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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三五一話 トラブル
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「さぁフィガロ、どうする?」
「いきなりなんだよ」
俺が建物の上で待機していると脳内にリッチモンドの声が届き、反射的に横を向くとこちらを見て口角を上げるリッチモンドの姿があった。
「管理塔の中はだいぶ混乱しているみたいだ。シャルルちゃんの応援に行かなくていいのかい?」
「行きたいのは山々だけど……俺は歩兵部隊のサポートしなきゃダメだろ?」
「行ってきなよ。ここは僕に任せてくれて構わないからさ」
「でも……」
「いくらシキガミだからとは言え、心配なんだろ? 顔に書いてあるよ」
「ぐ……分かったよ、いくよ」
手をひらひらと振るリッチモンドを尻目に俺はフライを発動させ、管理塔の中へ飛び込んでいった。
「ブラック、シャルルの居場所はわかるか?」
「隊長か。いや、姿は見ていないが……六階の一部が妙な構造になっていた。もしかしたらそこかもしれない」
「分かった、ありがとう」
ブラック達キメラルクリーガー隊が暴れまわってくれているおかげで、侵入した四階部分には人っ子一人いなかった。
窓から飛び出し六階まで上昇したあと、窓を叩き割って中へと入る。
入った場所は大部屋のようだが、ここにも同じく敵はいなかった。
扉を開けて廊下に出てみると廊下の突き当たりの部分に妙なモノが立っている。
「扉……?」
俺の目に異常はないはずだ。
けど突き当たりの壁には茶色に塗られた扉が複数立っており、扉の下部から短い足が生えて自立している。
壁に設置されているようには見えない。
「シャルル! いるのか!」
『あれ? フィガロ? そこにいるの?』
自立している扉にゆっくりと近付きつつ大きな声で呼んでみると、扉の後ろからシャルルの声が小さく聞こえ、壁が変形して人一人が通れるくらいの穴が空いた。
そしてその穴から見た事があるような甲冑が顔を覗かせた。
「応援に来た」
『ありがたいけど……大丈夫なの?』
「リッチモンドが任せろっていうからさ、大丈夫だと思うよ」
『そっか。さ、入って。中には囚われていた人達がいるからよろしくね』
穴を潜り抜けると不審そうな眼差しが一気に俺を貫いた。
部屋には大勢の人が集まっており、その皆から誰だこいつは、っていうオーラがバチバチに伝わってくる。
『ここは私が生成した魔法のシェルターよ! 凄いでしょ!』
「あぁ、凄いな。外にいた変な扉もシャルルがやったのか?」
『そ、あれも私。鍵が開かなかったから開けてもらったのよ』
「誰なんだそいつは!」
俺がシャルルと話をしていると、一人の男が進み出てきて言った。
『安心してください、この人は援軍よ』
「援軍……? そんな子供がか? 俺達をバカにしてるんじゃないだろうな?」
『えと……そういうわけじゃ……』
「大体そんな子供が援軍だなんてどうかしてるぜ。ひょろっこくて色も白いし、ただのもやしっ子じゃないか。そんな雑魚に何が出来るってーんだ」
それは随分とひどい言い草ではなかろうか、と俺が抗議の声をあげようとすると、甲冑姿のシャルルが俺と男の間に入る。
『お言葉ですが……この人は恐らく貴方達が纏めて襲いかかっても勝てませんよ』
「おうおう! 言ってくれるじゃんか! 俺は白金等級の冒険者だぞ? この俺に勝てるってのか?」
シャルルが放ったセリフに反応したのは別の人物、レザーのブレストプレートを付けた長身の青年が人をかき分けながら声を荒げて出てきた。
「甲冑姿のねーちゃんだから安心して付いてきたってのによ。こんなガキが援軍だ? おままごとじゃねーんだぞ」
さらにもう一人、小太りの男が進み出てきたと思えば俺を思い切り睨みつけている。
だが問題なのはそこじゃない。
俺はシャルルが珍しく、他人に喧嘩を売るような口調をしたことに驚いていた。
いつもならもっと丁寧に事情を説明するはずなのに……。
「えと、すみません。私はフィガロ、フィガロ・シルバームーンと申します。どうか落ち着いていただけませんでしょうか」
「シルバームーンだと? 知らないね。どこぞの貴族のぼっちゃんかい?」
『貴方ねぇ!』
長身の青年があざ笑うかのように吐き捨てると、シャルルが甲冑を鳴らして抗議する。
それを手で制し、小さな声で諭すように言った。
「シャルル、やめろ。何にイラついているのかは知らないけどここで揉めてる場合じゃ無いだろ」
『でも! フィガロを雑魚って……!』
「しょうがないよ。見た目は事実その通りなんだ。それに彼らだってこんな状況に追い込まれて精神的にも不安定なんだろう。落ち着いて話すんだ」
どうやらシャルルは俺がバカにされたことに対して腹を立ててくれたようだ。
その気持ちは嬉しいけど、ここで喧嘩した所で何の解決にもならない。
「こそこそ何話してんだよ。どういう状況なのか説明しろよ!」
「そうだそうだ!」
「王は何をしているんだ!」
青年達の興奮が伝播したのか、大人しくしていた他の人々も声を荒げ始めてしまった。
この場が荒れ始めてしまったのは、俺が来たせいなのかもしれない。
俺が来なければ皆、シャルルの言葉を聞いてくれていたはずだ。
だが起きてしまった事は仕方ないし、どうにか話を聞いてくれる状態にまで持っていきたいのだけど。
「皆さん落ち着いてください! 私はアーマライト王陛下の使いです! 今はとある作戦の最中です! 皆さんに被害が出ないようにしたいのです!」
「ふざけるな! 子供に何が出来るっていうんだ!」
「おい待てよ、王の使いって事は本当に援軍が来るんじゃないのか?」
「子供子供騒ぐのは結構だが考えてもみろ、この塔の中は敵で溢れてる。そんな場所にたった一人で乗り込んでくるか?」
「確かに……」
精一杯の声を上げて説明をすると、俺の言葉を信じようとしてくれた人が現れ、荒ぶる人を宥めるように動いてくれた。
「いきなりなんだよ」
俺が建物の上で待機していると脳内にリッチモンドの声が届き、反射的に横を向くとこちらを見て口角を上げるリッチモンドの姿があった。
「管理塔の中はだいぶ混乱しているみたいだ。シャルルちゃんの応援に行かなくていいのかい?」
「行きたいのは山々だけど……俺は歩兵部隊のサポートしなきゃダメだろ?」
「行ってきなよ。ここは僕に任せてくれて構わないからさ」
「でも……」
「いくらシキガミだからとは言え、心配なんだろ? 顔に書いてあるよ」
「ぐ……分かったよ、いくよ」
手をひらひらと振るリッチモンドを尻目に俺はフライを発動させ、管理塔の中へ飛び込んでいった。
「ブラック、シャルルの居場所はわかるか?」
「隊長か。いや、姿は見ていないが……六階の一部が妙な構造になっていた。もしかしたらそこかもしれない」
「分かった、ありがとう」
ブラック達キメラルクリーガー隊が暴れまわってくれているおかげで、侵入した四階部分には人っ子一人いなかった。
窓から飛び出し六階まで上昇したあと、窓を叩き割って中へと入る。
入った場所は大部屋のようだが、ここにも同じく敵はいなかった。
扉を開けて廊下に出てみると廊下の突き当たりの部分に妙なモノが立っている。
「扉……?」
俺の目に異常はないはずだ。
けど突き当たりの壁には茶色に塗られた扉が複数立っており、扉の下部から短い足が生えて自立している。
壁に設置されているようには見えない。
「シャルル! いるのか!」
『あれ? フィガロ? そこにいるの?』
自立している扉にゆっくりと近付きつつ大きな声で呼んでみると、扉の後ろからシャルルの声が小さく聞こえ、壁が変形して人一人が通れるくらいの穴が空いた。
そしてその穴から見た事があるような甲冑が顔を覗かせた。
「応援に来た」
『ありがたいけど……大丈夫なの?』
「リッチモンドが任せろっていうからさ、大丈夫だと思うよ」
『そっか。さ、入って。中には囚われていた人達がいるからよろしくね』
穴を潜り抜けると不審そうな眼差しが一気に俺を貫いた。
部屋には大勢の人が集まっており、その皆から誰だこいつは、っていうオーラがバチバチに伝わってくる。
『ここは私が生成した魔法のシェルターよ! 凄いでしょ!』
「あぁ、凄いな。外にいた変な扉もシャルルがやったのか?」
『そ、あれも私。鍵が開かなかったから開けてもらったのよ』
「誰なんだそいつは!」
俺がシャルルと話をしていると、一人の男が進み出てきて言った。
『安心してください、この人は援軍よ』
「援軍……? そんな子供がか? 俺達をバカにしてるんじゃないだろうな?」
『えと……そういうわけじゃ……』
「大体そんな子供が援軍だなんてどうかしてるぜ。ひょろっこくて色も白いし、ただのもやしっ子じゃないか。そんな雑魚に何が出来るってーんだ」
それは随分とひどい言い草ではなかろうか、と俺が抗議の声をあげようとすると、甲冑姿のシャルルが俺と男の間に入る。
『お言葉ですが……この人は恐らく貴方達が纏めて襲いかかっても勝てませんよ』
「おうおう! 言ってくれるじゃんか! 俺は白金等級の冒険者だぞ? この俺に勝てるってのか?」
シャルルが放ったセリフに反応したのは別の人物、レザーのブレストプレートを付けた長身の青年が人をかき分けながら声を荒げて出てきた。
「甲冑姿のねーちゃんだから安心して付いてきたってのによ。こんなガキが援軍だ? おままごとじゃねーんだぞ」
さらにもう一人、小太りの男が進み出てきたと思えば俺を思い切り睨みつけている。
だが問題なのはそこじゃない。
俺はシャルルが珍しく、他人に喧嘩を売るような口調をしたことに驚いていた。
いつもならもっと丁寧に事情を説明するはずなのに……。
「えと、すみません。私はフィガロ、フィガロ・シルバームーンと申します。どうか落ち着いていただけませんでしょうか」
「シルバームーンだと? 知らないね。どこぞの貴族のぼっちゃんかい?」
『貴方ねぇ!』
長身の青年があざ笑うかのように吐き捨てると、シャルルが甲冑を鳴らして抗議する。
それを手で制し、小さな声で諭すように言った。
「シャルル、やめろ。何にイラついているのかは知らないけどここで揉めてる場合じゃ無いだろ」
『でも! フィガロを雑魚って……!』
「しょうがないよ。見た目は事実その通りなんだ。それに彼らだってこんな状況に追い込まれて精神的にも不安定なんだろう。落ち着いて話すんだ」
どうやらシャルルは俺がバカにされたことに対して腹を立ててくれたようだ。
その気持ちは嬉しいけど、ここで喧嘩した所で何の解決にもならない。
「こそこそ何話してんだよ。どういう状況なのか説明しろよ!」
「そうだそうだ!」
「王は何をしているんだ!」
青年達の興奮が伝播したのか、大人しくしていた他の人々も声を荒げ始めてしまった。
この場が荒れ始めてしまったのは、俺が来たせいなのかもしれない。
俺が来なければ皆、シャルルの言葉を聞いてくれていたはずだ。
だが起きてしまった事は仕方ないし、どうにか話を聞いてくれる状態にまで持っていきたいのだけど。
「皆さん落ち着いてください! 私はアーマライト王陛下の使いです! 今はとある作戦の最中です! 皆さんに被害が出ないようにしたいのです!」
「ふざけるな! 子供に何が出来るっていうんだ!」
「おい待てよ、王の使いって事は本当に援軍が来るんじゃないのか?」
「子供子供騒ぐのは結構だが考えてもみろ、この塔の中は敵で溢れてる。そんな場所にたった一人で乗り込んでくるか?」
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