欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四一〇話 闇オークション

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「闇オークション……ですか」

 俺はサルバドルが言った言葉を反芻するように口に出し、コブラを見た。
 コブラは少し眉根を寄せただけで、大した反応はしていない。

「何も知らずに来られるとは……大丈夫ですか?」

 サルバドルが心配そうに俺を見てくるが、こうなってしまったのなら仕方が無い。
 腹を括るまでだ。

「問題ありません。出品するにはどうしたら宜しいですか?」

「分かりました。ではこちらの用紙二枚ともに品物と競売開始価格、最低落札価格を、こちらの誓約書も二枚、記入して下さい」

 サルバドルはテーブルに用紙とペンを出してそう言った。
 二枚書くのは店の保管用と俺が所持する用なのだろう。
 用紙にサラサラとペンを走らせ、言われた通りに記入をしていった。
 記入を終えるとサルバドルから軽い説明を受けた。
 オークション会場での事は守秘義務が発生するらしく、何が出品されていようが店から出たら全て忘れる事。
 守るべきはこの一点だけらしい。
 何とも不穏な説明だけど、闇オークションというのだから当然といえば当然だよな。
 それと会場に子供達は入れられないらしい。
 まぁこれも当然といえば当然だ。
 なので子供達はコブラに見てもらい、会場入りするのは俺とドンスコイと構成員達だけという事になった。
 個室から出て、その旨を伝えるとガリバルディ達は非常に不服そうな声を上げたが、コブラが何やら小声で耳打ちするとちゃんと納得してくれたようだ。
 コブラが何て言ったのかが非常に気になる所だけど、今は出品手続きをする方が先だ。
 ガリバルディ達とコブラと別れた俺は一人、サルバドルに連れられて再び店の奥へと向かった。
 ドンスコイと構成員達は、先に会場入りをしていて構わないと言われ、ぞろぞろと地下へと降りていった。





「では、品物をお預かりします」

「はい。よろしくお願いします。割れ物ですので丁重に扱って下さいね」

「それは勿論。ご安心下さい。当オークションは安全、安心を心掛けておりますので、信用を失ってはやっていけませんから」

 サルバドルがニッコリと笑い、俺のワインを受け取って緩衝材が詰められた小箱の中に静かに入れた。
 
「そういえば他の出品者さんはいらっしゃらないのですか?」

「はい。本日の出品は約二百点に上りますが、当日に持ち込まれる方はごく少数です。殆どの方は前もって当店に品物をお預けになり、当日は手ぶらでお越し頂いておりますね。オークションの開始時刻は今からですと……三十分後、十五時からになります」

「結構ギリギリだったんですね」

「品数がもっと多ければ時間も多少繰り上げたりはしますが、基本は十五時スタートとなっております。もし今後、当店のご利用があるなら会員カードもお作りしておりますが……如何なさいますか?」

「一応作ります」

「かしこまりました。では人差し指を出して下さい、少し傷を付けますがご了承ください」

「わ、分かりました」

 サルバドルはそう言うと、懐から光沢のある一枚のカードと小さなピンを取り出した。
 ピンを俺の人差し指にプツリと刺すと、小さな血溜まりが指の腹に浮き出る。
 その血溜まりの上にカードを乗せると、血が触れた箇所がほんのりと光った。

「はい、これで会員登録は完了です。このカードにはお客様の遺伝子と魔力情報が記録されていて、当オークションをご利用毎にポイントが加算されていきます。ポイントが貯まれば手数料のカットや、入札を優先させて頂く、なんて事も可能です。どうぞご贔屓に」

「分かりました。ありがとうございます」

「では、お品物は確かにお預かり致しました。お客様の番号は八十五番となりますので入札をされる場合、この番号が書かれた札と値段をご記入して頂き頭上に掲げて下さい」

「はい。って当日持ち込みなのに八十五番なんですか?」

「えぇ。番号はランダムとなっておりますので」

「あ、なるほど」

「ささ、ではお客様も会場の方へお急ぎ下さい」

 サルバドルに促され、店の奥にあったもう一つの階段を降りて会場へと赴いたのだった。
 会場に入ると、既に半分以上の席が埋まっており、客席は段々になっていて、一番下はちょっとしたステージのようになっていた。

「旦那ぁ! こっちでさぁ!」

「おう」

 目ざとく俺を見つけたドンスコイが、客席から身を乗り出して大きく手を振っている。
 客達は皆、仮面や目元だけのハーフマスクを着用していて、素顔を晒しているのは俺達のみだった。
 ドンスコイは自分の右に俺の席を取っておいてくれたようで、他の構成員は俺とドンスコイの左右に分かれて座っている。
 席に着いてしばらく待っていると、照明が徐々に落とされていき、いよいよ闇オークションが始まる時間になった。
 薄くなる照明と反比例するように俺の心は高鳴っていき、掌には手汗がじっとりと湧き出してきた。

「レディースアンドジェントルメン! お待たせ致しました! 只今よりオークションの開始を宣言致します! 皆様お分かりとは思いますが、ここでの事は一切他言無用でお願いしますねー! さぁ! それではいきましょう! まーずは最初の一品、一体どんな品物が飛び出して来るのかぁ! それではっ、どうぞう!」

 非常にテンションの高い司会者が大袈裟な身振り手振りをした後、ステージの脇から小さなワゴンが出てきたのだった。
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