欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四〇一話 ただいま

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「「「お帰りなさいませ! ボス!」」」

「あ、あぁ、ただいま」

 ランチア守護王国にある、廃教会を利用したトロイの元アジトの前には総勢三十人の構成員が列を為していた。
 廃教会の前には布を被ったスケルトンホースと、幌馬車が止まっている。
 スケルトンホースのポテンシャルはやはり強力で、ロンシャン連邦国からここまで夜通し走り続け、僅か三日で辿り着いてしまった。

「あらぁ……疑ってたわけじゃないけど、フィガロ様ってホントに部下いたのね。でもなんか……ゴロツキみたいな方々が多いわね」

「あはは……それには色々とあって……」

 馬車から降り立ったヘカテーが物珍しそうに構成員を見回し、的を得ている感想を述べた。
 
「よぉフィガロ。元気してたか?」

「ハインケル! 貴方こそ大変だったようで……無事で何よりです」

 教会の扉の前の石段に座り、膝に肘を立てたハインケルが片手をひらひらさせ、鼻で笑った。

「俺がやられるわきゃねぇだろ? んでどした、その大所帯は」

「これもその……色々とありまして……」

「んだぁ? まーた面倒事持ってきたんじゃねぇだろな」

「違います違います! ただここで何人か仮住まいをさせてもらおうかと思いまして」

「難民かなんかか? まぁいい。俺だって間借りさせて貰ってるようなモンだからな」

「ではさっそく」

「おう」

 ハインケルと握手を交わし、トロイの構成員は亡命組の荷物を次々と馬車から降ろしていく。
 元アジトに仮住まいするのはシスターズ、ダンケルク、メタルライン、ヘカテーの七人だ。
 ヘカテーの衣服はロンシャンを出る際に取り替えられており、王族が着るような服ではなく、一般人が着るような服へとなっている。
 王族を地下で暮らさせるには抵抗があったが、ヘカテーが大丈夫だというのでこちらに住んでもらう事になった。

「じゃあプル、皆を頼むぞ。特にヘカテーをな」

「かしこまりました。シスターズの全力をもってお世話させていただきます」

 プルは冒険者のような出で立ちだが、他の三人はメイド服を着用しており、プルの後ろに立っている。
 
「悪いなぁフィガロ様、ワガママ言っちまったようで」

「あの、ホントにありがとうございます。辺境伯様とはつゆ知らず……」

 シスターズとヘカテーが廃教会に入っていくのを見届けると、メタルラインとダンケルクが近付いて来た。
 
「いいんですよ。きちんとした家が建ったら迎えに来ます、それまで辛抱して下さい」

「俺ぁドワーフだから穴蔵で暮らすにゃ抵抗無いぜ」

「僕も大丈夫です! 一応魔人ですから!」

「魔人と地下って関係あるのか?」

「違ぇねえ!」

「茶化さないでー!」

 笑い合うメタルラインとダンケルクの二人と握手を交わし、送り出した俺は再びスケルトンホースに跨る。
 コブラとドンスコイには今後の予定も話したいので、そのまま屋敷に来てもらう事にした。
 
「隊長、我々はここで」

「分かった。また連絡するから、そっちからも何かあれば連絡くれ」

「承知した。ピンクよ、違和感が拭えないとは思うが頑張れ」

「うん。ありがとう」

 ブラックはピンクと固い握手を交わし、ブラウンとホワイトを連れて街中に消えて行った。
 
「さ、俺達も帰ろう」




『お帰りなさいませ、ご主人様。長いお出かけでしたね』

「ただいま。留守中ありがとう。何か問題は?」

『特に問題はありませんでした。数人の来客がありましたが、コブラ様が対応されておりました』

「そっか。わかった。これからしばらく人が増えるから、認識しておいてくれ」

『仰せのままに』

 スケルトンホースと馬車を玄関口に停め、荷降ろしを終わらせた後、ピンクと子供達を屋敷に認識させた。
 子供達は屋敷の声を聞き、喋る家だ! と言って大いにはしゃいでいた。
 ピンクがそれを優しくなだめ、リビングに誘導してソファへと座らせた。
 子供の扱いが実に様になっているのは、やはり過去に四人の子を持っていたからなのだろう。

「こりゃ俺の部屋と地下には結界を張らにゃダメだな」

「どうしてですか?」

 親を亡くし、見知らぬ土地に連れてこられたというのにわちゃわちゃと騒がしくはしゃぐ子供達を見て、クライシスが溜息混じりにそう言った。

「俺の部屋と地下には貴重なもんがしこたまある。それをアイツらに壊されたり駄目にされたらかなわんからな」

「あーなるほど、確かに」

「お師様の持っている品々は凄いんだよ? アーティファクトやら幻の魔導書なんかもあって」

「うん、大丈夫、俺も一時期一緒に住んでたからクライシスの所持品の凄さは分かるよ」

「あぁそうだよね。んでさ、一通り片付いたらちょっと話があるんだ」

「話って……?」

「忘れたのかい? シスターズの元所有者、ミロクだよ」

「悪い、完全に忘れてた……」

「はぁー……ま、あんな状況下だ。忘れても仕方無いね」

 リッチモンドは肩をすくめながら子供達とピンクを眺め、クライシスはさっそく結界を張りに上がって行った。
 コブラとドンスコイは庭でクーガとラプターの二匹と戯れており、実に楽しそうだった。

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