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第九章 穏やかな日々
四二五話 廃集落
しおりを挟むクーガが軽やかに疾駆し到着した廃集落は山の麓にひっそりと佇んでおり、予想よりも遥かに廃れた場所だった。
「「「お疲れ様です! ボス」」」
「やあ、皆ご苦労さま」
廃集落では何人もの構成員が色々と作業を進めており、俺が到着するや否や作業の手を止めてゾロゾロと集まって来てくれた。
「来るのが遅れてすまない。現状は……芳しく無さそうだな」
「はい。ご覧の通りかなり荒れ果てておりまして、仮住まいとしている家屋は出来るだけ綺麗にしたのですが……その、如何せん俺達、こういう作業に慣れておりませんで……」
「まぁ……そうだよな……それと、この場所に名前は付けたのか?」
「まさか! ボスの所有物に名前なんて付けられません!」
「そっか。いつまでも名無しじゃやり辛いし、名前考えておくよ」
「へい! 宜しくお願いします!」
頭を下げる構成員達をざっと見回すと、集まってくれたのは三十人ほどだ。
元々暴力と欲望の裏社会にいた彼ら、本格的な家屋の改修や整地などは分野違いなので仕方無い事だ。
フライを発動させて廃集落の全体を見渡せる高さまで高度をあげる。
どうやらここは円形に構成された集落だったらしく、草や木々が生い茂った広場と見られる場所を囲むように、同じく草木に侵食されたボロボロの家屋が点在している。
家屋の数はおよそ五十棟、その中のひとつは周りの雑草などが刈り取られ、地面が剥き出しになっている。
恐らくあそこが構成員達の仮住まいなのだろう。
「うーん……どうするかなぁ」
この集落が何年前、いや何十年前に廃棄されたのかは分からないけれど、穴が至る所に空き、育った木が家屋を貫通しているような家を改修してまともに人が住めるのだろうか。
俺に土木の知識は無いけれど、これは明らかに無理なんじゃないかと思う。
家屋を改修するか、ぶち壊して新しい家を建てるか。
だが家を建てるとなると、追加で建築士や左官屋などの作業員を追加で雇わなければならなくなる。
自力でやった所で大した物は出来ないはず、なんだけど……。
「一つ聞きたいんだけど」
「へい! 何でございましょう!」
地上に降り、待っていた構成員の一人に質問を投げ掛ける。
「家を自分で建てろって言われたらどうする?」
「「「やらせていただきます!」」」
「え!? マジ!?」
構成員達は困った顔をするかと思ったけれど、意外にも良さげな反応が返ってきた。
「俺、この前日雇いで壁の修理補助やってきたんで!」
「俺なんて屋根の修理をやったぞ!」
「俺は十一区画の道路の補修を!」
「俺も!」
「俺だって!」
すると集まっていた構成員達が武勇を語るように次々と声を上げていき、やれば出来るかもしれない、やらなきゃ分からん、という声を多く聞いた。
柱の立て方や壁の張り方などは、既存の家屋を参考にやると言う。
「ここを見つけて半月過ぎましたけど、見つけた時はもっと酷かったんですよ」
構成員が語るには、この集落は木々や草花に隠れるようにして存在し、家屋の中もキノコや雑草で埋まっていたらしい。
乱立する木々を手作業で切り倒していき、家屋の草花を地道に刈り取っていったそうだ。
広場らしき場所の中央には周囲と違う巨木が生えており、集落に人がいた頃からそこに生えていたのだろう。
上空から見た時も目に入ったけど、かなり立派な大樹で幹の太さは直径二メートルを超えるのではと思わせる程のものだった。
構成員達からこの大樹は残してこの集落のシンボルとしたいという意見が多くでた為に、希望通りに残しておく事にした。
構成員達にはそれぞれの作業に戻ってもらい、俺は手近な岩に腰を降ろして再興後のイメージを固めていく。
まずは名前だ。
強そうな、とかカッコよさそうな、とかは除外し、ここは皆が長閑に手を取り合って暮らせる、そんな場所にしていきたい。
なんと言ってもシルバームーン領地最初の集落なのだからな。
中央市街地からは結構な距離があるけれど、馬車か馬を調達出来ればほんの二時間程度で往復出来るだろう。
その為には街道を敷くか、地ならしをして利便性を高めていかないとな。
「最初の集落……始まり……そうだ! オーブにしよう!」
オーブは夜明け、暁という意味を持ち、夜明けは一日の始まりでもある。
我ながら良いネーミングが出来た。
と、思う。
スタートオブヴァーミリオンとかいう単語が一瞬チラついたが、そんなものは却下だ却下。
意味が分からない。
集落の名前が決まり、一人で心を弾ませながら作業をする構成員達を流し見る。
短剣やナイフ、鎌を使ってザクザクと雑草を刈り取る者や、手斧で小さい木を切り倒している者、小石を削って矢尻を製作する者などと様々だ。
ここの作業員は二日に一度の交代制を取っているので、不満の声はあまり出ていないようだ。
しかし手作業で集落の全てをやるとなると、かなりの時間を要する。
「よし、ここはいっちょやったるか!」
ぐっと拳を握りしめて立ち上がった俺は、一番近くの構成員に向けて歩き出した。
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