欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三八五話 魔人のランク

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「これは気休めかも知れないんですけど……」

 少しだけ朗らかになった中で、ダンケルクがおずおずと手を挙げた。

「魔人は元になる素材の強さでランク分けがされてます。因みに僕は元々が弱かったので最底辺です」

「ランクを聞いても?」

「はい。下からA、B、Y、SSとなります」

「A、B、Y、SS……アビス……深淵って事ですか」

「恐らくは。SS帯にいる魔人達は非常に強力で、体内に内蔵されている魔導技巧もコンパクトながら魔導師長様が作成した強力なものばかり。角や翼、大きな牙や爪などの身体的特徴もあるのでわかり易いかもしれませんね」

「なるほど! であれば俺達が倒したのはSS帯の魔人だったのか! これなら勝機はあるぞ! 力を合わせれば勝てる!」

 ダンケルクが身振り手振りで説明を終えると、黒龍騎士団の皆さんが拳を握り締めた。
 だがそれを茶化すように赤龍騎士団の一人がせせら笑う。

「黒龍が勝てるのであれば我ら赤龍にとって赤子同然だなぁ」

「なんだとう!?」

 赤龍と黒龍は仲が悪いのだろうか?
 視線を合わせてバッチバチのバチだ。
 
「戯れるのはそれまでだ。ここで言い争っている場合では無い、浮つくな」

 一触即発かと思われたが、アーマライト王が一喝すると互いを肘で小突きながらお前のせいだなんだと言い合っている。
 どうやら仲が悪いのでは無く、良いライバル同士といった関係なんだろう。
 そこからはアーマライト王からダンケルクへの質疑応答が行われ、彼が知りうる限りの情報が開示された。
 ダンケルクからの情報と、今まで出た情報を擦り合わせた結果、魔人の総数は百五十人に登り、初動の戦闘で約五十人の魔人が討伐された事が分かった。
 残る百人の魔人は市街地に散らばっているという。
 魔人に出された命令は【革命軍と正規軍を根絶やしにし、王城に籠る王族を殺害しろ】というものだ。
 革命軍を蜂起したのはガバメントとノーザンクロスの二人であり、ガバメントが現地の司令官、ノーザンクロスが参謀というポジションだった事も判明した。
 ガバメントが倒れても革命軍が機能していたのは、ノーザンクロスが逐一指示を出していたからだ。
 となれば魔人達の狙いはこの王城であり、アーマライト王とヘカテーが最終目標となる。

「ここには一般の避難民も多数身を寄せている。王城が戦場となるのは避けたい。よって……ここまで街が破壊されていては何も戸惑うことは無い。市街地に向けて一斉に直線砲撃を行い、それと合わせて魔法を使える者達での絨毯爆撃を敢行し、魔人達を引きずり出す!」

 力強く言い切ったアーマライト王の顔は、言葉通り一切の迷いが感じられない。
 アーマライト王の気迫に押され、誰かの生唾を飲み込む音が聞こえた。

「改めて伝える。今回の目的は先手を打って魔人達を引きずり出し、根絶やしにする事である。赤龍、黒龍、教会の三騎士団は魔法を使う者と近距離戦を担当する者の二つに分けよ。冒険者の諸君らも同様だが、サポートに回れる者達、補助魔法や治癒魔法を得意とする者達も分けて欲しい。部隊編成は四人から六人で一分隊とし、それらを包括する小隊を構成せよ。小隊長は各部隊で決めて構わないが、決定と同時に総司令であるアストラへ報告せよ。編成は直ちに取り掛かり、準備が整い次第作戦を決行する。シュミットやフィガロ様達は別命を任せたいゆえ数には入れない。これより本作戦を【魔滅の槍作戦】と呼称する! 以上だ!」

 アーマライト王が最終決定を伝えると、部屋に集まっていた面々はすぐさま行動に移り、部屋に残ったのはランチアの面子と、シュミットにダンケルク、そしてアーマライト王とヘカテーだ。

「ランチアの皆々様、この戦いがいつまで続くのかは不明ですが……今しばらく力を貸していただきたい」

「私からも……このような情けない戦いに巻き込んでしまった事、何度謝罪と感謝の意を伝えても足りません。しかしながら私達はに力が必要です……どうか、お力をお貸しください」

 皆が出ていった事を確認し、アーマライト王とヘカテーが深々と頭を下げ、静かに言った。
 ドライゼン王やシャルルを見るも、二人の視線は俺に向いており、タウルスやクライシス、ブラックや守護騎士までも俺を注視している。
 これではまるで、俺がリーダーだと暗に言っているみたいじゃないか……。
 誰も口を開こうとせず、ただただ沈黙が続くのに耐えられなくなった俺は、頭を下げ続けるアーマライト王とヘカテーに向かっ口を開いた。

「私は……私達はこの戦いを終わらせなければロンシャンから脱出する事は難しいでしょう。なればこそ、協力は惜しみなくする所存です。よろしくお願いします」

「ありがとうございます」

「本当に、ごめんなさい……」

 顔を上げて神妙な面持ちをするアーマライト王と、未だ顔を上げないヘカテー。
 小刻みに震えている肩を見ると、込み上げる涙を抑えきれなかったのだろう。
 何度同じやり取りをするのだと思うけど、二人の中ではそれほどの自責にかられているのだろう。
 残る敵はノーザンクロス、アザトース、魔人ガバメント、アビスを冠する魔人軍だ。
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