欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四一四話 隠し通路

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 ハンヴィーが隠し通路を発見してくれれば御の字だし、見つからなければハンヴィーと共に探せばいい。
 けどその前に、プルとアハトが整理してくれたこの区画を確認しておこう。
 
「品目分けはまだ出来ておりませんが、ある程度同じ種類の物はまとめておきました。とは言ってもしまわれた時にある程度区分けはされていたようです」

 プルが紙束を手にしたまま、俺に近寄りながら言った。
 一番手前にあるのは装飾品の類であり、髪留めやイヤリング、ネックレスに指輪などだ。
 これらは保存状態が良かったのか、ほぼ新品のような状態で残されていた。
 というより状態がいいのは装飾品だけじゃなく、この金庫室にあるもの全てがそうだと言っていいかも知れない。
 もしかしたらこの金庫室全体に何か特別な術式が施されているのかも、と僅かながら思っている。
 
「あと……あの棚の一番上にある袋には手が届かなくて……」

「えあ! あれはあのままで大丈夫! ほっといていいから!」

 アハトが申し訳なさそうな顔をしながら、背の高い棚の一番上にある布袋を指さした。
 あの布袋にはミロクの成れの果てが入っているので、二人を連れてここに来た時にこっそり上にしまっておいたのだ。
 アレを二人が見たらどうなるかなんて容易に想像出来るからな。
 
「さて……問題はこれらをどうするかだ」

 闇オークションでこれらの普通の品が売れるとは到底思えないし……トロイの構成員でアクセサリー屋さんでもやらせるか?
 そうすれば元手ゼロで利益を上げられる。
 権利やなんやらは、クロムかドライゼン王に相談すればいいしな。
 次は……香辛料とかだけど……流石にこれは廃棄処分だろうな。
 二百年前の香辛料とか怖くて使えないだろ。
 確実に死者が出ると思われる。

「プル、アハト。この香辛料ら辺は全部処分だ。数が多くて悪いんだけど一階に上げておいてくれるか」

「かしこまりました」

 二人が香辛料やハーブなどが入った木箱を運び出すのを横目に、次の品物へ目をやった。
 毛皮など、と書かれた木箱を開けると、様々な種類の毛皮や牙、爪というモンスターの部位が詰まっていた。
 何のモンスターなのかは分からないので、これは鑑定に回す必要がある。
 もし自由冒険者組合で買い取って貰えるものがあれば御の字だし、駄目ならこちらで加工するなりなんなり、やりようは幾らでもある。
 その時はルシオに相談してみよう。
 きっと有効に使ってくれるはずだ。
 ちなみにモンスターの部位が入った木箱は、この区画にあるだけで三十個はある。
 きっと奥にも似たような物があると想像すると、今でこそお金は無いが、かなりの財産をリッチモンドから譲って貰ったのだと改めて実感した。
 けれど数にはやはり限りがあるので、出来るだけ有効活用していかなければならない。
 プルが置いていった紙束を手に取り、素材系は鑑定に、というメモ書きを残した。
 こうすれば忘れる事はないだろう。
 紙束の一番上は目録らしき物が書かれていたけれど、クエスチョンマークが多用されているので、俺の判断待ちと見ていいな。
 
「ん? 布地……?」

 目録の中にそう書かれているのを発見し、書いてある通りの木箱を探し当てた俺は躊躇無く蓋を開けた。
 するとそこには綺麗に折り畳まれた布生地が入っており、質感からするとシルクか絹か、それに似たような素材であることが分かった。
 布地の入った木箱は……ぶっ、五十個もあんのかよ……。
 二つ目を開けてみると、一つ目とは別の生地がしまわれており、これから推察するに全部の木箱は全て違う生地が入っていると見て間違いないな。
 裁縫が出来る人材がいればその人にお願いして、子供達やピンク、シスターズの服を仕立ててもらうのもいいだろう。
 うん、一つ目の布地の肌触りは滑らかだし、寝巻きや部屋着に丁度いいんじゃないだろうか。
 中から取り出したわけじゃないので、布地がどれ程の長さなのかは分からないけれど、木箱の大きさからしてかなりの量が入っていると思われる。
 この量であれば帽子や手袋、靴下やタイツ、寝具用のシーツやカバーなんかも作れるな。
 布地の木箱を閉じ、目録を目でおって行くともう一つ気になる品名があった。
 鉄くず? とあるのだけど、プルとアハトからすれば鉄くずにしか見えない物でも、俺からすれば有用であるかもしれない。
 少しばかりの期待を胸に鉄くずの入っている木箱を探し、蓋を開けてみた。
 
「うーん……これは……鉄くずに見えなくも無いけど……豪商だったリッチモンドの父親が鉄くずを大事にしまっておくワケも無いだろうし……保留かなぁ」

 木箱の中には鉄の板や、金属のボタンのような物、針金の束、鉛らしき金属の棒など用途不明の金属が無造作にしまわれていたのだ。
 用途が無い物を金庫室にしまったりするだろうか? 
 それともこれは何かの部品……例えば魔導技巧のような装置……。
 二百年前だからと言って馬鹿にするわけにはいかない。
 失われた魔法、ロストスペルや現代に引き継がれていない技術があるかもしれないのだ。
 無下に廃棄処分なんかして、後々後悔するかもしれないのなら取っておくべきだしな。
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