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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三七四話 シュミット・ヘッケラーコック
しおりを挟む「なんのっ!」
「魔力弾か! だが甘い!」
追撃を牽制する為に、吹っ飛ばされながらも魔力弾を連発する。
しかし十数発はバラ撒いたハズの魔力弾は、躱されるか弾かれるかで全て無効化されてしまった。
運が悪い事に吹っ飛ばされた着地点には別の魔人がおり、俺を見るや否や手にしていた剣を躊躇なく振り下ろそうとしていた。
「きひひ! 何だこのチビびゃっ」
「えっ……?」
白目を剥いて笑う魔人の動きがピタリと止まり、顔に縦線が入った。
魔人の体は真っ二つに割れ、時間差で地面に崩れ落ちた。
割れた魔人の後ろではシュミットが鼻を鳴らして立っており、棍の刃からは鮮血が滴っていた。
「何を……」
「俺の戦いに無粋な真似をした報いってヤツだ」
「……仲間にお優しいのですね」
「わかり易い嫌味をありがとうよ。さぁ、続きをやろうぜ」
棍で肩を叩きながら嘲笑うシュミットを見据え、その後ろにいる教会騎士団の戦況を流し見ると、どうやら善戦しているようで先程と数も変わっていないようだった。
「気になんのか?」
「ええ、まぁ」
俺の視線の先にあるものに気付いたシュミットが、同じように教会騎士団の方を向き、俺と教会騎士団を交互に見比べている。
「……チッ……おいお前」
「なんでしょうか」
舌打ちをしたシュミットはつま先で地面を数度蹴り、その度に土埃が舞う。
興醒めしたような目を俺に向け、物言いたげな顔をしている。
「フィガロっつったか。この戦い、お前はどう思う、どう映る」
「この戦いとは革命軍と正規軍の事でしょうか、それとも魔人達による無差別攻撃の事でしょうか」
「どちら共だ」
「私はこの国の人間ではありません。革命に至った経緯などは分かりません。ですが……やり過ぎだと思います。それに魔人達を造り上げたゼロは……狂気に囚われています。魔人達は自らの力に溺れ、正規軍だけではなく革命軍やそれに賛同する冒険者達、ひいては教会騎士団へも殺戮の手を伸ばしています」
「気に食わねえって顔だな」
「簡単に言ってしまえばそうなりますね」
「だよなぁ」
「へ?」
問い掛けの意味を考えようとした矢先、溜息と共にシュミットはそんな言葉を吐き出した。
「俺ぁよ。正直革命だなんだってのはどうでもいいのさ。五年前、俺はとある事故に巻き込まれて体の六割がオシャカになってな。生きてたのが奇跡なくらいだ。そんな時、ゼロ参謀長が俺の体を治してくれてな。俺が今回の革命に参加したのも、当時の恩義を感じてってだけなんだよ」
「五年前……ひょっとして第一王女様が亡くなられた……?」
「よく知ってるじゃねぇか、ま、有名だから当たり前だよな。その恩義が無けりゃ……俺は正規軍側だったろうよ。革命軍が首都や主要都市を襲い始めた時、俺は進むべき道を間違ったんじゃないかと思い始めた」
「俺も混ぜろよおおおおお!!」
俺とシュミットが対峙しながら話をしていると、横から急に別の魔人が奇声を上げて走り寄ってきた。
空気の読めない魔人だが、シュミットの動きは速かった。
「るっせんだよボケカス! 話してんだろうが! 死ね! 蘇ってまた三度死ね!」
「ぴぎゃ」
高速で振り抜かれた棍の刃が魔人の顔を分断し、魔人は変な声を上げて俺とシュミットの間を走り抜けた後、そのまま地面に突っ伏して死んだ。
「あー気に入らねぇ! 止めだ止めだ! ひとまず戦いはお預けだ、騒がしくて話もろくに出来やしねぇ。おい、フィガロ、背中貸せや」
「え……あ、はい……」
完全にシュミットのペースに乗せられているが、話した感じ、他の魔人のように浮き足立っているわけでもないし、意思の疎通も図れる。
悪い人では無さそうなので、とりあえずシュミットの提案に頷いて近くに寄る。
「俺に付いてこい。ここら辺の魔人を一掃してやる。話はその後だ」
「わ、分かりました。宜しくお願い致します」
「まずあそこに居る教会騎士団の嬢ちゃん達を引かせるぞ。遅れんな!」
「はい!」
棍をクルクルと回し、後ろ手に構えたシュミットは身を低くし、地を蹴って砲弾のように突っ込んでいく。
俺も負けじとシュミットを追従し、教会騎士達の前で二手に別れた。
「熾天使様!」
「私とあの騎士で魔人を葬ります! 皆さんは少しずつ後退をお願い致します!」
「承知致しました!」
近くにいた女騎士にそう告げ、集まり始めた魔人を一撃で葬りさっていく。
教会騎士団に近い魔人達には、フレイムバスターカノンを放って俺に意識を向けさせる。
反対側の方でもシュミットが無双しているのか、魔人達の断末魔が聞こえてくる。
なし崩し的に協力関係になったが、あれ程の実力者に手を貸して貰えるのなら被害ももっと抑えられるだろう。
気になるシュミットの内情は後ほど聞けるのだし、今は頼りにさせてもらいたい。
フレイムバスターカノンとフレイムバスターアームズの併用は中々に便利であり、近距離と中距離に高い適合性を感じる。
数人の魔人を倒した時ふと竜巻魔人の事を思い出し、俺も試してみようと思い付いた。
フレイムバスターアームズのイメージを脚部で展開し、両脚に炎風が纏わりついた。
仲間がこれだけ殺られているというのに、他の魔人は自分は違うと思っているのか、俺に向けて勇猛果敢に突撃してくる。
魔人の攻撃に合わせ、回し蹴りを放つと実にあっさりと半身が吹き飛び、残った下半身がビクビクと痙攣を起こしている。
脚部の筋力は腕の数倍はあると言うし、魔法の力も加わって良い感じに仕上がった。
これで魔人を仕留める手数が二つから四つに増えたわけで、その分処理速度も上がるというものだ。
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