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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三五五話 砲撃開始
しおりを挟む「馬鹿な奴らだ」
出て行く人々の後ろ姿を見ながら、ラインメタルが毒を吐いた。
表情は呆れを通り越して苦笑いを浮かべており、静かに首を左右に振っている。
「私もそう思います。たかが冒険者一人に何が出来るのですかね。白金等級の中にあんなおツムの悪い人がいた事が驚きです」
「二ーちゃんも言うじゃねぇか」
「そりゃね? しかし私が辺境伯と知っても口調があまり変わらない人も珍しいですよ」
「悪ぃなぁ。ドワーフの習慣てのもあるが、俺っちは敬語が苦手でな。気を悪くしないでくれ」
「習慣?」
「あぁ。ドワーフってのは仲間内でも敬語は使わねぇんだ。外の世界に出ると決めた時にようやっと使い方を勉強するぐれぇだ」
「へぇー……それは知りませんでした」
「豪放磊落がドワーフのウリだからな。揉め事とかがあっても大体が酒で解決しちまう。単純明快、昨日の敵は今日の友、ってなぁ」
体を揺らしてがはは、と笑うラインメタルは確かに細かい事はあまり気にしなそうに見える。
今でこそ様を付けられる事に慣れてしまったが、ランチアに来たばかりの頃コブラから様付けで呼ばれた時はむず痒くなったものだ。
かと言って見下されるのは好きじゃないけどな。
身長のせいもあるんだろうけど、背なんてこれから伸びるんだし、大丈夫大丈夫。
「二ーちゃんはつえーんだろ? じゃなきゃこんな所に一人で来れねぇもんな! 二ーちゃんと甲冑のネーちゃんがいりゃあ大丈夫ってなもんよ!」
「ええ、お任せ下さい」
『随分仲良くなったのね』
「ラインメタルさんが気さくに対応してくれたおかげだよ」
出ていく人々を見送り、穴を閉じたシャルルが戻って来た。
残った人々は不安そうにこちらを見つめたり、ヒソヒソと何かを話し合っている。
「心配すんなおめぇら! ここなら出て行ったヤツらより生き残る確率はたけぇぞ? どんと構えとけ!」
視線に気付いたラインメタルが大きな声で元気付けるが、人々の表情は変わらない。
横目で俺を見て苦笑するラインメタルに頷きで返し、シャルルに話しかけた。
「シャルル、手伝える事があるなら言ってくれ」
『ありがとう。なら……もう少し補強したいの、岩をだしてくれる?』
「任せろ。【ハードロックスタンプ】」
シャルルのリクエストに応じ、文殊を発動させて周囲に大岩を数個生み出した。
その光景を見た人々が目を丸くしているが、気付かないフリをして次々と大岩を生み出していく。
ズシンズシンと床を揺らしながら生れ落ちる大岩、本来ならもっと高い所から落下させ、その質量で敵を押し潰す魔法だが今回は床スレスレで発動させている。
「無詠唱だと……?」
「しかも連続してだぞ」
「あの子供、何者なんだ」
大岩の落下音に紛れてそんな声が漏れ聞こえてくるが、今は存分に俺の実力を見てもらいたい。
そうすれば少しは安心出来るだろうからな。
『【アーククレイドル】!』
俺が大岩を生み出している間に、詠唱を終えたシャルルが魔法を発動させる。
俺の周囲は軽い岩石地帯と化していたが、シャルルの魔法により大岩は溶けるように床へと吸い込まれる。
床と天井、壁がゆっくりと波打ち始め、数分間うねった後は先程と変わらない状態へと戻った。
「二ーちゃん無詠唱かい? さすがその歳で辺境伯になるだけありますなぁ」
「いやはは、それほどでもあります!」
普段はこんな事しないのだけど、大袈裟にアピールすれば人々にも希望が生まれてくれる事を信じて精一杯胸を張って得意げに振る舞う。
それが功を奏したのか、漏れ聞こえる声に少しづつ元気が出てきている。
「だ、大丈夫なのか……?」
寄り集まっていた人々の中からそんな声が聞こえた。
「大丈夫です! 私には無尽蔵の魔力、甲冑の女性は防御魔法のスペシャリスト! 私達二人が揃えば守れないものはありません!」
俺は安心を届けるべく、声を大にして言った。
シャルルは守護に特化したランチアという家系の末端、守護王国と呼ばれる国の第一王女だし、実際嘘は言っていない。
シャルルの事は信用しているけど、仮に危なそうだったら俺がさらに対物障壁を張ればいいだけの話だ。
地属性の魔法を極めれば岩や石、砂の他に、宝石などは生み出せないが、鉄や鋼などの金属すら生み出せる魔法もある。
地水火風、四属性の中で一番地味で人気の無い地属性だけど、いざと言う時に役立つ縁の下の力持ちのような位置付けだと俺は思う。
この世界を、大地を構成している素なのだから弱い訳が無いのだ。
『フィガロ、来るわ!』
「了解! みなさん! 砲撃が来ます! 衝撃に備えて下さい!」
魔法を発動した後、黙っていたシャルルが強い口調で言った。
数十秒後、爆発音と轟音が鳴り、いよいよ迷宮管理塔への砲撃が始まった。
間断無く鳴る轟音の度ににアーククレイドルが揺れ、小さな悲鳴が上がる。
至近距離で爆発音が鳴り、窓の外に崩れ落ちる外壁が見えた。
どの程度破壊するのかは分からないが、何が起きても対応出来るように俺は神経を集中させた。
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