欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
183 / 298
第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三四五話 カラミティフレア

しおりを挟む
「おい! やるならやるって一声くれよ!」

「いくよって言ったじゃないか」

「言ってからのスパンが早すぎる!」

「あはは! ごめんごめん、で、どうだい?」

「イメージは掴んだけどさ……」

 広域殲滅用集団魔法【カラミティフレア】。
 十人から二十人規模で行う戦略級の魔法であり、直径五百メートルの円状内で数十回の爆発を起こし、それに伴う超高熱の炎で燃やし、溶かし尽くす魔法だ。
 最低でも十人分の魔力を喰らうだけあって、威力は絶大。
 発動には長々しい詠唱と溜めが必要だが、俺にはそんなものは必要無い。

「ならいいじゃないか。破壊は君に任せる、僕は全力で障壁を張るから遠慮無くやってくれ」

「分かった」

 リッチモンドから強制的に送り込まれたカラミティフレアのイメージを脳内で強くイメージする。
 【魔】【強】【火】【風】【無】【創】 の文殊が光を発し、両の掌の上に大人の頭部ほどの大きさの紅球が形作られていく。
 過去最高の勢いで魔力が減っていくが完全に失う程ではない、これなら持ちそうだ。

「フィガロ様! 此方は全て整いました! 後は宜しく頼みますぞ!」

「は! 状況を開始します!」

 アーマライト王の思念が届き、脳内へ緊迫した声が届いた。

「リッチモンド!」

「時間のようだね! 僕も出し惜しみ無くリッチの底力を見せてあげよう! 【ダークネスフォビドゥンサンクチュアリ】!」

 リッチモンドが聞いたことも無い魔法を発動すると、全身からドス黒いオーラのようなものが噴き出した。
 それと同時に目標区画である部分が漆黒の囲いで一気に覆われていく。
 全長一キロメートルにも及ぶ囲いの表面にはいくつもの黒いモヤが渦巻き、それはまるで怨嗟の声を上げる人の顔にも見えた。

「フィガロ!」

「おおおお! いっけええええ! 【カラミティフレア】!」

 力を込めて声を上げると同時に、掌を突き出して紅球を解き放った。
 紅球は炎の尾を引いてリッチモンドが展開した障壁【ダークネスフォビドゥンサンクチュアリ】の中へ飛び込んで行った。
 その直後、空気と大地が同時に振動するほどの轟音が鳴り響き、轟音は数分間続いた。
 振動が徐々に弱くなりやがて収まりをみせた頃、リッチモンドが障壁を解除する。

「わーお……凄いなこりゃ……」

「強大な崩壊力を閉鎖空間で解放したからね。逃げ場のないエネルギーが暴れ回ったんだ」

 リッチモンドの言う通り、障壁でカラミティフレアの爆発力を凝縮させた結果、建物の名残は皆無であり地面の部分部分で融解してマグマ化している所や、超高熱を浴びてガラス化している所もある。

「目論見通り、だな」

「だね、どんどん行こう」

 その後はリッチモンドが等間隔でダークネスフォビドゥンサンクチュアリを張り、その上空を通過しながら俺がカラミティフレアを投げ込んでいくという単純作業になり、作戦はものの三十分程度で完了した。
 俺とリッチモンドは更地と化した直線の両サイドの家屋にそれぞれ立ち、目の前にそびえる迷宮管理塔を向いた。
 天に伸びる堅牢そうな建物の入口を見れば、キメラルクリーガー隊が突入を開始した所だった。
 
「陛下、ブラック達が突入しました。シャルルの様子はどうですか?」

「おおフィガロ様、了解です。シャルルヴィル王女殿下は未だ使い魔とのコンタクトを続けておりますぞ。囚われた者達の報はありませんな」

「そうですか……」

「フィガロ様とリッチモンド殿はしばし待機していて下され。もうすぐロンシャンの兵達もそちらへ到着すると思いますのでな」

「分かりました」

「ではまた!」

 思念伝達を終えた俺は反対側に立つリッチモンドへ声を掛けた。

「俺達は待機だってさ」

「はいよ。待機って暇なんだよねぇ……やれやれ」

「そう言うなよ。もうすぐロンシャン兵達がこの近くに到着するらしいから、それまでの辛抱だ」

「分かったよ」

 リッチモンドはそう言うと、屋根の部分にごろりと寝転がって目を閉じた。
 今俺達がいる場所からは迷宮管理塔の様子がよく見える。
 管理塔内部は混乱しているようであり、視界に入る窓の内側では何人もの兵士がキメラルクリーガー隊の元へ急行しているのが見える。
 この場所から見える所だけ魔法でちょっかいを出そうかとも考えたけど、それだと作戦概要から外れてしまう。
 俺達が攻撃を加えるとしたら王城からの魔導砲の斉射時となる。
 王城の方を見ればラプターの巨体が空を舞うのが見え、その背にはヘカテーの姿もある。
 ラプターは縦横無尽に飛び回り、通過した場所には魔法陣が淡く光り、消えていく。
 ヘカテーによるトラップ魔法の設置が順調に進んでいるようだ。
 管理塔からは時折爆発音や大きな破壊音が聞こえてくるけど、ブラックからの連絡は無いので苦戦している訳では無いのだろう。
 というより、ただでさえ強い強化兵を魔法でさらに強化しているのだから、どちらかと言えば革命軍の方々が可哀想になってきたのは気の所為じゃあないだろう。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。