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第九章 穏やかな日々
四一五話 ピンク
しおりを挟む目録を見ながら中身の確認をしていると、金庫室の奥からパタパタと足音が聞こえてきた。
「フィガロさまー!」
「なんだ、居たのですかフィガロ様」
「お、お疲れ様。どうだった?」
足音の方へ向き直ると、シロンとハンヴィーが小走りで寄ってきてぺこりとお辞儀をしてきた。
二人の表情は対照的でニコニコ顔のシロンと、どこか不満そうな顔のハンヴィーだが二人揃って全身埃だらけであり、指先なんかは真っ黒になってしまっている。
「フィガロ様、ハンヴィーが凄いんですよ!」
「ばっか! 別に凄くないよ!」
「でもでも! ハンヴィーが見つけたんですよ!」
「見つけた? 何をだ?」
「秘密のお部屋です!」
「えっ!? 部屋!? 通路じゃなくてか?」
シロンが小踊りをしながら嬉しそうに話しているのだけど、俺は出てきた言葉に驚きを隠せなかった。
隠し通路があるとは聞いていたけど、部屋の存在までは聞いていない。
いったいどういう事なのだろうか?
非常に気になる所ではあるが、もう時間も遅くなってきているし、そろそろ食事の買い出しに行かないといけない。
「二人とも、話は後で聞くから今は上にあがって綺麗にしてきてくれ。埃だらけだぞ?」
「分かりましたー!」
「はい」
「体を綺麗にしたら夕飯の買い出し行くぞ」
「わほ! わーい!」
「良かった。お腹空いてたから、ありがとうございます」
「んじゃ行くか」
「「はい!」」
元気の良い返事をする二人を連れ、金庫室を閉じて階段へと向かう。
階段の途中でプルとアハトとも合流し、皆で一階へと上がって行ったのだった。
〇
「隊長! お待ちしてました!」
「えっ! 何これ」
一階に上がり、シスターズを風呂に突っ込んでから飲み物を取りにダイニングへと向かったのだが……。
雑品の買い出しに出たはずのピンクが、ダイニングテーブルの前で食事の支度をしていた。
テーブルの上にはサラダや焼き物を始めとして、例の串焼きやパンが並べられていた。
ピンクは白いエプロンを身につけており、実に楽しそうな表情を浮かべている。
「ピンク、買い出しは?」
「はい! ピンク以下子供達は無事に買い出し任務を終え、帰投致しました!」
「えっ、はやっ」
「すぐ近くに商業区画がありますし、お夕飯の支度もあると思い早めに切り上げて参りました。ですが目的の物はしっかり手に入れましたので!」
「そ、そうか? ならいいんだけど……子供達は?」
「子供達は部屋でラプターさんと遊んでいますよ。遊んでいるのか遊ばれているのか分かりませんけれど、ふふ」
にこやかに微笑むピンクは強化兵になって何年経つのか分からないけれど、実に若々しく、それでいて母親の貫禄が溢れ出る不思議な雰囲気だった。
しかし不思議だ。
ピンクが買い出しに出てから今まで、三時間程度しか経っていないのだけど目的の物を買った上、ここまでの料理をこしらえるとは……これが母親というものなのだろうか。
きっと時間の使い方が非常に上手なのだろうな。
子供達と遊んでいるラプターというのも、中々可愛らしいものがありそうなのでピンクに断りを入れてから子供達のいる大部屋へと向かった。
『ほらほらこっちだ!』
「あぁっ! くっそー!」
「待てー!」
『矮小なチビ助達よ頑張るがいい!』
大部屋の前に来ると、中から実に楽しそうな声が聞こえてきたので気付かれないように扉をそっと開けた。
中ではラプターが壁や天井、床を縦横無尽に飛び回り、子供達がボールを投げたり掴みかかろうと躍起になっていた。
食事の事を伝えようと、薄く開けた扉を声をかけて押し開いたのだが……。
「入るぞーうぶっ!」
「「「あ……」」」
『あ……』
誰の投げた物かは知らないが、俺の頭部ほどもある柔らかなボールか顔面にぶち当たり変な声が出てしまった。
『お、親父殿! 大丈夫か!』
「ボスごめんなさい! 僕が投げました! 他のみんなは悪くありません!」
てん、てん、と転がるボールと入れ違いに、銅色の髪をした子供が俺の前に進み出て深々とお辞儀をした。
「大丈夫大丈夫。大して痛くないし、びっくりしただけだよ。それにしても……偉いな、君は。確か……」
「アーサーです! 歳は今年で十になります!」
「そっか。自分から謝るのはとても偉い事だよ」
「はい! ありがとうございます!」
身長はそこまで高くないが、歳相応の高さではあるアーサーが顔を上げて口を真一文字に結んでいた。
意志の強そうな瞳だが、素直に謝れる心を持っているのは素晴らしい事だと俺は思う。
「さて、皆、そろそろ食事だ。手を洗ってダイニングにおいで」
「「「はい! ボス!」」」
子供達は皆揃って幼く可愛らしい返事をして、我先にと部屋から飛び出して行った。
「ありがとうな、ラプター」
『いえいえ。私も暇だったのでな、相手をしてもらっていただけの事。さて、子供達もいなくなった事だし、私は街を一回りしてこよう』
そう言ったラプターは片翼で器用に窓を開け放ち、黄昏と夜の交じる大空へと飛び立っていったのだった。
「さて、俺も行くかな」
部屋に立て掛けてある、ピンクが買ってきたであろうベッドの骨組みを見て微笑みつつ、俺は大部屋の扉を閉めた。
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