欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四〇五話 処分品

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 予期せず現れたコブラと共に、ずっと放置していた家具達を見て回る。
 どれもが薄らと埃を被ってしまっており、せっかく新品に戻ったというのに掃除の一つもしなかったので、何だか申し訳ない気になってくる。

「フィガロ様、これが?」

「そうだ。トロイに流そうと思ってる家具達だよ。どうだ? 売れそうか?」

「はい、素人判断ですけれど、新品同様ですから良い値で売れると思いますよ」

 家具は全部で十三個、衣装ダンスや椅子を始めとして、リッチモンドが座っていたロッキングチェアもある。
 クロムにはこの家具のどれかを譲る、と話しているので実際に流すのは十二個になるのだけど……。
 ロッキングチェアを売りに流すのはどうかと思ったが、彼自身が売っていいと言うのだ。
 俺とリッチモンドとの出会いに立ち会った、思い出の品とも言えるロッキングチェア。
 二百年リッチモンドと共にあり、見果てぬ夢を見続けさせたロッキングチェア。
 きぃこきぃこと揺れては返し、孤独と戦い続けた悲しき男を見守り続けたロッキングチェア。
 いやダメだ! やっぱりこのロッキングチェアは売れない! 手放せない!

「あの……フィガロ様? なぜロッキングチェアを凝視しながら変な顔をしていらっしゃるのです?」

「へぁ?」

 俺がロッキングチェアに思いを馳せていた所、コブラが遠慮がちに聞いてきた。
 我ながら間抜けな声を出してしまったが、それがさらにコブラの気遣いに火をつけてしまったらしく。

「フィガロ様。フィガロ様に何かお考えがあるのでしたらこれらの販売は控えさせて頂きます。私共もフィガロ様への甘えが強すぎましたね、申し訳ございません」

「違う、違うんだ! 違うんだけどこのロッキングチェアだけはウチに残しておこうと思う!」

「そ、そうですか? ならそのように致します」

 思わず大袈裟な身振り手振りで説明すると、コブラは面食らったような顔をして了承してくれた。
 クロムが派遣してくれた鑑定士は、コブラとドンスコイの二人と商談に近い話を行い、準備が出来たらクロムへ連絡して欲しいと言い残したらしい。
 なのでコブラは明日にでもクロム邸へ赴いて、色々と話を進めるそうだ。
 トロイの構成員達の半分は廃集落に詰めて、改修作業や整地に勤しみ、もう半分は街の至る所で運び屋や何でも屋、補修工事にドブさらいなどの様々なアルバイトに励んでいるらしい。
 何故彼等がアルバイトに励んでいるかというと……。
 
「それと……大変言い難いのですが……」

「どした?」

「あの……そろそろトロイの運転資金の方が、ですね……」

「あ……なるほど……コブラに任せっきりだったから完全に忘れてたよ……そうだよな、改修作業やら構成員の給料やらでお金、無いよな」

「はい。ある程度の小金であれば古物商で賄えるのですが、改修作業にかかる材木や釘、食費なども加味するとやはり足りません……今までは貯蓄していた分を切り崩したり、構成員の半数を出稼ぎに出したりと何とかやりくりしていたのですけれど、やはりそれでは色々と厳しく……お力添えを願えませんでしょうか……?」

 トロイが裏の世界から足を洗ったという事は、それまでの収入が無くなるという事なのだ。
 だからこそトロイの半数があくせくとアルバイトに勤しみ、貯蓄を切り崩すなんて事になったのだ。
 なぜもっと早くそこに気付かなかったのだろうか、我ながら能天気過ぎる。
 
「はい! 勿論です! いくらですか!! 本当にごめんなさい!」

「え、いやあの、いくらとか具体的な数字は計算していないのでなんとも……」

「じゃあなるべく早く計算して俺に教えてくれ!」

「わ、分かりました! ありがとうございます!」

 俺が断言すると、コブラは花を咲かせたようにぱっと笑顔になり深々とお辞儀をした。
 構成員もそうだけど、StG傭兵団に払う金銭の確保もしなければならない。
 シスターズや子供達、ピンクやヘカテーなどの亡命組の当面の生活費も稼がなければならない。
 今はそれが最優先事項だな……。
 
「コブラ、ドンスコイを呼んできてくれ。ハインケルと話した結果を知りたい」

「はっ! 早急に!」
 
 俺とリッチモンドが冒険者の仕事をこなして得られる金額も、大所帯を世話するには到底足りない。
 ならばハインケルと会い、オークション会場を聞いているドンスコイから場所を聞き、金庫室の品のどれかをセリにかけるしかない。
 金庫室には様々な物品が眠っている。
 ビンテージワインや小型の時刻盤以外にも希少な物品がある事を祈るしかない。

「旦那ぁ! お呼びですか!」

「あぁ、ハインケルからオークション会場の情報聞いてきたろ? それを教えてくれ」

「がってんだ! こんな事もあろうかと、肌身離さず持っていやしたぜ!」

「ドンスコイにしてはやるじゃないか、ありが……と、う……」

 ドンスコイはキメ顔をして懐から一通の封筒を取り出し、その中から紹介状と地図を出して、俺に渡してくれたのだが……。
 肌身離さず持っていたおかげで、書類全体が汗でしっとりと濡れていた。

「へへ! 旦那に褒められたぜ! コブラ! 兄ちゃんはやったぞ!」

「良かったねお兄ちゃん!」

「はは……」
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