欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四〇八話 オークション会場へ

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「ま、そういう訳だ。頼むぜ、な?」

 他の組の構成員達へ頼み込むように言うドンスコイの顔を見てみると、柔らかな物言いとは裏腹に全く笑っていなかった。
 眉根を寄せ、目を細めて思い切りガンを付けている。
 
「な!?」

「く……わ、分かったよ……じゃあな!」

 追い込みをかけるように語気を荒らげたドンスコイに言い返す事も出来ず、他の組の構成員達は大人しく引き下がっていった。

「いやぁ! アイツら実に根のいい奴らでしたね! 旦那!」

「うん……そうだな」

 今にも喧嘩に発展しそうだったのに睨み一つで撃退してしまうとは……やはり鬼人のネームバリューとその実力は折り紙付きなのだろう。
 最初の頃は暑苦しい脳筋かと思っていたが、今となっては認識をかなり改めている。
 そして……今最も更生させるべきはトロイの構成員達だということが実によく分かった。
 ドンスコイに向けて拍手と賛美を送る構成員達に、俺は静かに語りかけた。

「お前らなぁ……何でそう喧嘩腰でしか話せないんだよ」

「えぇ!? 俺達は実にシャバっぽく接していたつもりですよ!」

「普通の人は挑発しないの。今のはただのチンピラと変わらないぞ」

「「「なっ!!」」」

 俺にチンピラと言われたのがショックだったのか、身を仰け反らせて慄く構成員達。
 「俺達が……チンピラ……チンピラ……」とお互いの手を取り合ってワナワナと震えるその姿はとても哀れで、俺が言ってはいけない事を言ってしまったかのように錯覚させる。
 けど俺は間違った事は言っていないと思う。
 長年の習慣というのは抜けないだろうけど、構成員達にはそこら辺頑張って頂きたい所だ。

「ほら、行くぞ。大人しく付いてきてくれよ?」

「「「へい……」」」

 明らかにしょぼくれてしまった構成員達を、子供達は不思議そうに眺めている。
 今の出来事は構成員達がきちんと壁になって、子供達の目に入らないようにしていたので何が起きたのか分かっていないのだろう。
 狙ってやったワケでは無いと思うけど、結果的にはオーケーだ。
 そしてそのまま下級歓楽街を抜けるとコブラから連絡が入り、食料を携えた二人と合流した。
 適当な場所に腰掛け、思い思いに食事を楽しんだ後はいよいよ七十六区画に突入だ。







「なぁ、本当にここで合ってるのか……?」

「へい、そのハズなんでやすが……おかしいですね」

「ぼろーい!」


 オークション会場である酒場の前に到着し、困惑しながらもドンスコイに尋ねた。
 困惑しているのはドンスコイも同じらしく、頬をポリポリと指で掻きながら疑問符を口にする。
 そして率直な意見を口にしたのは三人の子供の内の一人、ガリバルディだった。
 彼の言う通り、目の前の酒場は非常に古めかしい出で立ちで、壁面を蔓草がびっしりと覆っていた。
 看板は傾いており、とても営業している風には見えないのだけど、酒場の一階にはテラス席もあって、年季の入った丸テーブルが三つ並んでいる。
 その中の一つには四人のガラの悪い男性が座り、咥えタバコをしてカードゲームに勤しんでいた。
 客がいると言う事は営業しているという事になるので一安心だが……何となく嫌な予感が頭を掠めた。
 客は彼らしかいないのだろうか? もしかしたらハインケルの知らないウチに潰れてしまった? いや、仮に潰れていたとしても、裏社会の覇者であるハインケルが知らないわけが無い。
 確かめてみる必要があるな。

「ドンスコイ、コブラ、ちょっと中に行って聞いてくるからここで待っててくれ」

「分かりました」

「がってんだ!」

 二人に後を任せ、酒場の中へと足を踏み入れるが、その時なぜかカードゲームに興じていた男達から妙な視線を感じていた。

「すいませーん」

「らっしゃい」

「ひぃうわっ!」

 酒場の中へ入って一声掛けると入口の真横に人が居たらしく、予想外な場所からの返事に驚いてしまった。
 入口の横はバーカウンターになっており、そこに無精髭を生やした男が立ってグラスを磨いていた。

「子供が何の用だ?」

「あ、えっと……ここでオークションが開かれるという話を聞きまして、出品したいなと思いやって来ました」

「オークションだと……? おいガキ、ここは子供の遊び場じゃねぇんだ。面白半分で来たんなら帰りな」

「いえ、本気で出品するつもりで来ました。面白半分でも何でもありません!」

 仏頂面で追い立てるような物言いに対し、毅然とした態度で言い返すと、男は磨いていたグラスを置いて溜息を吐いた。

「どこでその話を聞いたか知らんがな。ここは子供禁制なんだよ、保護者同伴かせめて十五になってから来るんだな」

「あの……私、既に十五で……成人の義も終えてまして……」

「そっかそっか。嘘つくならもっとマシな嘘つくんだな、ほら、出てった出てった!」

「本当なのですが……信じて貰えないようですね。分かりました、それではまた」

 見た目で舐められるのは今に始まった事ではないけど、ここまで子供扱いされたのは久しぶりかもしれない。
 肩を落としながら店の外へ出ると、ドンスコイとコブラ、構成員や子供達までが不思議そうな目で俺を見てくる。

「どうでやんした?」

「それがさ……」

 ドンスコイとコブラに今の出来事を話した所、二人は突如憤慨し、殴り込みをかけるかのように店へと突撃して行ったのだった。

「「店主ううう!」」
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