欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

三二九話 道標

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『親父殿! 私はどうすればいい?』

「どう……って?」

『主人亡き今、私の道標は親父殿だ。親父殿が私の行き先を決めてくれ』

 トテトテと俺の前に歩いてきたラプターが首をクルリと回してそう言った。

「なら今は内戦を終わらせる為に力を貸してくれ」

 羽毛で包まれた頭部を優しくなでると、適度な弾力で手が沈み込んだ。
 元のサイズの時に撫でた際にも思ったけど、このモフモフ具合も結構な具合だ。
 クーガの毛皮がシルクのような手触りだとするならば、ラプターは空気をたっぷり含んだ高級羽毛布団のようなモコモコさだ。

『わかった』

「でもいいのか? 今まで味方だった奴と戦うんだぞ?」

『構わない。というよりも私は主人以外の人間にあまり興味がない。なんせ人間どもは私を追い回してくれたからな。それにあそこは何だか居心地が悪かったからな』

 目を閉じて撫でなれるがままのラプターが、一度だけ身を震わせて羽を伸ばした。

「そっか。じゃあ期待させてもらうぞ」

『オーケーだ親父殿。兄者もよろしく頼むぞ』

『こちらこそな』


 〇


 ラプターと共同戦線を確約した俺は、元のサイズに戻ったクーガに跨り空中に漂っていた。
 ラプターは小さいままでクーガの頭の上にちゃっかり乗っている。
 クーガが発生させた蒼炎の檻は既に消されているので、俺達の周囲は完全な闇だ。
 ある程度目が闇に慣れたとしても、数十メートル先の闇の中まで見通すのはさすがに難しい。
 
『あそこが主人の所属していた革命軍の拠点だ』

「やっぱり大きいな」

 闇の中、地上から空中にかけて橙色の明かりが点々と浮いている。
 明かりは途中から二股に分かれているのだが、明かりがあるという事は人がいるという事に他ならない。
 闇に零れる橙色に照らされて浮かび上がっているのは四角形の縦に長い建物で、建物の上階からは左右に分かれた塔が伸びている。
 あの双塔の片方からウルベルトはクトゥグアを放っていた。

『やけに大きいが……ここは何の建物なのだ?』

『ここはロンシャン連邦国が抱える地下迷宮の管理塔だ。主人曰くこの管理塔は小さな町と同じくらいの規模を誇るそうだぞ。宿屋に武具屋、雑貨から日用品、魔法のスクロールを売っている所から自由冒険者組合の支部まで、人が必要とする店は大体揃っているらしい』

「はー……すっげぇなぁ……」

『地下から最上階まではおよそ三百メートル近くはあるのだと。ここを制圧する事が革命軍の第一目標だったと主人は話していた』

「はぁー……そりゃまたどデカいなぁ……」

 闇に浮かび上がる管理塔を下から上まで舐め回すように見てポカンと口を開ける俺は、傍から見ればさぞ間抜けなお上りさんに見える事だろう。
 上空から偵察していた時にも気になってはいたが、こうやって至近距離で見るとかなり圧倒される。
 ランチアではこんな巨大な建物は見たことが無いので、俺の心は僅かながらに高揚していた。
 ランチア市街地もサーベイト大森林に比べれば都会だ。
 けどロンシャン連邦国はさらに都会だ。
 いわゆる大都会というやつだな。
 しかしこんな街中に迷宮があって市民は不安にならないのだろうか。
 多分厳重に管理されているんだろうし、迷宮の上に自由冒険者組合があるのは有事の際に最速で対応出来るようにする為だろう。

「なぁ。自由冒険者組合があるのに制圧されたのか?」

 ふと頭に浮かんだ疑問がそのまま口に出た。
 ロンシャン連邦の自由冒険者組合がどの程度実力を持っているのかは知らないけど、モンスターと渡り歩い危険と隣り合わせの生活を送っている人達がそう簡単に懐柔されるのだろうか。

『詳しい事は知らないが、組合に内通者がいたそうだ。それに加えてここを制圧したのは赤龍騎士団と屋内戦に慣れている兵科だったそうだぞ』

「なるほどな。外堀は埋められていたって事か。中にいるのは赤龍騎士団と軍と冒険者達か?」

『いや、それに加えて黒竜騎士団と約六百人の教会騎士団がいる』

 また新しい名前が出てきたぞ。
 名前からするとまんま教会の騎士達なんだろうけど……神に仕える騎士団が内線に参加していいのか?
 
『教会騎士団は枢機卿を人質に取られ、しぶしぶ従っているらしい』

「俺の疑問に答えてくれてありがとう」

『だが……主人曰く枢機卿は既に亡くなっているそうだ』

「あー……可哀想に……枢機卿を守る為に戦争してるのにその本人が殺されてるってのはなぁ」

『革命というものはよく分からないが……色々と込み入っているらしいぞ』

「だろうねぇ……」

 王城程ではないが、迷宮の管理塔も中々に広くどれぐらいの人数がいるのかはラプターでも分からないだろう。
 管理塔にいる人間が全て敵とは限らないけど、この規模はアーマライト王が投げやりになってしまうのも仕方ないだろうな。
 俺みたいな若造の失礼な物言いにも怒らず、真摯に対応してくれたアーマライト王はやはり出来た人間なのだろう。
 この国の内情を知らないのにあーだこーだ言うのはお門違いだけど、何故革命が必要なのだろうか。
 ここ十年は内紛も無く、順調に成長してきたと文献には書いてあった。
 ひょっとしたら革命というお題目の裏に何かあるのではないか、と思わざるをえない。
 総司令であるガバメントを倒したと言うのに、敵の動きはまるで変わらない。
 一体この国で何が起きているというのだろうか。
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