欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三四三話 名付けのセンス

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「ふぅ……」

 運動場を後にした俺は体を流すと言うプルと分かれ、前日に指示された所定の場所へと赴いていた。
 壁際に寄り掛かりプルの言った言葉を思い返すが、今考えてみても顔が赤くなりそうだ。

「夜の友って……どうしてこう……コブラといいプルといい恥ずかしげも無く言えるのかね……ひょっとして俺がそんな事する顔に見えるのか?」
 
 プルを含め、シスターズにはシャルルとの関係を話していない。
 今度皆を集めてきちんと説明しなきゃならないな。
 俺は夜の経験なんて無いし、するとしてもシャルルとだけだ。
 恋人が、婚約者がいるのに他の女性に手を出すなんて……一夫多妻制の某共和国なら分からないでも無いけど、一夫一婦制のランチアでそんな事やってみろ。
 きっと修羅の如く憤怒に燃えたシャルルに、煉獄の炎が滾る深淵の底まで叩き落とされるに決まってる。
 プルには騎士としてだけ働いてくれればいいのだ。
 因みに他の三人にも仕事を割り振るつもりだ。
 シスターズの一人だけ、こちらで雇うというのも何だかなぁと思ったからだ。
 丁度使用人も雇おうかなと考えていた所だし、丁度いいだろう。
 シロン、アハト、ハンヴィーには掃除、今後増えるであろう書類の整理などの雑務を担当して貰う予定だ。

「その為にも……早く終わらせないとな」

「どうしたんだい? 変に決意の篭もった目をしているね」

 考え事をしていると、やってきたリッチモンドが声を掛けてきた。

「ちょっと色々あってな、また後で話すよ」

「了解」

「フィガロおっはよー! よく寝れた? 私は緊張してあまり眠れなかったわ」

「隊長はもう来ていたか。早いな」

 リッチモンドの後に続いてシャルルとブラックが声を掛けてきた。
 ブラックの背後には真新しい装備を着装したピンク、ホワイト、ブラウンの姿もあった。

「装備……どうしたんだ?」

「昨日の内にな、この前奪還した武具店で新調してきた。代金はロンシャンが持ってくれるそうだ」

「あぁ、例の商館か」

「そうだ。中々に良い装備を貰った」

「良かったじゃないか。無理しないで頑張れよ」

「隊長もな」

 ブラックと話をしている間も続々と人は集まってきており、作戦開始が着々と近付いているのを実感する。
 
「なぁシャルル。シキガミをどう使うつもりだ?」

「んふふ、実はね私、凄いこと思いついちゃったのよ」

 俺の質問にしたり顔で答えたシャルルはさらに続けた。

「兵士や騎士って同じ鎧を着けるでしょう?」

「ああ、そうだな」

「だから私のシキガミを鎧に変化させるのよ! ブラックみたいなフルプレートにね! 革命軍には冒険者もいるんでしょう? そうすれば気付かれないし、気にも止めないと思わない?」

「あー……確かに」

「でしょ? 木を隠すなら森の中、鎧を隠すには兵隊の中ってね! で、その姿で囚われた人達の場所を聞き出すの、名案じゃないかしら?」

「上手くいくといいねぇ」

 腰に手を当てて胸を張るシャルルへ、リッチモンドが僅かに口角を上げた。
 アーマライト王とドライゼン王を救出する為に、シキガミで王城に侵入した際も意外と上手くいったし、今回も上手くいくのでは無いだろうか。

「ブラック達はいつ突入するんだ?」

「隊長とリッチモンド殿が作戦を終えた直後、敵が混乱している隙に乗じて」

「そっか。という事は俺達と同時に出発するのか」

「そうなるな」

 磨き上げられ艶光りする黒鎧を着て、片方の腰に下げた長剣の柄に手をかけながらブラックは頷いた。
 俺はブラックとその背後に控える強化兵達を見ながら一つの質問を投げかける。

「無理はするなよ。後さ、ふと気になったんだけど強化兵ってさ、物理的に強化してるんだろ?」

「そうだ。俺の場合はモンスターの筋肉や人口繊維を使用してパワーを上げ、薬剤で神経系統を強化、液化させた合金鋼を流し込んで骨を覆って耐久値を上げている。中にはゴーレムやアンデッドの骨格を使用している兵もいたな」

「ふぅん……でさ、強化兵に身体強化魔法って効くのか?」

「やった事がないので何とも言えないな」

「へぇ……なら、やってみるか?」

「隊長がそう決めたなら俺は構わない」

「分かった。なら出発する時に試してみよう」

「あー……隊長、その、なんだ。俺からもいいか?」

「ん?」

「頼みがあるんだが……」

「えっ」

 ブラックは人差し指で自分の頬をポリポリと掻きながら、目を背けて気恥しそうに言った。
 何だ何だ? プルに続いてこの短時間で二つ目のお願いとか、
しかも寡黙なブラックが若干照れながらという珍しい状況に困惑しながらも続きを待った。

「俺達にも……名前をくれないか? 部隊名と言うやつだ。聞けばあの四人の娘達にはシスターズという部隊名があるそうじゃないか。だからと言うワケじゃないが……」

「何だそんな事か……いいぞ。どんな名前がいい?」

 一体どんな頼みが飛び出るかと思ったけど、部隊名を名付けるだけなら簡単だ。

「出来ればこう、強そうな名前を所望する」

「じゃあ……ストロンググレイト」

「君ねぇ……」

「センスゼロね」

 俺が即席で思い付いた強そうな名前を口にした途端、ブラックよりも早くリッチモンドとシャルルがツッコミを入れてきた。
 
「ダメか?」

「隊長、すまないが別のを頼む……」

「強そうな……うーん……強い、強化兵、四人、カラー……うううん……」

「ま、まぁ今すぐにで無くても構わない。イイヤツを頼む」

「分かった。任せてくれ」

 ブラックの表情が若干引き攣っているように見えるのは気の所為だろうか? 
 
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