欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三五六話 激震

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「ひいいい!」

「うわっ! うわあああ!」

 アーククレイドルの中に爆発音が届く度、部屋が揺れる度に人々の悲鳴が起こる。
 揺れるには揺れるが、幾度の揺れにも爆発にも動じないアーククレイドルはやはり頑強なようだ。
 窓から外を見てみれば、地面には大量の瓦礫が落ちており、人らしき影もチラホラ見受けられる。
 瓦礫に巻き込まれたか、砲撃で吹き飛ばされたかのどちらかだろう。
 魔導砲は一台ずつ間隔をずらして発射されているので、敵に休む暇を与えない連続砲撃となる。
 魔導砲が置かれている王城正門前から、この迷宮管理塔は直線距離にして五キロほどの距離だ。
 同じ場所を正確に狙う事は難しいが、的自体が巨大な為に砲弾が外れる事はまずない。
 魔導砲があった軍備倉庫に、どれだけの魔砲弾のストックがあったかというのは聞いていない。
 
『五分間の砲撃の後、体裁上の降伏勧告を行うわ。聞きいれるとは思わないから勧告して一分後、砲撃を再開、徹底的にやるそうよ』

「降伏勧告ね……必要なのかな」

『どうかしね。でもアーマライト王陛下は少しでも考え直してくれれば、と仰っていたわ』

「砲撃食らった程度で諦めるような人達じゃないよなぁ」

『ええ、私もそう思うわ。アーマライト王陛下が一番気にしているのは現在も行方不明のゼロ魔導師長の動向。その人が出て来たら砲撃と同程度の反撃を食らうと危惧していたわ』

「ゼロってあの胡散臭いジーさんかい?」

「ラインメタルさんはご存知なんですか?」

 揺れるアーククレイドル内で冷静にしている人物の一人、ラインメタルが親指の爪を噛みながら言った。
 彼の表情からすると、あまり好印象を抱いているようには見えない。

「あぁ。ゼロは何度か自由冒険者組合に顔を出しててな……強くなりたい者、変わりたい者、限界を感じている者、魔法を効率よく学びたい者なんかを募ってはどっかに連れて行っていたんだ。俺っちは興味無かったし、どうにもヤツの目が信用ならんくてな」

「……連れて行かれた方々は?」

「ちゃあんと戻って来たぜ? まぁ中には戻って来なかった連中もいたが……人が多いロンシャン支部だ。入るものもいれば出ていく者もいる。大して問題にはならなかったよ」

『この規模の国ですものね。登録者数はランチアの何倍かしら』

「さぁな。俺っちはそういう数字が苦手なもんで気にした事は無かったぜ。兎にも角にも、戻って来た連中はみんな確かに強くなってた。けどなぁ……」

「けど?」

 ラインメタルは小さく息を吐き出し、爪噛みを止めたと思えば指を組んで視線を床に落とした。

「みーんな変わっちまってた。好戦的というか粗暴というか……人間味が薄くなってた。目は爛々としてて、変わり方は十人十色だったが……血を求めるような素振りをみせるヤツもいたし、左手の封印がどうとか呻いていたヤツ、闇の波動がどうこうとかブツブツ言うヤツとかな」

「闇の……波動」

「薄気味悪い感じだよ。ゼロに付いていったやつの中に俺っちのダチもいた。けどな、半年後にフラッと戻って来たと思えば「我に触れるな……我はもう人では無い、貴様の知っている我は死んだのだ。我の名は暗黒の吹雪、エターナルダークブリザード……半身に悪魔を宿し魔人」とかなんとか、右目を押さえながら訳の分からん事を言い出してたぜ」

「魔人……エターナルダークブリザード……」

『半身の悪魔だなんて……!』

「実際はどうか知らん。だがダチは確かに強くなってた。それは間違いねぇ、四等級止まりだったのがあっちゅう間に白金等級までのし上がった」

「凄い! そのご友人は今どこに!?」

「……消えたよ。ある日を境に忽然とな」

『そんな……』

「消える前に呟いていた言葉が今でも頭に焼き付いてる……「妄執に抑止の慈悲は無く、贖罪の慟哭は久遠の残像、禁断の愚者は森羅万象の元に混沌の幻想を抱く」ってな」

「何ですかそれ?」

「俺っちにも分かんねーよ」

『何かを暗示しているとかは?』

「だから分かんねーって。ま、そういう事があったってだけの話よ」

 ラインメタルは言及を避けるように会話を終わらせ、頭を無造作に掻きむしる。
 彼としてもあまりいい気分では無いのだろう。
 しかしゼロがそのような事をしていたとは……アーマライト王は知っているのだろうか。
 プライベートなどは把握していないと言っていたので、知らない可能性の方が高いだろう。
 ラインメタルの友人が残した謎の言葉、シャルルが指摘したように何かを暗示しているようにも取れる。
 外は五分間の砲撃が終わり、つかの間の静寂が訪れているのだが、その静けさが逆に薄気味悪さを醸し出していた。
 未だ姿を見せないゼロ、ゼロが秘密裏に行っていた冒険者達の戦力強化。
 総司令であるガバメントが落ちたにも関わらず、なんのリアクションも起こさない革命軍。
 幾つもの謎と不穏な種火を残したままの現在だが、それが纏めて発現しない事を祈るばかりだ。
 
「革命軍の諸君! 聞こえるか!」

 俺とシャルル、ラインメタルの間に微妙な沈黙が流れかけたその時、窓の外からフィルターを通して喋っているような、そんな声が聞こえてきた。
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