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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三二八話 ツンモフ
しおりを挟む『色々と面食らったが……貴方が私の親だと言うのは理解した。そして私に送られてきた魔力量から貴方は少年の皮を被った化物だと判断した』
「魔獣に化物とか言われたくないんですがそれは」
『ふふふ、ラプターよ、理解したか! マスターの偉大さを!』
「クーガちょっと静かに、シーしてシー」
『なぉん……』
「俺がラプターに送った魔力は少しだけのはずなんだけど? それで判断出来るのか?」
『なるほど……分かっていなかったのか。確かに魔力は少量ずつ送られてきた。だが考えてもみてくれ、貴方は主人と死闘を演じた後だろう? 主人は何本もの魔力薬を飲んで戦っていたのだぞ? なのに貴方は涼しい顔をして振る舞い、魔力を送りこんできた……自分の魔力がまるで減っていないかのように』
「あー、ね」
『少しと言ったが……魔獣たる私の魔力プールを微量だが回復させる程の魔力を少しと定義していいのだろうか? 通常人種の魔力プールと魔獣の魔力プールは水溜まりと池ほどの違いがあるのだぞ? 主人も言っていたが貴方は魔力コントロールが稚拙なのだ。なんともアンバランスな御方よ。貴方はもう少し魔力の使い方を学ぶべきだ』
「なんかすみません……」
『マスターは偉大なマスターだからな! 仕方ないだろう!』
『兄ももう少しこの方にアドバイスをしてやるべきだ。第一の下僕と言うならばな』
『ぐぬ……それは……その……むう……』
『大きな力の上に胡座をかくだけでは成長しないぞ。まぁこれは主人の受け売りだがな』
「『スミマセン』」
ひとしきり話終えるとラプターはため息を吐き、マントに包まれたウルベルトの亡骸を見た。
『主人はもう居ない。聞けば人間達は男の産みの親を親父と呼ぶらしい。貴方を親父と呼ばせてもらってもいいだろうか』
「親父……そんな歳じゃ無いんだけどな……まぁいいよ、呼び方はまかせる」
『では親父殿、これからも宜しく頼む』
ラプターは翼を限界まで広げ、俺に向けて深く礼をした。
これでラプターが仲間になったと言うことは空の戦力が増えたという事だ。
「でさ、クーガ」
ラプターの胸部をモフモフしながら、背後に座るクーガへ話しかける。
『何でしょう?』
「どうしてそんなデカくなったんだ?」
『ああ、これは変化で大きさを変えているだけです』
そう言うとクーガはオン、と一声鳴いた。
するとクーガの巨体が光に包まれ徐々に元のサイズへと戻っていった。
『兄よ! その術を教えてくれ!』
クーガが元のサイズに戻ったのを見たラプターが、翼をワサワサとはためかせて言った。
俺としては変化です、と言われてもちんぷんかんぷんなんですがね。
『良いだろう。これも兄としての務めだ。ラプターよ、お前のなりたい姿を強くイメージするのだ。そして魔力を内部へ集中させイメージした姿になりたいと一心に祈るのだ』
『むむ……なりたい姿……今より小さく……あわよくば森で生活していた頃のような……むむむむ……』
ラプターが目を閉じ、もにゃもにゃと呟いているとその巨体がじんわりと発光を始めた。
『いい感じだぞ』
『むぅん!』
発光は次第に強くなり、それに伴いラプターの巨体がスルスルと小さくなっていき、やがて床の上に大きさ八十センチほどの体長の短足でぼてっとした梟が立っていた。
『こ、これは……小さい! 小さいぞ! フォオオオオ!』
『何もそこまで小さくならんでもいいだろうに……』
「それな」
小さいと言っても俺の知る梟の中では最大級の大きさだ。
ラプターは相当に嬉しいらしく、翼を広げて短い足でトテテテテ、と建物の屋上を縦横無尽に走り回っている。
なんだこれ、すっごい可愛い。
シャルルが見たらきっと手放さないだろうな。
「で、だ。クーガ、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」
『はい! 何でしょう?』
「どうして俺の居場所が分かったんだ?」
『は! あの若い老公に教えて頂きました!』
「若い老公って……いい加減名前で呼べよな……クライシスに会ったのか?」
『は! 私がドンスコイと共に屋敷へ帰ってしばらくの事、コブラ嬢が帰宅され、その後に若い老公、クライシス殿がロンシャン連邦国とやらに出掛けてくると仰ったのです。マスターがそこに居ると聞いた私も共にと言ったのですが……すぐに帰るから屋敷で待ってろ、と言われまして』
「うん」
『しかし数日待てどマスターもクライシス殿も帰って来ない! ならば私が、とお迎えに上がった次第でして』
「なるほどな。でもよくこの広いロンシャンで俺を見つけたな」
『ランチアのとある場所で一度マスターの匂いは消えていて、この国に来るまでまったく見付けられませんでした。しかしこの国に到着した途端、あちらこちらからマスターの匂いがしまして……散々迷った末にリッチモンド殿の魔力を感じ、王城へと向かったのです』
「あー、空を飛んでたから匂いが途切れたんだな……だから王城の方から来たのか、しばらくは俺の帰りを待っていてくれたんだな。すぐに帰れなくて悪かったよ。今はこの国で戦争に巻き込まれてる。協力してくれるか?」
『無論! 言わずもがなです!』
「サンキュ!」
俺が座っているクーガに対して手を挙げると、ハイタッチよろしくクーガの肉球が柔らかく俺の掌に当てられた。
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