険者というのがイマイチ分からない。彼等は何故に冒険者と名乗っているのだ? 傭兵や兵士と何が違うのだ? 魔物と戦うのは傭兵や兵士ではないのか? 素材の収集をするのは採取家ではないのか? 親父殿よ。彼等は何なのだ?』

「冒険者、か。そうだなぁ……どう話せばいいかな……冒険、っていう言葉は分かるか?」

『あぁ分かるぞ。色んな場所に行って未知なるものを探したり、知らない事を知る為に行動する事だろう?』

「うん。そうだな」

『では何故彼等はこの国に留まるのだ? この国はそんなにも未知に溢れているのか?』

「冒険者っていうのはな。その名が示す事柄だけじゃないんだ」

『ふむ?』

 ラプターはハンヴィーとアハトの護衛から戻った時、見て聞いた事を俺に教えてくれた。
 お世話になったブレイブの面々と二人が出会ったのはビックリしたが、二人にとって色々刺激になったようで良かった。
 組合に出向いた際、見かけたらお礼の一つでもしておこう。
 で。
 何故かラプターは冒険者という概念に疑問を持ったようで、あれやこれやと質問を投げかけてきた、というのが今の現状だった。
 俺はラプターに自分が組合で聞いた冒険者の心得や、システム、等級やパーティー、迷宮などの話をしたのだけど——。

『なるほどなるほど。冒険者という在り方については何となく理解した。とどのつまり何でも屋だな?』

「言い方に語弊がありすぎる」

『なぜだ? キャラバンの護衛やモンスターの討伐なら傭兵でもやっている仕事だ。未知の領域に踏み込んで色々調べ回るのは探検家とも言える。素材の採取などは採取家に任せればいいだろう? 冒険者の中に職種というカテゴリーがあるのがいい例ではないか。無作為に集まった集団から得意分野を割り当て、大量に舞い込む仕事を処理、所属する人数が多ければ消化出来る量も増える。するとさらに多くの仕事が舞い込んでくる。実に優れたビジネスモデルではないか。悪口を言っているつもりはないんだぞ? より良い言い方をするなら……冒険というフワッとした目的に明確な指標を立て、多種多様な仕事に従事出来る人材を抱えた多目的集団といった所か』

「あながち間違ってないから何も言えない……」

『様々な仕事の中から自分に合ったカテゴリを選んでいいという自由、出会った事の無い強敵や未知の旅に挑むという冒険、そしてそれを纏める組合。だから自由冒険組合という名前を冠しているのだな!』

「うん、いいよそれで……」

 我が意を得たりと、羽をバサバサ動かして小踊りするラプターを見て俺は思った。
 多分冒険者という存在は概念的要素が強いのだろう。
 もしかしたら冒険者の中にも、自分達は何でも屋だと思っている輩がいるかもしれない。
 捉え方、感じ方は人それぞれだもんな。
 誰がどう考えるかも自由。
 俺の冒険者としての在り方は根本的に未知の探求だ。
 フライがあれば何処へでも文字通り飛んで行けるからな。

『私はマスターと共にあれればそれで充分でございます』

『兄者の言う通りだな。もし要望があるのなら私も親父殿のお供ときて馳せ参じよう。我々の居場所は親父殿がいる所なのだからな』

 鼻を鳴らし、座りながら得意げに胸を張るクーガと、その周囲をトテトテと可愛らしく歩き回るラプター。
 ラプターを従魔登録してしまえば、今後さらに快適な冒険者ライフが送れるだろう。

「よし、なら明日、一緒に組合へ行くか!」

『む? 私も冒険者になるのか?』

「いや、ラプターは俺の従魔って扱いになるけどいいか?」

『なるほど。オーケーだ親父殿』

「交渉成立だな」

『マスターの言に物申す者などおりません』

「そういう曲がった信条はどうかと思うぞ」

 話を終えてじゃれ合い始めた魔獣二匹を眺めつつ、唐突に襲ってきた眠気に身を委ねる事にした。

「そろそろ寝るよ……んじゃおやすみ」

『『おやすみなさいませ』』

 もしかすると明日にはシャルルとドライゼン王が到着するかもしれないな、と思いながら俺は眠りに落ちていった。
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