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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三七〇話 教会騎士団
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これで四体の魔人を葬ったわけだが、戦場で暴れ回る魔人の数は多く、定かな総数が分からない。
「陣形を維持! 迂闊に仕掛けるな!」
「神の使徒たる我ら! 貴様らなんぞには負けぬ!」
道すがらに一体の魔人を葬り、数人の兵士を助けた時、少し離れた所から雄々しい女性の声が聞こえた。
目を向ければそこには密集陣形を取り、武器を構える女性の集団がいた。
「あれは……?」
「フィガロ様! ありがとうございます! あれは教会騎士団の者達ですね。生き残っていたようです」
「教会騎士団……あの人達が」
助けた兵士はどうやら正規軍だったようで、俺の顔を見るなり破顔し、独り言のような呟きに答えを返してくれた。
教会騎士団、俺はてっきり男達の騎士団かと思っていたけど、まさか皆女性だったとは。
身に付けている鎧はフルプレートメイルと、シスター服を合わせて二で割ったような装いだ。
軽装備とも重装備とも違う、女性らしい意匠を施された鎧。
シスターメイルとでも呼べばいいのだろうか?
従来のフルプレートメイルは総重量が重く、女性で着こなすのは中々に難しい。
ゆえに女性の騎士の殆どが軽装のライトアーマーを着用している事が多い。
額には小さな羽の意匠がついたサークレットが付けられ、頭部のヘルメットからは黒いウィンプルが垂れている。
胸部には大きなロザリオが嵌められ、肩にはスカラプリオのようなマントがのびており、風を受けてはためいている。
地面には何人かの教会騎士団が倒れており、既に息は無いようだった。
ラプターから聞いた話では、迷宮管理塔には約六百人の教会騎士団がいたはずだけど……見た感じは二百人程度しかいないよう思う。
崩落や砲撃に巻き込まれて亡くなったか、騒乱のさなかに散り散りになったか。
教会騎士団は二十人で円形の密集陣形を構成しており、付かず離れすの距離で十の円が展開されている。
相対している魔人の数は三十人ほどだが、どの魔人を見ても笑みを浮かべていたり、蔑むような目をしていたり、余裕たっぷりの態度が見て取れた。
「いくわよみんな! 集団魔法【セントプリズム】!」
騎士の一人が魔法名と共に天に向けてハルバードを突き出すと、十の円それぞれを包み込むように三角形の煌めく障壁が張られた。
「あれは……!」
「知ってるんですか?」
俺と共に教会騎士団と魔人の対立を見ていた兵士の一人が、胸の前で十字を切りながら声を上げた。
「勿論です、あれは教会騎士団が誇る神の障壁。教会騎士団のみが扱う事を許された光属性に当たる上級魔法です」
「へぇー……」
兵士が憧憬の目で教会騎士団を見つめるが、俺は嫌な予感しかしなかった。
なぜなら魔人達が浮かべる余裕な表情に変わりは無く、ほくそ笑む者もいるくらいだからだ。
「ちょっと行ってきます」
「フィガロ様が? これは心強い! どうか彼女達とフィガロ様に神の御加護を!」
「ありがとうございます、皆さんは戦線より後退しつつ友軍と合流して下さい。少人数より多人数の方が有利ですから」
「は!」
綺麗な敬礼を見せた兵士を置いて、俺は急いで教会騎士団の方へ向かった。
再び両腕にフレイムバスターアームズを発動させ、薄ら笑いを浮かべて教会騎士団に歩み寄る魔人の背後を強襲した。
「雑魚がなにびゃ」
俺の気配を察知した魔人がこちら向くが、余裕綽々で警戒もしていない状態の魔人はそのまま頭部を爆ぜさせて地面に倒れた。
「私も混ぜて下さいよ、魔人の皆様」
俺が乱入した事により、魔人達の意識がこちらに向けば良かったのだが、俺に意識を向けたのは三人の魔人だけだった。
「少年! 下がれ!」
直近にいた騎士の一人が大声を上げるが、その顔は困惑の一色に染まっていた。
魔人の背に遮られて俺の姿が見えなかったのだろう。
彼女達からしてみれば突如魔人が爆ぜ、代わりに俺が立っているのだ。
「んだ? おめ、んだ? ンのかこら」
「生まれ変わって喋り方を学んできて下さい」
リーゼント姿の魔人がつかつかとメンチを切りながら俺に寄ってくるが、即座に上半身をぶっ飛ばした。
下手に気心を加えても反撃を貰うだけ、一撃で頭を吹き飛ばしてしまえば時間も短縮出来るし、反撃される事も無い。
元は人間だった魔人。
しかし出会う魔人は全て狂気と暴力、殺意に塗れた危険人物と化している。
心を痛める必要は無い。
悩む必要も無い。
ただ淡々と戦えばいいのだ。
「おい」
「あぁ、アイツは違う。楽しめそうだ」
リーゼント魔人を倒した事で、二人の魔人の目付きが変わった。
魔法で迎撃しても良いのだけど、変に抵抗されて戦いを長引かせたくないし、不利な状況にもなりたくない。
今は少しでも早く正規軍を退避させて、ただでさえ少ない戦力を少しでも多く残さなければならない。
「行きます」
拳を握り、こちらへ歩み寄る魔人を見据えて意識を集中させる。
「来い小僧! 生まれ変わった僕の槍、とくと知れ!」
「俺の必殺四連撃! 食らってみるがいい!」
仲間が殺られたというのに、二人の魔人に悲しみや怒りの色は無く、ただただ戦闘を楽しむ狂者の喜びが色濃い。
一人の魔人は四肢に竜巻のようなものを生みだし、もう一人は巨大な双頭の槍を振り回してこちらへ駆け出した。
「陣形を維持! 迂闊に仕掛けるな!」
「神の使徒たる我ら! 貴様らなんぞには負けぬ!」
道すがらに一体の魔人を葬り、数人の兵士を助けた時、少し離れた所から雄々しい女性の声が聞こえた。
目を向ければそこには密集陣形を取り、武器を構える女性の集団がいた。
「あれは……?」
「フィガロ様! ありがとうございます! あれは教会騎士団の者達ですね。生き残っていたようです」
「教会騎士団……あの人達が」
助けた兵士はどうやら正規軍だったようで、俺の顔を見るなり破顔し、独り言のような呟きに答えを返してくれた。
教会騎士団、俺はてっきり男達の騎士団かと思っていたけど、まさか皆女性だったとは。
身に付けている鎧はフルプレートメイルと、シスター服を合わせて二で割ったような装いだ。
軽装備とも重装備とも違う、女性らしい意匠を施された鎧。
シスターメイルとでも呼べばいいのだろうか?
従来のフルプレートメイルは総重量が重く、女性で着こなすのは中々に難しい。
ゆえに女性の騎士の殆どが軽装のライトアーマーを着用している事が多い。
額には小さな羽の意匠がついたサークレットが付けられ、頭部のヘルメットからは黒いウィンプルが垂れている。
胸部には大きなロザリオが嵌められ、肩にはスカラプリオのようなマントがのびており、風を受けてはためいている。
地面には何人かの教会騎士団が倒れており、既に息は無いようだった。
ラプターから聞いた話では、迷宮管理塔には約六百人の教会騎士団がいたはずだけど……見た感じは二百人程度しかいないよう思う。
崩落や砲撃に巻き込まれて亡くなったか、騒乱のさなかに散り散りになったか。
教会騎士団は二十人で円形の密集陣形を構成しており、付かず離れすの距離で十の円が展開されている。
相対している魔人の数は三十人ほどだが、どの魔人を見ても笑みを浮かべていたり、蔑むような目をしていたり、余裕たっぷりの態度が見て取れた。
「いくわよみんな! 集団魔法【セントプリズム】!」
騎士の一人が魔法名と共に天に向けてハルバードを突き出すと、十の円それぞれを包み込むように三角形の煌めく障壁が張られた。
「あれは……!」
「知ってるんですか?」
俺と共に教会騎士団と魔人の対立を見ていた兵士の一人が、胸の前で十字を切りながら声を上げた。
「勿論です、あれは教会騎士団が誇る神の障壁。教会騎士団のみが扱う事を許された光属性に当たる上級魔法です」
「へぇー……」
兵士が憧憬の目で教会騎士団を見つめるが、俺は嫌な予感しかしなかった。
なぜなら魔人達が浮かべる余裕な表情に変わりは無く、ほくそ笑む者もいるくらいだからだ。
「ちょっと行ってきます」
「フィガロ様が? これは心強い! どうか彼女達とフィガロ様に神の御加護を!」
「ありがとうございます、皆さんは戦線より後退しつつ友軍と合流して下さい。少人数より多人数の方が有利ですから」
「は!」
綺麗な敬礼を見せた兵士を置いて、俺は急いで教会騎士団の方へ向かった。
再び両腕にフレイムバスターアームズを発動させ、薄ら笑いを浮かべて教会騎士団に歩み寄る魔人の背後を強襲した。
「雑魚がなにびゃ」
俺の気配を察知した魔人がこちら向くが、余裕綽々で警戒もしていない状態の魔人はそのまま頭部を爆ぜさせて地面に倒れた。
「私も混ぜて下さいよ、魔人の皆様」
俺が乱入した事により、魔人達の意識がこちらに向けば良かったのだが、俺に意識を向けたのは三人の魔人だけだった。
「少年! 下がれ!」
直近にいた騎士の一人が大声を上げるが、その顔は困惑の一色に染まっていた。
魔人の背に遮られて俺の姿が見えなかったのだろう。
彼女達からしてみれば突如魔人が爆ぜ、代わりに俺が立っているのだ。
「んだ? おめ、んだ? ンのかこら」
「生まれ変わって喋り方を学んできて下さい」
リーゼント姿の魔人がつかつかとメンチを切りながら俺に寄ってくるが、即座に上半身をぶっ飛ばした。
下手に気心を加えても反撃を貰うだけ、一撃で頭を吹き飛ばしてしまえば時間も短縮出来るし、反撃される事も無い。
元は人間だった魔人。
しかし出会う魔人は全て狂気と暴力、殺意に塗れた危険人物と化している。
心を痛める必要は無い。
悩む必要も無い。
ただ淡々と戦えばいいのだ。
「おい」
「あぁ、アイツは違う。楽しめそうだ」
リーゼント魔人を倒した事で、二人の魔人の目付きが変わった。
魔法で迎撃しても良いのだけど、変に抵抗されて戦いを長引かせたくないし、不利な状況にもなりたくない。
今は少しでも早く正規軍を退避させて、ただでさえ少ない戦力を少しでも多く残さなければならない。
「行きます」
拳を握り、こちらへ歩み寄る魔人を見据えて意識を集中させる。
「来い小僧! 生まれ変わった僕の槍、とくと知れ!」
「俺の必殺四連撃! 食らってみるがいい!」
仲間が殺られたというのに、二人の魔人に悲しみや怒りの色は無く、ただただ戦闘を楽しむ狂者の喜びが色濃い。
一人の魔人は四肢に竜巻のようなものを生みだし、もう一人は巨大な双頭の槍を振り回してこちらへ駆け出した。
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