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第九章 穏やかな日々
四二七話 壁
しおりを挟む長い時間をかけて雑草を焼き払っていったが、それでもまだ廃集落の半分ほどの規模しか終わっていない。
そして俺はある事に気が付いた。
この集落には壁が無いのだ。
周りは鬱蒼とした森に囲まれ、住まいとしての意味をなさない家屋が建ち並ぶこの場所は、もはや自然の一部と化してしまっている。
自然の一部と言う事は、ここにもモンスターが出没するという事になる。
「なぁ、ちょっといいか?」
「ボス! お疲れ様です! 何でしょうか!」
「ここら辺てモンスター出るよな?」
「はい、昼は我々がバタバタしてるので近寄って来ませんけど、夜はたまに寄ってくるヤツらがいますね」
「だよなぁ」
「それが何か?」
「ここを本格的に再興するなら壁は必須だな、と思ってさ」
「我々もその考えに同意です。今は交代で見張りを付けていますけれどなにぶん敷地が広いもので、全部はカバー出来ていない状態ですから」
「よし、分かった」
「何かお考えでも?」
「うん。ちゃちゃっと建てちゃう」
「ほぁあ……我々に出来ない事をさらっとやってのける……! そこに痺れる」
「それ以上は言わないでいいぞ?」
「あはい。すいやせん」
近くにいた構成員に連れられて、集落の外周へと辿り着いた。
外周周りは手付かずのようで、オオアレチという雑草が腰の辺りまで伸び盛っていた。
元は円形の集落だが、この際新しい形にしてしまうのも悪くない。
というのも、外壁は魔法で作り出すつもりなのだが、実は弧を描くような壁は作り出せず、どうしても直線的なものに限定されてしまうのだ。
「んー……高さはどれぐらいがいいと思う?」
「そうですね……三メートルほどでいいのでは?」
「よしわかった。【フォートレスウォール】」
イメージした魔法を発動させると、厚さ一メートル高さ三メートル幅二メートルの堅牢そうな壁が地面から勢いよくせり出した。
壁は繋ぎ目などのない密度の高い一枚岩であり、外面の下部にはスパイクが設けられている。
これならモンスター程度の侵入を許す事は無いだろう。
後は等間隔に物見櫓を建設すればいいし、味気ないのなら内側をレンガで覆うなりなんなりすればいい。
「うおおおお!」
構成員の歓声を浴びながら壁同士の繋ぎ目に注意しつつ、順次フォートレスウォールを発動させていく。
対物対魔の魔力障壁と違うのは、一度発動させてしまえば壊されない限りその場に残り続けるという所だ。
【地】の文殊を発動する際に、【強】の文殊も並行して発動させて強度を高めているので永続性もバッチリだ。
ズズン、ズズン、というフォートレスウォールがせり上がる音が鳴り響き、ふと見れば作業中の構成員やクーガすらも俺の壁作りを眺めている。
構成員はともかくとして、クーガは炎の檻や灼熱の障壁を張れるのだから俺より凄いと思うんだけどな。
「しかしこう外周を回るとそれなりに広いな」
「へい。集落を見つけた時は、正直見て見ぬふりをしたくなりました」
「だよなぁ。荒れ果てすぎだもんな。よく頑張ってくれてるよ、ありがとう」
「そんなそんな! ボスは俺達をシャバに引き上げてくれたんです。これぐらい何ともないです。野郎共は皆ボスに付いてきて良かった、何か力になりたいと言っています」
「そっか。へへ、何か気恥しいな」
「事実ですから」
構成員と色々話をしながら壁を設置して回る。
東西南北には出入り用の門を作らなければならないので、その部分だけはポッカリと空間が開いている。
一部の構成員達には切り倒した木々をノコギリで分断し、簡易的バリケードを作るように命じておいた。
木材はかなりの量があるので、多少失敗したとしても焚き火の燃料にしてしまえばいいのだ。
日が暮れ始めてからは魔法で灯りを生み出し、効果時間を数時間単位で伸ばしておく。
やっとの事で集落の周りをフォートレスウォールで囲い終えた俺は、大きな焚き火が焚かれた傍にクーガと共に腰を落ち着けていた。
焚き火では構成員達が狩ってきた動物の肉を焼いている。
構成員達の横には木の実や果物などの入った木箱が置いてある。
あれはきっと狩りに行った者達とは別のチームが収集していたものだろう。
「ボス、どうぞ」
「ん? あぁ俺は要らないよ。皆で食べてくれ」
「それは出来ません! ボスをほっといて俺達だけいただくなんて!」
「あー……ほら、俺は家に帰ればご飯あるし、俺より皆の方が疲れてるはずだ。これは命令だ、いいな?」
「へ、へぇ……分かりました……聞いたかお前ら! ボスは要らねぇそうだ! たんまり食え! いただきます言えよ!」
「「「いただきます! ボス!」」」
俺が狩りに行ったわけじゃないのに、構成員達はなぜか俺に会釈をして肉や果物に齧り付いていった。
こうやってトロイの構成員達と直にコミュニケーションを取るのは初めてだったけれど、皆いい人達で本当に良かった。
俺がドンスコイをしばき倒して、ボスの座に着いた時はこうなるなんて思いもしなかったからな。
ランチアに来て出来た始めての部下達が食事や歓談に興じるのを眺めつつ、俺はほっこりとした気持ちに包まれていた。
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