欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
184 / 298
第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三四六話 リビングアーマー

しおりを挟む
「それでは行って参ります!」

「宜しく頼みます、殿下」

 フィガロが外に出て行ったのを見届けた後、アーマライト王陛下に一言告げ、私はお父様と共に用意された別室に移動した。

「しかしシャルルよ。シキガミだからと言って変にやり過ぎるんじゃないぞ? 魔力プールの残存をしっかり確認しながらな」

「分かってるわ、お父様は心配し過ぎなのよ」

「娘を案じない親などいないと思うぞ」

「ありがと、それじゃやるわ」

 用意されたロッキングチェアに深く腰掛け、心配してくれるお父様の視線を感じながら私は目を閉じた。
 そして目の前のテーブルに置かれているフィガロから受け取った木像へ意識を集中させていく。
 何度目か分からないシキガミの発動は、苦もなく出来るようになった。
 私の魔力を受けて変化したシキガミは小さな雀。
 私の視線の先には目を閉じた私がいる。
 宙に浮き、お父様の周囲を二、三周飛び回ってから、開け放たれた窓から外へと飛び出した。
 眼下にはブラック達と話すフィガロの姿が見えたけど、それを無視して遠くにそびえる迷宮管塔へ進路を真っ直ぐ向けた。
 羽ばたきと滑空を繰り返して、やっと到着した事をお父様へ告げる。
 視覚を共有するだけなら、そばにいる人とお話も出来るし声も聞こえるので見た事をそのままお父様へ伝え、それをアーマライト王陛下へと伝えて貰うの。
 管理塔の空いてる窓を探して近付き、窓枠に足をかけて周囲に人がいないかを確認して中に入る。
 絨毯など引かれていない無骨な石廊下の上に降り立ち、シキガミの姿を小さな雀からシンプルな板金鎧へと変えた。
 ヘルメットは顔全体を覆うフルフェイスタイプで、作りはブラックのヘルメットを参考にさせて貰ったのだけど……上手く出来ているかしら。
 中身は何も入ってないから、ヘルメットが取れないように注意しなきゃ。
 姿見の鏡が欲しい所だけど、ワガママなんて言ってられないし、先を急ぐ事にした。
 廊下を進む私の耳に届く、鎧のグリーブが奏でるガチャリガチャリという音がやけに大きく聞こえる。
 入り込んだ窓から察するにここは塔の二階部分だと思うのだけど……案内板みたいなものは無いのかしら。
 商業施設のような場所と聞いていたのに不親切ね。
 あまりのんびりもしていられないので、足早に先を進んで行くと何人かの兵士とすれ違った。
 通り過ぎる時は心臓が飛び出るかと思ったけど、変化は上手くいっているようで特に何も言われなかったから一安心。
 この建物の地下には迷宮が広がっているらしいけど……どんな所なのかしら、少し興味があるわね。
 今度フォックスハウンドの面々で行ってみたいものね。
 私がそんな事を考えながら二階から三階に上がると、そこはまるで商店街のような光景に変化した。
 廊下は広めに取られており、廊下の両サイドには大小様々なお店が並び、店先には吊り看板が掛けられているのだけど……。

『え……?』

 私が驚いたのは、その商店街のお店の半分は開いており、冒険者らしき者達が彷徨いている点だ。
 しかしお店の店員は見当たらず、冒険者風の者達が好き勝手に商品を見て楽しんでいる。

『どういう事……?』

 私が状況を飲み込めずにいると、前から歩いて来た冒険者風の者達に声を掛けられた。
 
「よぉ。お前さんもか?」

『何がよ……あ。んん! 何がだ?』

 普段の声で話したら中身が女だと思われて、舐められてしまうかもしれない。
 だから私は精一杯の低い声を出し、威圧するような物言いをした。
 お手本にしているのがブラックだというのは内緒。

「ん? アンタもめぼしい物を取りに来たんじゃないのか?」

『いや、俺はつい先程ここに着任したばかりでな。ここにいた一般人や冒険者達は捕えられたと聞いていたのだか』

「なんだよアンタ兵隊さんか。大変だな! 確かにここにいた連中……俺達も含めてだが、始めは捕まったよ。けど革命軍に協力すればこの建物内限定だが自由にしていいって言われてな! しかもここにある物は好きに使っていいんだぜ? 協力しない方がおかしいぜ!」

 冒険者風の者達は顔を見合わせて笑い、拝借したのであろう物品を眺めてはせせら笑っている。

『どれぐらいの人達が協力を申し出たんだ?』

「そうさなぁ、四割くらいの捕虜が協力的な感じだったぜ?」

『そうか。ならばその残りの六割の捕虜達はどこに囚われているんだ?』

 多少言い方にムカッと来た所はあるけど、この人達を責める道理は無いから私の一番聞きたい事を単刀直入に聞いた。

「確か……六階にある大会議室エリアだった気がするぜ。あそこは大部屋がいくつもあるからな、纏めて放り込んでるんじゃないか?」

『そうか。情報提供に感謝する』

「おう、新しい時代の為に頑張ってくれよな! 兵隊さん!」

 冒険者風の者達はそう言うと、下品な笑い声を上げてどこかへ行ってしまった
 同時に空気と建物の両方がビリビリと震えだし、フィガロ達が破壊工作に出たのだと直感した。
 予想外の事が起きたけど、隔離されている人達の居場所は分かった。
 
『急がなきゃ、時間がないわ』

 私は踵を返し、六階に向けて階段を駆け上がって行った。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。