251 / 298
第九章 穏やかな日々
四一三話 買い出し
しおりを挟む話を終えたスカーは、給金を手にホクホク顔で部下を引き連れて屋敷から出て行った。
領地の地図はもう何枚か複写してから渡してくれるそうだ。
あの地図があれば、領地の把握もかなり楽になるはずだ。
本当に良い仕事をしてくれたと思っている。
「隊長、よろしいですか?」
「ん、ピンクか。どうした?」
「非常に申し上げにくいのですが……」
スカーと入れ違いになるように、桃色の髪をお団子にして纏めた部屋着姿のピンクがダイニングの入口に姿を見せた。
ピンクは申し訳なさそうな顔をして、テーブルに置かれた金貨と俺の顔を交互に見ている。
これはアレだ。
お金だ。
「いくら欲しいんだ?」
「ひぁっ!? な、なぜお分かりに!?」
「そりゃな、似たような顔を短期間で何度も見れば察するようになるさ」
ピンクが浮かべていた表情は、コブラやスカーが浮かべていたそれに通じるものがあった。
「あの……子供達用と私用の寝具やその他諸々の雑品を購入したく思い……まして……金貨二、三枚ほど頂けたらと思うのですけれど……」
「分かった。いいよ」
「ありがとうございます!」
「足りなくても困るだろうし、五枚くらい持っていくといい」
「良いのですか!? ありがとうございます!」
「この国の串焼きは美味しいから見かけたら食べてみるといいよ。ソウルフードなんだってさ」
「ソウルフード……分かりました! ではピンク以下子供達部隊、準備を整え次第直ちに出立致します!」
「はいよ。行ってらっしゃい」
テンションが上がったピンクは、おどけたようにそう言ってダイニングから出て行った。
奥の部屋から子供達の「お出かけー!」という賑やかな声が聞こえてくる。
そんな声を聞きながら俺はテーブルにあるお金を数え始めたのだった。
「これで残りは王金貨八枚と金貨四枚……か。金貨にして八百四枚……恐らくここから半分以上は給金やら準備金やらなんやらで消えていく筈だから……そもそも使用人の給金て基本的に幾らなんだ? プラスアルファで子供達、ピンク、シスターズ、俺、クライシスの月の食費も割り出さないと……あぁ頭が痛くなってきた……」
金貨八百四枚というのは一般家庭からすれば超大金だ。
けど俺の元にいる部下の総数は三百人を超える。
他の貴族様方は一体どのようにして生計を立てているのだろうか?
このままでは貧乏辺境伯というレッテルを貼られてもおかしくない。
というより既に貧乏だ。
考え無しに面倒を見ると言った結果がこれとは……我ながらお人好しというかおバカさんというか……はぁ。
これはいよいよ金庫室の中身を大放出するしか無いのだろうか……。
「うん。クロムさんに聞いてみよう」
考えて考えて出た結論がクロム頼りというのが我ながら情けないが、分からないものは分からない。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うしな。
領地経営なんて姉様からも教わったことが無いのだから仕方ないのだ。
「フィガロ様、よろしいですか?」
俺が頭を抱えてソファでもんどり打っていると、いつの間に居たのかアハトが箒を握って立っていた。
「どした?」
「あの、金庫室の件なのですけれど……入口に近い区画の掃除は一通り終わりました。品物の目録はプル姉が作成中です。手が空いておりましたら一度確認願えないかと思い参りました」
「お、了解了解。なら今行くよ」
「ありがとうございます」
俺はそう言ってソファから立ち上がり、ふと窓から庭に目をやると庭に生えているオランジナの木の下でのんびりと時を過ごしているクーガの姿が見えた。
クーガの頭には小鳥が羽を休めているのだが、大して気にしていないようだ。
ラプターの姿が無いが、どうせ空中散歩でも楽しんでいるのだろう。
クーガの穏やかな姿にほっこりしながら、俺はアハトと共に地下へと向かった。
〇
「お疲れ様、プル」
「フィガロ様! フィガロ様もお疲れ様でございます」
「一応アハトから聞いてはいるけと、首尾はどうだ?」
「は! 上々に、と言いたい所なのですが、なにぶん範囲が広いもので入口から二十五メートルずつ区画を分けて清掃と整理を行っており、現在は第一区画か終了した所です」
「それでも早いよ。ありがとう」
「シロンやハンヴィーも手伝ってくれたので……良ければあの子達も労って頂ければと」
「そうなのか? 分かった」
金庫室にはプルとアハトの姿しか無いのだが、シロンとハンヴィーはどこにいるのだろうか。
「あの子達は金庫室の全容を把握する為に奥へと向かわせました。ハンヴィー曰く風の匂いがする、だそうです」
「風の匂い……? ここは地下だぞ? あ、もしかして!」
「何か心当たりがお有りですか?」
この金庫室を譲り受けた時、リッチモンドが言っていた隠し通路の話を思い出したのだった。
リッチモンドが言うには、この地下には二つの隠し通路があるそうで、一つは邪教徒達が使っていたのを見たので入口は分かっていた。
二つ目が何処にあるのかは皆目検討が付かなかったけれど、ハンヴィーのおかげでそれも解決しそうだ。
0
お気に入りに追加
5,173
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。