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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三六九話 炎風の拳
しおりを挟む俺がクライシスから離れ、迷宮管理塔跡地へ降り立つとそこは激戦区と化していた。
アザトースの巨体が動く事は無いが、穴から湧き出てきた魔人達と管理塔に攻め込む予定だった正規軍、そして砲撃と数度の爆発を耐えた革命軍の残党による三つ巴となっていた。
あちこちで血が流れ、転がる亡骸は正規軍と革命軍のものが多い。
「ぎひゃひゃひゃ! 死ね死ね死ね死ねえええ!」
「やめろ! 俺達は仲間じゃなかったのか!」
大きなサイズを振り回し嘲笑を上げる白髪の青年を、数人の革命軍と見られる五人の男女が取り囲んでいた。
白髪の青年は女性の冒険者と見られる遺体の頭を踏みつけており、その周りには体を分断された遺体が数人分転がっている。
「仲間だァ? 違うねェ! 俺達はあの方の命令で大人しくしてただけだ! お前ラは俺の獲物だァ!」
「か……」
白髪は一足で距離を詰め、サイズで革命軍の一人の男の胸を貫いた。
一瞬で胸を貫かれ、目を見開く男、白髪はその顔を舌でベロりと舐め上げて愉悦に浸る。
「ひ……」
「おいおい、ンな化け物を見るような目で見ンなよ。悲しいだろ? 俺は生まれ変わった。俺は強い。強い者は崇めるのがセオリーってもンだ……ろ!」
「けぷ……ふぅ……」
白髪は声を上げた革命軍の女性へ演技臭く語りながら歩み寄り、不意に放った拳の一撃で女性の腹部に風穴を開けた。
女性は白目を剥いて地面に崩れ落ち、ビクビクと痙攣しながら腹部から大量の血を流して事切れた。
白髪の動きは早いが見切れない程ではない、スピードで言えばカラマーゾフぐらいか。
助成しに行こうかとも思ったが、相手は革命軍だ。
助けに入るなら正規軍の方だろう。
しかし周りは乱戦になっていて、誰が誰だかを瞬時に判別するのは難しい。
「くそ!」
白髪は既に三人目に手を掛けており、残りの二人も時間の問題だろう。
見捨てるか助けるか、数刻の逡巡の後、俺は白髪目掛けて地を蹴っていた。
「させませんよ!」
三人目の死体を放り投げた白髪と、残りの二人の間に入り啖呵を切る。
「ンだァ?」
「その方々に恩義はありませんが、貴方を見過ごすワケにもいきませんので!」
「いいぜェ! 殺ろうぜ! 滾るぜエェ!」
白髪は瞳を狂気に染め、蛇のような笑みを貼り付けながら俺目がけてサイズを振りかざして突っ込んで来た。
「唸れ拳! 【フレイムバスターアームズ】!」
俺は強化兵であるトムの強化骨格を粉砕した魔法を発動させ、より強く魔力を注ぎ込む。
そして迫るサイズとすれ違いざまに、業火に燃える拳を白髪の胸部に叩き込んだ。
「な……」
「あ、あれ?」
声をあげたのは生き残った二人の内どちらか、俺が上げたのは驚きと言うより戸惑いの声。
フレイムバスターアームズを受けた白髪はどうなったのか、彼は断末魔の声を上げる事もなく、胸から上が吹き飛んでいた。
「す、すげえ……」
「あんた……何者だ……?」
恐らく魔力を注ぎ過ぎて、フレイムバスターアームズの威力が大幅に上がったのだろう。
意外にもあっさりと決着がつき、戸惑っている俺に声が掛けられた。
「えーっと……ただの通りすがりの者です。早く仲間と合流してくださいね。それでは」
周囲は乱戦だというのに、ポカンと口を開ける二人をよそに俺は駆け出した。
こうなったら目に付く魔人達を片っ端から倒して行くしかない。
助けた相手が革命軍であっても、もはや仕方無い。
今は少しでも魔人を減らす事に尽力すべきだ。
あの狂気に染まったヤツらが野放しになればもっと戦火は広がるだろう。
奥歯を噛み締めながら、目の前にいた冒険者の少年少女へ襲い掛かる青髪の魔人の頭部を横から殴りつける。
不意打ちとは言え、威力を上げたフレイムバスターアームズは瞬時に魔人の頭部を吹き飛ばし、頭部を無くした魔人は糸の切れた操り人形のように地に伏した。
「あ、ありがとうございます!」
「早くここから逃げるんだ! 君達じゃ無理だ!」
俺が青髪を倒したのを見たのか、正面から二人の魔人がそれぞれの得物を構えて駆けてくる。
「早く!」
「はっはい! 行くぞ!」
「うん!」
少年少女がお互いに手を取り合って走り出したのを確認し、正面の魔人へ真っ向から突っ込んでいく。
「えひゃ! えひゃ!」
「おめえ強そうだな!」
気の触れたような笑い方をする魔人と、訛りのある喋り方の魔人が迫るが、俺は速度を緩めずその場で跳躍して後ろへ回り込む。
だが真後ろに位置取るも、魔人の反射神経はしっかりと反応し、振り向きざまに武器を振るってきた。
「見えてますよ!」
重心の移動を最小限に抑え、迫る武器をことごく粉砕し、人体の急所をピンポイントで狙って後ろ回し蹴りを放つ。
踵の先が一人の魔人の鳩尾へ沈むが、あまり効果は無いようだった。
魔人は余裕の表情を見せたが、通常攻撃が効かないのは予想済みであり、俺は身を翻して跳躍して魔人のこめかみに拳を叩き込んだ。
爆発四散した頭部の肉片が辺りに散らばり、それを見た残りの魔人が声を上げる。
「何だおめぇ……オラ達の体はとんでもねぇ丈夫さなんだぞ」
「それ以上に私の技が強力なのではありませんか?」
「そうがぁ、んだら納得だ!」
訛りが強い魔人は両手に炎を灯らせる。
どうやら俺の真似をしているようだけど、フレイムバスターアームズはただ火を腕に纏うだけじゃない。
それを解らせてやろう。
「納得されるのは構いませんが、貴方はここでさようならです!」
無拍子で距離を詰め、魔人の懐へ潜り込んだ俺は両の掌を突き出すようにして胸部に押し当てる。
そして掌に何の感触も残ら無いまま、魔人の上半身は消し飛んだ。
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