欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四一三話 買い出し

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 話を終えたスカーは、給金を手にホクホク顔で部下を引き連れて屋敷から出て行った。
 領地の地図はもう何枚か複写してから渡してくれるそうだ。
 あの地図があれば、領地の把握もかなり楽になるはずだ。
 本当に良い仕事をしてくれたと思っている。

「隊長、よろしいですか?」

「ん、ピンクか。どうした?」

「非常に申し上げにくいのですが……」

 スカーと入れ違いになるように、桃色の髪をお団子にして纏めた部屋着姿のピンクがダイニングの入口に姿を見せた。
 ピンクは申し訳なさそうな顔をして、テーブルに置かれた金貨と俺の顔を交互に見ている。
 これはアレだ。
 お金だ。

「いくら欲しいんだ?」

「ひぁっ!? な、なぜお分かりに!?」

「そりゃな、似たような顔を短期間で何度も見れば察するようになるさ」

 ピンクが浮かべていた表情は、コブラやスカーが浮かべていたそれに通じるものがあった。
 
「あの……子供達用と私用の寝具やその他諸々の雑品を購入したく思い……まして……金貨二、三枚ほど頂けたらと思うのですけれど……」

「分かった。いいよ」

「ありがとうございます!」

「足りなくても困るだろうし、五枚くらい持っていくといい」

「良いのですか!? ありがとうございます!」

「この国の串焼きは美味しいから見かけたら食べてみるといいよ。ソウルフードなんだってさ」

「ソウルフード……分かりました! ではピンク以下子供達部隊、準備を整え次第直ちに出立致します!」

「はいよ。行ってらっしゃい」

 テンションが上がったピンクは、おどけたようにそう言ってダイニングから出て行った。
 奥の部屋から子供達の「お出かけー!」という賑やかな声が聞こえてくる。
 そんな声を聞きながら俺はテーブルにあるお金を数え始めたのだった。

「これで残りは王金貨八枚と金貨四枚……か。金貨にして八百四枚……恐らくここから半分以上は給金やら準備金やらなんやらで消えていく筈だから……そもそも使用人の給金て基本的に幾らなんだ? プラスアルファで子供達、ピンク、シスターズ、俺、クライシスの月の食費も割り出さないと……あぁ頭が痛くなってきた……」

 
 金貨八百四枚というのは一般家庭からすれば超大金だ。
 けど俺の元にいる部下の総数は三百人を超える。
 他の貴族様方は一体どのようにして生計を立てているのだろうか? 
 このままでは貧乏辺境伯というレッテルを貼られてもおかしくない。
 というより既に貧乏だ。
 考え無しに面倒を見ると言った結果がこれとは……我ながらお人好しというかおバカさんというか……はぁ。
 これはいよいよ金庫室の中身を大放出するしか無いのだろうか……。
 
「うん。クロムさんに聞いてみよう」
 
 考えて考えて出た結論がクロム頼りというのが我ながら情けないが、分からないものは分からない。
 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うしな。
 領地経営なんて姉様からも教わったことが無いのだから仕方ないのだ。

「フィガロ様、よろしいですか?」

 俺が頭を抱えてソファでもんどり打っていると、いつの間に居たのかアハトが箒を握って立っていた。

「どした?」

「あの、金庫室の件なのですけれど……入口に近い区画の掃除は一通り終わりました。品物の目録はプル姉が作成中です。手が空いておりましたら一度確認願えないかと思い参りました」

「お、了解了解。なら今行くよ」

「ありがとうございます」

 俺はそう言ってソファから立ち上がり、ふと窓から庭に目をやると庭に生えているオランジナの木の下でのんびりと時を過ごしているクーガの姿が見えた。
 クーガの頭には小鳥が羽を休めているのだが、大して気にしていないようだ。
 ラプターの姿が無いが、どうせ空中散歩でも楽しんでいるのだろう。
 クーガの穏やかな姿にほっこりしながら、俺はアハトと共に地下へと向かった。





「お疲れ様、プル」

「フィガロ様! フィガロ様もお疲れ様でございます」

「一応アハトから聞いてはいるけと、首尾はどうだ?」

「は! 上々に、と言いたい所なのですが、なにぶん範囲が広いもので入口から二十五メートルずつ区画を分けて清掃と整理を行っており、現在は第一区画か終了した所です」

「それでも早いよ。ありがとう」

「シロンやハンヴィーも手伝ってくれたので……良ければあの子達も労って頂ければと」

「そうなのか? 分かった」

 金庫室にはプルとアハトの姿しか無いのだが、シロンとハンヴィーはどこにいるのだろうか。

「あの子達は金庫室の全容を把握する為に奥へと向かわせました。ハンヴィー曰く風の匂いがする、だそうです」

「風の匂い……? ここは地下だぞ? あ、もしかして!」

「何か心当たりがお有りですか?」

 この金庫室を譲り受けた時、リッチモンドが言っていた隠し通路の話を思い出したのだった。
 リッチモンドが言うには、この地下には二つの隠し通路があるそうで、一つは邪教徒達が使っていたのを見たので入口は分かっていた。
 二つ目が何処にあるのかは皆目検討が付かなかったけれど、ハンヴィーのおかげでそれも解決しそうだ。
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