欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三六六話 更なる脅威

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「何をしたんですか」

「なぁに、ワシの研究成果じゃよ。お主は魔人という存在を知っちょるか?」

「確か……降魔戦争の折に大量に出現した悪魔の尖兵」

「うむうむ、よく勉強しとるの! それなら話は早い。その魔人を人工的に創り出しただけの事、強化兵は魔人を創り出す研究の過程に過ぎん、いわば試作品よ。ロンシャンは人が多い、腐るほどに多い、なれば適当に使っても構わんじゃろ?」

「貴方という人は本当に屑ですね」

「ふぉっふぉっふぉっ! 褒めた所で何も出んぞ?」

「ひょっとして貴方が集めた冒険者達も……その為にですか」

「おぉん? なんじゃあ童のくせによう知っちょるの。正解じゃ、魔人になれれば別次元の強さを得られるからの、ホイホイ付いて来よったわ」
 
 迷宮管理塔の周囲にあった瓦礫は全て吹き飛ばされ、跡地には大穴が開いていた。
 大穴の周囲には大量の人影が見受けられ、人影の先頭に一人の人物が立っていた。
 
「人造魔獣に続き人造魔人かよ、芸達者な奴だなマジで」

 ノーザンクロスから視線を外さずにクライシスが吐き捨てた。
 今は二対一という局面だが、ノーザンクロスがどのような力を持っているのか不明な為、迂闊に攻撃を仕掛ける事が出来ないでいる。
 なればこそ情報を喋らせ、突破口を開くべく待ちに徹しているのだが、状況は悪くなる一方だ。
 得られた情報は自らを改造している事、再生能力、瞬時に移動出来る機動性、クライシスと張り合うぐらいの力を持つ魔法の使い手、これくらいだろう。
 そして迷宮管理塔跡地には人造魔獣アザトースと人造魔人の集団がいる。
 一度こちらに傾いた形勢を、三十分も経たずに逆転された。

「フィガロ、コイツは俺に任せてアッチを叩け」

「ですが!」

「うるせえ! お前がいても足でまといだ、さっきノーザンクロスにあっさり詰められたのを忘れたか!」

「それは……」

「分かったら行け! あのデカいのが暴れたらもうこの国は終わりだぞ!」

「く……分かり、ました。どうかご無事で!」

 正論をぶつけられ、グウの音も出なかった俺は大人しくフライを発動させ、吠え猛るアザトースへ向けて飛翔した。





「さて、タイマンだな、ノーザン」

 クライシスはフィガロの背中を横目で見送り、ノーザンクロスと対峙する。

「ふぉっふぉっ! また振り出しに戻ったわけじゃな!」

「地下迷宮の最深部に研究所をこさえてたとは思わなかったぜ」

「あそこが一番何かとやりやすいんじゃよ、素材もたっぷりあるしの! じゃが……なぜお主、あそこを嗅ぎつけた?」

 言葉の最後で目を細めたノーザンクロスには、今までの飄々としていた雰囲気が消え、冷たい視線をクライシスへ向けた。

「ふん。国中にテメェの痕跡があった。まさかとは思ったが、この国で一番安全な場所を探したまでだ。テメェかどうかは半信半疑だったがな」
 
「なるほど。流石にワシオリジナルの魔法印を使えばばれる、という事じゃな。他の十三英雄なぞとうにくたばっとると思っとったからのう。 迂闊じゃったわ」

「へっ! 俺だって同じ気持ちだよ。テメェは千年前に死んだはずだろ? なんで生きてんだよ」

「なぁに、降魔戦争でワシは有名になりすぎた。だから死を偽装したまでの事よ。有名になればなるほど身動きが取り辛くなるのを知ったからの、当時のワシにゃやりたい事が沢山あった、それだけよ」

「そうかい」

「さて……少し喋りすぎたようじゃの」

 ノーザンクロスは両手を広げて腰を軽く落とし、戦闘態勢に移行する。
 それを見たクライシスも同様に腰を落とし、体を半身に向けた。
 すると周囲の空気が色付いたように微かに澱み始め、お互いの魔力が高まっていくのが分かる。

「もっと喋ってくれていいんだぜ? どうせテメェはここで死ぬ。冥土の土産に聞いてやるよ、世界に疎まれた天才マッドサイエンティスト様よ」

「ふん、改造を施したワシは千年前とは違う。その言葉、そっくりそのまま返してやろうぞ、魔に愛されし天才魔導師殿よ」

「しゃらくせェ、殺れるもんなら殺ってみろ」

「いつまでその余裕が続くか楽しみじゃ、のっ!」

 語尾を強く言い切ると、ノーザンクロスの姿が忽然と消えた。
 しかしクライシスは慌てた様子もなく左手を握り、同時に高熱の油に水を入れた時のような激しい音が鳴った。
 バヂバヂと空気中の何かが弾ける音が連続的に続き、真紅のローブをはためかせ、黄金の雷光を身に纏うクライシスの姿がそこにはあった。
 これは伝説の英雄、焔雷帝クライスラー・ウインテッドボルトが完全な戦闘モードに移行した時にのみ顕現すると言われている姿だった。

「あめぇ、あめぇよ」

「く……さすがは焔雷帝、今まではお遊びというわけじゃな」

 姿を消していたノーザンクロスが元の場所に再び現れたが、体中から薄い煙を上げ、彼の右手は焼け焦げて炭化してしまっていた。
 満身創痍のように見えるノーザンクロスだが、彼の顔は愉悦に歪んでいた。

「千年経って忘れちまったか? ボケが進んでるんじゃねぇのか? テメェは一度でも俺に勝った事あんのか? ねぇだろ」

「千年前は、じゃろ? 遊びは始まったばかりじゃ、楽しもうではないか! ふぁーっふぁっふぁっ!」

「チッ……めんどくせぇ」
 
 ノーザンクロスが高笑いを上げると、炭化してしまった右手が見る間に修復されていき、数秒も経たずに完全に治ってしまった。
 まだ戦いは始まったばかり。
 こうして誰の目もない中、千年前の英雄同士の戦いの幕が上がった。

 
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