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2巻
2-1
しおりを挟む「シャルルヴィル王女様はどちらに! ドライゼン王の勅命により、王女様の引き取りに参った次第! 誰かあるか!」
アンデッドがランチア守護王国の王都を襲撃するという、未曾有の大事件が起きた翌日。
俺――フィガロはようやく戦いを終えて、王女シャルルが待つ歓楽街の店、トワイライトに戻って休もうとした。
しかしそのタイミングで、書状を携えた兵が一人、店先で大声を上げた。声量が大きすぎて、周囲に丸聞こえである。
いくら事件が終息したと言っても、シャルルを狙う輩が居なくなったワケじゃない。どこに潜んでいるかも分からないのに不用心すぎるだろう。
「はいはい! ごめんなさい! お迎えご苦労さまです! あ! タウルスじゃない! 貴方も来てくれたのね! ご苦労さま!」
「ほっほ。ご無事で何よりです」
シャルル専属の執事で、近衛でもあるタウルスが、燕尾服を着て馬車の横に控えている。
この人も柔和な顔をしているが、かなり強いという話だ。
出迎えたタウルスへ手を振り、兵の対応をするシャルル。口を開きかけた兵の唇に人差し指を押し当て、ウインクをして黙らせた。
それだけで兵の顔は赤く染まり、初めてキスをされた女子のように、手で唇を押さえていた。
ま、シャルルは可愛いからな。当然の反応だと思う。
「じゃあねみんな! 今度王宮に遊びに来てよ? 美味しいお菓子を用意するわ!」
「そりゃ無理な話だよ。一般市民がおいそれと王女に会いに行けたら苦労しないって」
店先で俺の横に控えていたコブラと握手をするシャルルに、俺は答えた。
闇組織アジダハーカのボス、ハインケルは悪の親玉だけあり、兵に面が割れている可能性もあるので、見送りには来ていない。アルピナも床に伏せているので、店先に出ているのは俺とコブラとトワイライトの従業員の皆さんだ。
「それもそうね。残念。さ、早くフィガロも乗って」
「えっ⁉ いやいや! 俺は後で行くよ! 色々とやらなきゃいけないこともあるし!」
停まっていた馬車に乗り込み、手を差し出してくるシャルルの誘いをやんわりと断った。
「分かったわ! じゃあその時は、クーガに乗って来るといいわ。兵達にはクーガの姿形を伝えておく。大きな狼に乗った少年が来たら私とお父様に知らせるように、ってね。そうすれば面倒臭い手続きとかも無いはずよ!」
「えええ……マジかよ……」
「うん、大マジよ? それじゃ待ってるからね!」
「ではフィガロ様、私もこれにて失礼いたします。この度は誠にありがとうございました」
朗らかに言い切り、これ以上反論はさせないとばかりに、シャルルはさっさと馬車の扉を閉めてしまった。
タウルスは御者の席に座り、手網をピシリと打つ。
それを合図として馬車はゆっくりと走り出し、蹄鉄の音が遠ざかるのを聞きながら、俺は深くため息をついたのだった。
「行ったか?」
「はい」
「あの子、ホントに王女様だったのね」
扉の後ろに隠れていたハインケルが顔を出し、上位個体のヴァンパイアであるコルネットもつられて顔を出す。
「とりあえず俺達は帰るぜ。コルネットは俺の家で預かる事にした」
「分かりました」
片手をコルネットの上に置き、もう片方の手で自分の後頭部をガシガシと掻きながら、ハインケルが言った。
一応事件は終わりを迎えたが、行方不明のデビルジェネラルの動向が気がかりである。
アエーシェマが滅びた今、配下であるデビルジェネラルがどう出てくるのかが分からない。
「考えても分からないものは分からないし、とりあえずアルピナさんと話してからだな」
「アタシはもう平気よぉ? トワイライトの子達がいるし、フィガロちゃんはフィガロちゃんでやりたい事あるんでしょ?」
唐突に背後からアルピナの声がした。
振り向くと、従業員に肩を借りながら歩いてくるアルピナが居た。
「アルピナさん! 動いて大丈夫なんですか⁉」
「魔力プールマックスとは言えないけど、皆から魔力をもらったからね。ぐうたら寝てるわけにもいかないのよぅ」
「分かりました。でも決して無理はしないでくださいね」
俺の言葉に対し、弱々しくサムズアップで応えたアルピナは、地下へ向かっていった。
幽霊屋敷の地下にいた司祭を衛兵に引き渡したコブラから、衛兵達は数日の内に屋敷の調査に入るとの情報も聞いている。
あの屋敷にあった黒剣はアエーシェマと共に無くなってしまった。だが屋敷には呪いが掛かっているかも知れないので、捜査に入る衛兵達が少し心配だ。
先に入って色々調べるのもアリかな?
「そこら辺も、ドライゼン王と話す必要があるよな」
ボロボロになった自分の衣服を見つつ嘆息する。
ドライゼン王から顔を出せと厳命されているが、こんな格好では行くに行けない。
王宮へ向かうのは明日にしようと思う。
一国の王に謁見するのだ、小綺麗にしとかないと駄目だろうしな。
それに昨日から夜通し動いていて一睡もしていないのだ。正直眠くて仕方が無い。
「もうひと踏ん張りして、ルシオさんの所に行こっかな。剣も出来てるだろうし」
ハインケルとコルネットを裏口から送り出し、軽めの昼食を取った後、タルタロス防具店に行くために、トワイライトの皆から服を借りようとしたのだが……。
「あの、どうしてこんなフリフリなんですかね?」
「だぁってフィガロちゃんのお顔かわゆいんだもーん。どうせならメイクとかしちゃう? 世界が変わるわよ?」
「私は一応男なので! 化粧は結構です!」
「ほらほら! このスカートなんて似合いそうじゃない? 穿きましょ穿きましょ!」
「スカートなんて穿きませんって! 普通の! 普通のズボンとシャツは無いんですか!」
着せ替え人形で遊ぶような勢いで、様々な衣服を持ち寄るトワイライトの皆様。
その中にまともな服は一つもなかった。
これでもかと言わんばかりのフリフリが付いたワンピース、お尻がはみ出そうなぐらいギリギリの長さの短パン、大きな花柄のドレスシャツやボタンの付いていない真っ赤なワイシャツ……。
男であり女であるこの人達の、ファッションセンスを疑わざるを得ない物ばかり出てくる。
やっとこさネイビーブルーの長ズボンとミルク色の貫頭衣をゲットし、逃げるようにトワイライトを後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
結局なんやかんやあって街へ繰り出したのは夕方近く。
もうすぐ空が茜色に染まり始める頃だったが、街は活気で溢れていた。
「住人達に真実は知らされていないんだろうな」
飲食店や屋台からはいい香りが漂い、無遠慮に俺の鼻腔に入り込んで来る。
先ほど軽めの昼食を取ったばかりだというのに、腹の虫がクルクルと鳴る。
帰りに何か買っていこうと心に決め、タルタロス防具店へと足を早める。
青果店や魚屋、肉屋の店先では、買い物に来た近所の奥様方が井戸端会議を開いている。
耳に入る会話から察するに、やはり昨日の出来事は徹底的に情報操作が行われているらしく、アンデッドのアの字も出ていなかった。
やぁね、やぁね、と口癖のように繰り返す奥様方を横目に、タルタロス防具店の扉を開けてルシオを探した。
「こんにちは。昨日は大変でしたね。お元気そうで何よりです」
武具の在庫確認をしていたのか、棚を見つつ手元の用紙に何か書き込んでいたルシオに声をかける。
「これはこれはフィガロさん、大変なのはお互い様です。そんな事より例の品物、出来ております。あちらの部屋でお待ちください」
「本当ですか! どんな剣なのかと胸を高鳴らせておりました」
爽やかな笑みを浮かべるルシオと軽く挨拶を交わし、取引部屋へと移動する。
提供されたお茶を飲みつつ部屋で待っていると、大きな桐箱を持ったルシオが現れた。
ショートソードだと聞いていたのだが……あの箱はノーマルソードぐらいの大きさはある。
ショートソードの場合だと、最長でも刃渡り六十センチぐらいが妥当なはずなんだが……。
「ルシオさん、これは……」
「ふふふ……」
怪しげな笑みを浮かべるルシオは、質問に答える代わりに箱をゆっくりと開ける。
箱の中にはファルシオンソードのような刀身をした白銀の剣が二振り納められていた。
「今回はフィガロさんから受け取ったインゴットを使い、新しい製法にて鍛造してみました。持ってみれば分かりますが、この剣は普通の剣じゃありません」
「でも、見た目はファルシオンですよね……あれ? この溝は……?」
直刃の刀身で幅は十センチほど。刃は約八十センチ程度で僅かに弧を描いているのだが、刃の反対側の棟と呼ばれる部分が櫛のような鋸のような形状になっていて、溝部分は三センチほどの深さがある。
大きめの鍔が付き、柄はなめし革が編むように巻かれただけのシンプルな作りで、柄頭には正十二面体に加工された金属が使用されている。
「この溝は相手の剣やモンスターの爪などを受け止める事が可能です。大型の剣は難しいですが、大抵の剣であれば対処できます。溝に嵌まれば上に引き上げないと抜けませんので、相手のテンポロスも狙えますし、上手くやれば相手の武器を破壊する事も出来ます。作りに関してなのですが、いただいたプラチナミスリルは、新しい試みである積層打ちで何度も何度も伸ばしては折り重ねて叩き上げ、不純物を徹底的に追い出し、さらに通常の水焼きと呼ばれる工程を、特殊な油に漬け込む油焼きという、新しい方法に変更しております。油焼きをする事で柔軟性のある鋼組織が出来上がり、錆びや劣化、刃こぼれに強い性質を引き出します。加えて、叩き上げたプラチナミスリルを基に、二種の金属を薄く重ねて鍛造しました。これでミスリルの弱みである、硬さ不足もカバーしてあります。あぁ、ちなみに二つの金属もミスリルに馴染みやすい種類を使用していますので、武器強化の魔法などもよく効果が出る事でしょう」
「な、なるほどぅ……」
熱く語るルシオの説明を聞きながら剣を手に取る。
柄を掴むと、手に吸着するかのようなフィット具合に軽く驚きを感じた。
だが驚くのはまだ早かった。持ち上げた瞬間に重みをほとんど感じないのだ。
この大きさであれば、少なくとも一キロから二キロほどの重さがあって当然である。
剣は刀身の重みを利用した加速で叩き斬るのが普通で、重みがないというのは……。
「振ってみますか?」
「いいんですか?」
「構いません」
ルシオの言葉に甘えて部屋の隅へ行き、数度素振りをする。
剣ではあり得ない、小枝を振った時のような風を切る音がピュンピュンと鳴る。本当に軽い。
二本で一本分の重みと言っても過言ではない。
軽さに気を良くし、振る速度を少しずつ上げていくと、しばらくしてルシオからストップがかかった。
「ちょ! ちょっとフィガロさん! すごい……まさかこれ程とは」
そう呟くルシオの視線は剣ではなく部屋の反対側の壁に注がれており、つられて見てみると……。
「え……? なんですかこれ」
その壁の一箇所だけに、ズタズタに斬り付けられたような跡が出来ている。
「真空刃……風撃衝……閃刃、などと呼ばれておりますが、超高速で振った武器から発する見えない斬撃、といった所です。ヴェイロン皇国の剣聖が使用したという話は聞いた事がありますが……それ以外で確認された事象はありません。似たようなものに風魔法の【ウインドカッター】がありますが……それとは速度も威力も段違い、剣聖の放つ斬撃は数メートル先の合金板をも叩き斬ると言われています。フィガロさんの斬撃はそれほどの威力ではありませんが、いずれは剣聖と同じ頂きに……」
「ほ、ほぉん……」
壁に出来た傷痕を撫でながら感心したように話すルシオだが、俺の兄がその剣聖だとは夢にも思わないだろうな。
稽古を受けていた時はそんな斬撃など食らった事は無いので、兄はやはり手加減していたのだな。
今の俺の体はマナアクセラレーションによって常時身体強化されている状態であり、振った剣は規格外に軽い。二つの理由が合わさった事により、兄と似たような芸当が出来たのかも知れない。
「従来の剣は鎧しかり魔物の皮しかり、叩き斬る事をメインに鍛造されております。鋭さよりも頑丈さに重きが置かれております。このような軽い剣は他に存在しない世界で唯一の剣でしょう。ですが新しい試みにより頑丈さは折り紙付きです、どうかお納めください」
「ありがとうございます。大事にします!」
ルシオと固い握手を交わし、修理やメンテナンスなどの細かい説明を聞いた後、タルタロス防具店を出た。
太陽はやや沈みかけており、空は綺麗な茜色に染まっている。
帰る途中に閉店間際の屋台で鳥の串焼きを一ダース買い、外出ついでにしばらく街の空気を感じたくなって、当てもなく街中をうろつく。
街は喧騒に溢れてはいるが、店じまいをする所が増えてきている。この後は仕事終わりの仲間と卓を囲んで酒やらなんやらで楽しむのだろう。
歩きながら串焼きを三本ほど平らげた所で、ふと見覚えのある場所へ来ているのに気付いた。
「ここ……幽霊屋敷じゃないか……」
見れば屋敷の周りにはロープが張り巡らされており、立ち入り禁止の札が掛かっている。
門の前に衛兵が二人立っており、チラチラと屋敷の方へ目をやっている。
「あのー、すみません。ここって捜査が入るんですか?」
衛兵は全意識を屋敷へと向けていたらしく、声をかけると見た目でも分かるほどビクリと肩を震わせて俺を見た。
「あ、あぁ、そうだよ。なんでもこの屋敷の地下で凶悪な事件が起きたらしくてな、人体実験や邪教のアジトだって話もある」
「へぇ……衛兵さんは入ってないのですか?」
「俺達は警備担当だからな。現場検証は明日からだ。けどこんな薄気味悪い屋敷が事件現場だなんて、検証担当じゃなくて良かったよ」
「ちげぇねぇ」
二人の衛兵がクックッと笑い合うのを見ていると、ふと上からの視線に気付き、目だけをその方向に向けた。
屋敷の三階部分にある丸窓、そこに一瞬だが人の姿が見えた。開いてもいない丸窓に付いたカーテンが、ヒラヒラと動いている。
誰かいるのだろうか?
「どうした?」
「……いえ、何でもありません。お勤め頑張ってください、失礼します」
俺が違う所を見ている事に気付いた衛兵が、不思議そうに声をかけてきたのだが、それとなく話を終わらせた。薄暗い事もあり、きっと気のせいだろう。
街をうろつくのもいいが、ついでに剣の試し斬りをしようと思い付いた。
その前に、冷めてしまったが城壁の外でのんびり景色を眺めながら串焼きを楽しもう。
日が沈む速度を考えると、急がなければ夜になってしまう。城壁の外は街道沿いにこそ点々とした明かりがあるが、それ以外は草原や林が広がっているため、夜になれば景色はほぼ漆黒に変わる。
足に力を込めてジャンプし、並んでいる住居の壁を使い三角飛びをして屋根へと上がる。
「んー、風が気持ちいいねぇ」
駆け足で屋根を伝い、頬を撫でる風の優しさに思わず深呼吸をする。
俺は黄昏時の、この何とも言えない空気がとても好きなのだ。
「ここら辺でいいかな」
城壁から離れる事一キロ地点の林に到着。剥き出しの岩に腰を下ろし、冷めてしまった串焼きを頬張る。
この串焼きは香辛料がたっぷり利いた、ランチア市民のソウルフードなのだと屋台のおっちゃんに聞いた。鳥以外にも牛、豚、羊、ミンチ肉、魚、貝、野菜など様々な種類があったのだが、一番人気の鳥にしてみたのだ。
「うん! 冷めてても美味しいや! こりゃあと一ダースくらい買えば良かったかな」
あっという間に全ての串焼きを食べ切り、物足りなさを感じつつ、剣の桐箱を開く。
刀身は黄昏の光を浴びて怪しく煌めいている。
「名前、決めたいなぁ……かっこいいやつ……軽いから……フェアリーソード……いやいや乙女か俺は……んー……」
剣を取っては置いて取っては置いてを繰り返し、剣から早く決めろよと突っ込まれそうなぐらいに頭を抱えている。
自慢じゃないが、俺はネーミングセンスが壊滅的だと自負している。なんせクーガだって、腹を空かして牙を剥いていた狼だから空牙なのだ。
「あ」
ピーンと来た。
見えない斬撃を飛ばす剣、スーパーインビジブルスラッシュソードなんてどうだ?
……長いな……。
「振ってれば閃くだろ」
二振りの剣を持ち、構えを模索。
いい塩梅に立ち位置と構えが決まった所で、林の奥へ向かって強めに剣を振る。右、左、クロスさせて二撃同時。
キュン、キュン、と明らかに剣が鳴らさない音を鳴らして振り続ける。
林の奥はあまり光が届かないらしく、黄昏時だというのに暗くて全く見えない。
目に見える範囲の木の枝に向けて斬撃を放てば、音もなく枝は寸断されて地に落ちる。
これは高い木の手入れをする時に便利だな……。時折林の奥からドサリドサリと音がするが、奥の太い枝でも落ちたのだろうか。
そんな事を考えながら剣速を上げていく。
周囲の落ち葉が剣の風圧に呑まれて巻き上がる。
巻き上がった落ち葉をざっと確認し、切り落とす勢いで両手を振るう。
ひとしきり動いた後、大きく息を吐き出して背中に付けた鞘に剣を収める。
「うん。いい感じだ」
額に浮かぶ汗を拭いながら地面を見る。
体捌きによる足跡が綺麗な円を描いている。
その周囲には、半分に割られた落ち葉が数十枚とそのままの姿の落ち葉が無数にある。
俺の実力ではこれぐらいが限界かな。あまり速く振りすぎると、遠心力で体が持っていかれそうになるのでそこは要練習だ。
やがて日は沈み、遠くに見える城壁に明かりが灯り始めたのを合図に、俺はその場を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
翌日、服を新調し、お昼時の道を王宮に向けてテクテクと歩いていると、井戸端会議中の奥様方の声が聞こえてきた。
その内容はほとんどがご近所付き合いの話だったり、物価の話や噂話だったりするのだが、チラホラと意外な話も混じっていたりするので、案外聞き逃せないものなのだ。
「やぁね」「ほんとやぁね」と、もはや一種の挨拶なのでは? と疑いたくなるほど同じ言葉を繰り返す奥様方。
なんでも近所の林に、ゴブリンやトロールの屍がたくさん転がっていたらしい。
「兵士達は何してるのかしらねぇ」
「ほんとねぇ、やぁねぇ」
見つけたのは隣町から来た、駆け出しの冒険者パーティらしい。
冒険者達は自由の民だ。国に縛られない根無し草の放浪者。
この世界はとても広い。
未開の地が多数存在している事が、それを証明している。
スリルを求める者、迷宮を踏破しようとする者、遺跡に残された宝で一攫千金を狙う者、秘境の謎を解き明かしたい者。
人が冒険者になりたい理由は様々だ。国に守られていない分、国からの保護や恩恵はあまり受けられないし、常に命の危険と隣り合わせ。
しかしそれでも冒険者を目指す若者は多いのだ。
正直、俺も憧れていた時期がある。
旅をしながら世界中を見て回りたい、古代遺跡や世界的な遺産なども実際に見てみたい、と世界のガイドブックを見ながら幼心に思ったものだ。
当時は、魔法を使えない欠陥品の体を嘆いた事もあったが、今は違う。自分の足でどこへでも行けるし、危険に立ち向かう力も身に付けた。
「実力はまだまだだけどなー」
今度落ち着いたら皆に相談してみようか。
海にも行きたいし、山にも……山はいいや。有名な観光地は近い所だとどこなのだろう?
「っとそうだ。クーガに乗って来いって言われてたんだ、出て来いクーガ」
王宮の手前にある巨大な跳ね橋に辿り着いた所で、シャルルの言葉を思い出してクーガを呼び出す。
俺の呼び掛けに応え、背後の影が立体的に膨らみ、中にいたクーガがゆっくりと出てきた。
『はいマスター! どうしましたか!』
「ここからはクーガに乗って行く。ゆっくり歩いて行くんだぞ? 走ったら皆びっくりするからな」
『御意っ!』
巨大な跳ね橋をテクテクと歩くクーガ。
クーガには鞍も何も付けていないため、両足でクーガの胴体を挟み、背中の体毛を手綱代わりにしている。
クーガは胸を張り、顎を引いて、馬のような足取りで進んでいく。
堀の水面が風に揺られ、周囲の木々が葉を擦り合わせる音が聞こえてきた。
軽く緊張している心が少しだけ軽くなる。自然の音にはリラクゼーション効果がある、というのは本当なのかも知れない。
「こんにちは、通っても大丈夫ですか?」
跳ね橋を渡り切った所にある衛兵の詰所へ顔を出し、挨拶をして一応許可を取る。
「あぁ……あ、あんたは? あ、いや! 貴方がフィガロ様ですか? お話は聞いております、どうぞお進みください」
「ありがとうございます」
事務仕事をしていたと見られる衛兵はクーガに驚いたものの、ちゃんと話が通っているようで、すんなりと進む事が出来た。
視線を感じて振り向くと、詰所に居た衛兵が出てきて敬礼をしている。視線を前に向けても誰も居ない。
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