欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四〇七話 鬼人のネームバリュー

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 そんなこんながあり、子供達はトロイの構成員にガードされながらオークション会場へと向かっており、それを率いる俺には周囲の目が痛いくらいに突き刺さる。
 俺の屋敷がある区画は上級居住区であり、オークション会場までは結構な距離がある。
 なるべく人目を避けるように裏路地などを経由しているのだけど、それでもご近所の目というものがある。
 急いで上級居住区を抜け、商業区画を抜けて下級歓楽街を歩いていると、俺の肩にほのかに光る燕が止まった。

『はぁーい。フィガロちゃんじゃないの。お元気? そんなに大勢引き連れてどこ行くのん? 遠足ぅ?』

「お久しぶりですアルピナさん」

 肩に止まった燕から聞き慣れた艶っぽいアルピナの声が聞こえてきた。
 大方上空を巡回していたシキガミが俺の姿を捉えた為に、寄ってきてくれたのだろう。

「これからオークションへ向かう所です。ちょっと急遽大漁の資金が必要になりまして」

『あらぁ、そうなのねん。どこの会場かしらん?』

「ハインケルから受け取った地図には七十六区画とありますね」

『七十六区画……あー……なるほどねん。私はとやかく言える身分じゃないからアレだけど、程々になさいな?』

「大丈夫ですよ。お金が必要なだけで何かを買おうという気はありませんので」

『そおいう事じゃないんだけどねん……ま、気をつけて行ってらっしゃいな』

「はい、ありがとうございます」

『近いうち遊びにおいでな。ウチの子達もフィガロちゃんに会いたがってるわよん』

「わかりました。必ず遊びに行きますね!」

『じゃあねん』

 アルピナはそう言うとシキガミを飛ばし、上空に消えて行った。
 オークションには様々な物品がセリにかけられるので、欲しくなってしまう品物があるかもしれないから気を付けろ、とアルピナは言いたかったのだろう。
 だが心配ご無用、俺にはセリに出す品物はあっても買い取るような資金がないからな。
 自分で言ってて悲しくなってくるが致し方ないだろう。
 俺の収入源といえばろくに出来ていない冒険者稼業なのだから。

「ボス! ガキどもが腹減ったと言ってますが!」

 アルピナの使役するシキガミが去ってからしっばらくして、子供達を囲んでいた構成員の一人が俺に駆け寄りそんなことを言った。
 子供達には屋敷から出る前に昨日の惣菜の残りを食べさせたはずなのだけどな。
 育ち盛りだからなのかもしれない。

「そしたらこのお金で何か適当に買ってきてくれ。幸いここは歓楽街だし、何かあるだろ。コブラも一緒に行って帰って来るときにウィスパーリングで連絡してくれ」

「あ、姐御とですかい!?  やったぜ!」

「かしこまりました。ほら、さっさと行くぞ! 金は私が持っておく」

「へい! 姐御!」

 そう言って構成員に渡したお金の入った皮袋をコブラがひったくり、満面の笑みの構成員を連れて去って行った。
 下級歓楽街は俺がトワイライトに身を寄せていた時よく出歩いていたので、結構顔見知りが多かったりする。
 商業区画にも歓楽街はあるけど、そっちは上級居住区の住民が多く訪れるために値段設定も上級仕様だったりするのだ。
 その点こちらでは一般から貧困層向けのお店が多く立ち並んでいる。
 ランチア守護王国の国民は上級、中級、下級の三つに大別されるのだが、下級国民の割合が非常に高い。
 ゆえに下級歓楽街はいつでも人でごった返しており、露店や行商なども商業区画に比べて非常に高い割合で出店している。
 時たますれ違う顔見知りと挨拶をしながら歓楽街を歩いていると、前から俺たちと似たような集団が肩で風を切りながら歩いてくるのが見えた。

「旦那、アイツら他の組の奴らでさ。トロイが足を洗った分、他の組織の連中が幅を効かせるようになってるらしいです」

「えぇ……なにそれ……絶対めんどくさいじゃん……」

「まぁ旦那ならお茶の子さいさいでやんしょ」

「お茶の子さいさいとか最近聞かないよ……」

 こちらとしては子供もいるし、揉め事はお断りなのだけれど向こうはそう思っていないらしく、目ざとく俺達に目をつけた彼らは速度を上げて近づいて来た。
 どうしてこうなるのかな……本当に。

「おうおうおう! 随分と偉そうに歩いてるじゃねぇか、あぁん?!」

「ここがベルトンのシマだってわかってんだろうなぁ! おおん?」

 てっきり俺に絡んでくるかと思いきや、俺を素通りした彼らは後方でメンチを切りながら歩く構成員達へ絡み出してしまった。

「ベルトンだかザブトンだか知らねぇが俺たちゃ遊んでる暇なんて無いんだよ。失せな」

 一触即発かと思いきや、構成員達は意外にも大人な対応をして切り抜けようとしているようだ。
 てっきり絡まれたら売り言葉に買い言葉でトラブルに発展するかと肝を冷やしたが、案外そんな事は無さそうだった。

「んだとテメェ! 舐めた口きいてくれんじゃねぇか!」

「あぁ、悪かった。ついな。俺達はもうお前らみたいなドブネズミとはちげぇ、しっかりと地に足を着けて働くシャバの人間だ。キャンキャン吠えてる暇があったらゴミ拾いでもしてシマに貢献しろや」

「んだとごるぁ!」

「やんのかテメェ!」

 前言撤回。
 構成員達に揉める意思は無さそうなのだが、言う言葉に一々トゲがあって挑発に似たような台詞回しになってしまっている。
 少し前までは彼らと似たような生活を送っていただけに、どうしても言葉の節々にそういうところが出てしまうのだろう。

「まぁ待て待てお前ら! ベルトンの奴らだろ? ここは俺に免じて水にながしちゃくれねぇか」

 挑発まがいの事を言われて激昂する彼らと、嘲るような態度の構成員との間にドンスコイが割って入った。
 ドンスコイも比較的柔らかな物言いで接しており、彼もまた揉め事を回避しようとしてくれているのだろう。

「あ、あんたは! 鬼人!」

「なんで鬼人がこんな所に!」

 額に青筋を立ててがなりたてていた彼らだが、ドンスコイの顔を見た途端、顔を青ざめさせて後退りをしだした。
 鬼人、か。
 そういえばロンシャンでコブラがそんな事を言っていたな。
 
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