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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三五七話 ボイスブースター
しおりを挟む「革命軍の諸君に告ぐ! 直ちに武装を解除し、投降せよ! さもなくばこの迷宮管理塔に再び砲撃を敢行する! 繰り返す! 直ちに投降せよ!」
空気をビリビリと響かせながら聞こえるのはアストラの声だろう。
窓から顔を覗かせると、迷宮管理塔から少し離れた場所の上空にヘカテーとアストラを乗せたラプターの姿があった。
魔導技巧の中に、声の大きさを増幅させるだけの【ボイスブースター】という物がある。
ほら貝に似た見た目をしており、細くなっている方に声を向けると、反対にある広がった穴から見た目に似つかわしくない程の大音量が発生して周囲に響き渡る。
ボイスブースターを通せば、普通の声の大きさでも耳を塞ぎたくなる程の音量が出る。
下手に大きい声を出そうものなら、付近にいる人達の鼓膜に危険が及ぶ。
「ふざけるな! 人の命をなんだと思ってるんだ! やるぞみんな!!」
「「「【ストーンブラスト】!」」」
『あの人達……!』
下から聞こえてきたのは先程俺に絡み、シャルルの言い分を聞かずアーククレイドルから出て行った白金等級の青年の声だった。
なんだ、生きてたのか。
『あの人達! 助かる命を無駄にするつもりなの!?』
シャルルが悲痛な声を上げる。
しかし俺からしてみれば、恐らく彼等は自分が死ぬわけがない、きっと助かる、自分達を殺すわけがない、という無駄に甘い考えをしているだけだと思うのだ。
青年に付き従っていた仲間がストーンブラストを放つも、魔獣ラプターに通じる訳もなく、全弾がラプターの胸部に吸い込まれるように直撃したが、まもなくボロボロと纏めて地面に落ちていった。
「そんな……! 馬鹿な! 複数人同時発動のストーンブラストだぞ! 無傷なわけが……!」
青年の言葉を聞いていると頭が痛くなってきそうだ。
彼はモンスターとでも戦っているつもりなんだろうか?
相手は国の正規軍なんだぞ。
正義感に浸るのは結構だけど、今行った行為がどんな行為なのか今一度考えてみた方がいいぞ。
「革命軍と見られる人物から攻撃を確認した。こちらの勧告及び提案を破棄と断定。これより砲撃を再開する!」
「まっ! 待てよ! 俺達は一般人なんだぞ!? 中には他の一般人もいるんだ! それが国のやり方なのか!」
適わないと判断したらしい青年の情けない言葉が聞こえてくるが、青年の取った行動により、投降したかもしれない他の人の命までも失う事になった。
あの馬鹿にそこまで頭が回るとは思えないけどな。
遠くからヒュゥーという風切り音が聞こえたと思った次の瞬間、管理塔のどこかで爆発音が鳴った。
爆発が起き、管理塔の一部分が次々と地面に落下していき、人の影も一緒にバラバラと落ちて行くのが見える。
建物のあちこちで火災が発生しているようで、こちらから見える範囲の窓の幾つかから炎の舌が轟々と伸びている。
「塔が!」
誰が発した声かは分からないが、迷宮管理塔のシンボルである二本の塔の内、一本が途中からへし折れてこちらに落下しかけているのが見えた。
パッと見でもおよそ数十メートルはある塔がバキバキ、ゴキゴキ、という音を立ててゆっくりと倒れてくる。
「シャルル! デカいのが来るぞ!」
『任せて! お願い! アーククレイドル!』
シャルルが膝立ちになり、両手を床にピタリと当てると甲冑全体が淡い光に包まれ始め、シェルターであるアーククレイドル全体がシャルルと同じような淡い光に包まれた。
そして今までで一番大きい轟音が鳴り、アーククレイドル全体が濁流に飲まれたかのように激しく揺れ動いた。
折れた塔がアーククレイドルの直上階に激突したのだろう。
激しく揺れるシェルター内は立つことも出来ないほどであり、悲鳴の坩堝と化していた。
『フィ、フィガロ……ヤバいかも』
「どうした!? ヤバいって何がヤバいんだ!?」
揺れる床にピタリと手を重ねているシャルルが呻くように言った。
『アーククレイドルは大丈夫なんだけど……伝わってくる感じから多分、この周囲が崩れ落ちるわ……』
「なんだって!?」
『アーククレイドルに直撃は無いけど、その他の階に撃ち込まれた砲弾が建物の支柱を何本も砕いたみたい。床下から嫌な軋みが聞こえるの』
「でもこの中に居れば平気なんだろ?」
『そうなんだけど……アーククレイドルが大人しく真下に落下してくれるとは思わないの』
「なるほど……回転するかもしれないって事か」
『簡単に言っちゃえばそういう事よ。私の方でも頑張って制御してみるけど……フィガロもどうにか出来る?』
「問題無い。ようは固定しちゃえばいいんだろ?」
『まぁ……そうね。え、まさか貴方!』
「大丈夫、無茶はしない」
「おーい二ーちゃーん! だーいじょぶかこれー!」
俺がシャルルと打ち合わせをしていると、離れた所からラインメタルの声が飛んできた。
ラインメタルはこの揺れの中でもしっかりと立っており、怯える人々を一箇所に集め、床に伏せさせていた。
「大丈夫です! これから少しあなたがたへ魔法を使います! 安全のためですので抵抗しないで下さいね!」
「だそーだぞ皆! 大人しくしてろよー!」
伏せる人々はそれどころでは無いのか、一言も喋らない。
この揺れで喋った方が舌をかみそうだけどな。
「行きますよー! 【ホールドロック】!」
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