欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
163 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

三二五話 魔法の多様性

しおりを挟む

 ウルベルトに操られた氷槍は疲れを感じる事など有り得ない。
 絶え間なく繰り出される突撃槍チャージの一撃はかなり強力で、スリングストーンを纏めてぶつけてやっと軌道を変える事が出来るのだけど、スリングストーンがぶつかる度にガリガリとスリングストーンが粉砕されてしまう。
 クーガも黙って避けているわけじゃなく、何度も炎で迎撃しているのだけど氷槍が纏う旋風に尽く掻き消されてしまって、クーガの炎が槍本体に届かないのだ。

『マスター! あの槍鬱陶し過ぎます!』

「同感だ!」

 たかが五本の槍と言えどその脅威は計り知れない。
 迷宮でもモンスターの絶え間ない波状攻撃があったが、これはその比じゃない。
 掠りでもしたらそこでデッドエンド、俺の人生が終わってしまう。
 俺はハインケルのようなタフさなんて持ってない、身長の低い華奢な男の子なのだ。
 自分で言っていて悲しくなるけど、実際その通りなのだから仕方ない。
 背なんてすぐ伸びる。
 きっと伸びる。
 
「クーガ! ウンヴェッターの時みたいな技は出せないのか!」

『あの技はタメが長くこのような状況では不可能です!』

「くっ……!」

 魔力切れとは無縁な俺とクーガだが、こうも神経が削られるとだんだん苛立ちが強くなってくる。
 フレイムボルテックスランスのイメージは瞬時に構築出来るので撃ち出す分には問題ない。
 しかしあの魔法は直線攻撃であり、飛び回るラプターにとっては何の効果もない。
 せめてウルベルトのように操る事が出来たならいいのにと、フレイムボルテックスランスの魔法構成を考え、一つの妙案とも言える考えが頭に浮かんだ。
 フレイムボルテックスランスには【フレイムウィップ】という炎の鞭の魔法を融合させているのだが、この魔法を少しアレンジしてみようと思った。
 高速回転するフレイムボルテックスランスの後部からフレイムウィップを伸ばし、俺の掌へと繋ぐのだ。
 本来フレイムウィップの使い方としては、掌から伸ばした炎の鞭で相手を攻撃したり巻き付けたりというもので、鞭術の心得が無くとも術者の思い通りに炎の鞭を動かせるのが強みだ。
 その性質を利用して擬似的にフレイムボルテックスランスを操れないだろうか、というのが最終的な結論だ。
 炎の鞭であればいくら回転がかかった所でちぎれる事も無いだろうしな。

「集中する。クーガは回避に専念、逃げ回れ!」

『御意に!』

 フライを発動させたままフレイムボルテックスランスを使うのは初めてだが、フライの効力により俺の体はクーガにしっかり固定されている。
 なので移動はクーガに任せ、俺はフライを持続させる事とフレイムボルテックスランスの事だけ考えればいい。
 フレイムボルテックスランスのイメージを脳内で構築、赤熱する石槍の底部からフレイムウィップを俺の手へ伸ばす。
 そして槍自体を太く、硬くして強度を上げ、穿孔力を増加させる為に槍本体へ螺旋の溝を刻み込み、螺子と槍を合わせたような形状へ。
 これは俺のアイデアでは無く、【穿岩棒】と呼ばれ炭鉱等で使われる採掘用の携帯式魔導技巧の刃を真似したものであり、迷宮で使用した術式を取り入れたものだ。
 細い原理は分からないけど、【穿岩棒】は人の手では破壊出来ない岩や鉱石をいとも簡単に砕く強力な魔導技巧だ。
 その刃の形状をフレイムボルテックスランスに取り入れれば、貫通力も増すのではないかと思ったのだ。
 迷宮の壁をあっさりと吹き飛ばす威力を見せた、あの名もなき合成魔法とフレイムボルテックスランスの融合といってもおかしくないだろう。
 イメージの中で新たな形状へと進化した魔法に、新たな名前を付けようかとも一瞬思ったが今は悠長に魔法の名前を考えている場合では無い。

「サンクエクスパンション【フレイムボルテックスランス・改】!」

 空中を駆けつつ機敏な動きで圧縮やりを躱すクーガの上で、生まれ変わった必殺技を発動させる。
 名称がちょっと雑だが今は仕方ない。
 そして、俺の声とイメージに呼応するように文殊が淡く輝き出し、周囲に五本のフレイムボルテックスランスが現れた。
 ウルベルトの圧縮槍に対抗して敢えての五式展開、形状はイメージ通りの物であり、回転する赤熱した三角錐の螺子槍には俺の五本指から伸びた炎の鞭がしっかりと接続されている。

「なに!?」

 ウルベルトからすれば、逃げ回っていただけの俺の周りに奇妙な槍が出現したように見えただろう。
 圧縮槍の威力は確かに恐ろしいが、新たに構築したフレイムボルテックスランス・改の威力があればきっと対抗出来るはずだ。
 ウルベルトは圧縮槍を後方へ引き戻し、大きく手を振りあげている。
 恐らく距離を取って加速させ、貫通力を上げるつもりだろう。
 
『マスター、その槍、私にもご助力をさせて頂きたい』

「いいぞ、ラプターに出来るんだ、お前もやってやれ」

『は!』

 クーガが一声発すると同時にフレイムボルテックスランス・改へ青白い炎がまとわりつく。
 炎は螺子槍の回転力により渦を巻き、まるで炎の竜巻を宿しているようにも見えた。

「キメるぞ」

『は! あの不届きな鳥めに目に物見せてやりましょう!』
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。