156 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三一七話 ラプター
しおりを挟む『さて、フィガロと言ったな? 主人からの許しも出たことだ、少し話を聞かせてくれないか?』
「え、えぇ、まぁ……かまいませんけど……」
予期しない展開に面食らった俺は、しどろもどろになりながらも了承の意を示した。
ラプターは大きな翼をはためかせてゆっくりと展望台に着地し、静かに翼を畳んだ。
今のところは敵意を感じられないので、俺もラプターに倣って展望台へ降り立ちフライを解除、一応念の為に対魔障壁を張りつつある程度距離を取ってラプターと対峙した。
『フィガロよ。私の他に魔獣を知っていると言っていたな? それは本当なのか?』
「本当ですよ。ヘルハウンドという魔獣です、ご存知ですか?」
『いや、私はつい最近魔獣に変異したばかりなのでな、細かい種族は分からない。だが嘘は言っていないようだな』
ラプターが展望台に降りてくれたおかげで、やっと全体像を見ることが出来た。
頭部の半分以上を占めるであろう大きな瞳は猛禽類のそれであり、頭頂部にはこじんまりとした二本の角が生えている。
丸い頭部に同じく丸い胴体、胴体の下からは丸太のような足と短剣のような鋭いかぎ爪が伸びており、触っただけで切れてしまいそうだ。
全体的な色合いは白と灰色が混ざったような羽毛で包まれており、おなかの部分だけは純白の羽毛が生えている。
これはあれだ。
梟だ。
梟をとことん巨大化したような体躯を持つ魔獣、それがラプターだった。
「はい。嘘を言っても仕方ありませんしね。ところでラプターさんの種族は何になるのですか?」
『私の種族はダークキーパー。主人曰く一応は中位の魔獣らしいぞ』
「ダークキーパー……確か百五十年前に出現、討伐された魔獣、ですよね」
「よく知っているなハイエルフよ!」
「それ系の本や文献はさんざん読みましたからね。百五十年前に出現した際は数十の村や街を壊滅させたとか」
『らしいな。主人から色々と教えて貰ったはいいが、私には暴れるという行為が理解出来ない。なぜわざわざ敵を増やすような事をするのか不思議でならない』
ラプターは首を百八十度回転させ、背中に乗っているウルベルトを見た後、再び俺に顔を向けた。
普通の梟が首を回転させるのと、巨大なラプターが首を回転させるのでは迫力が違う。
『私自身、魔獣に変異した時は驚いた。ある日目が覚めたらこのような姿になり自分がどういう存在なのかを本能的に理解した。しかし困ったことになってしまってな……私は見ての通り大きい、住んでいた森ではどうにも目立ってしまった。しばらくは隠れ住んでいたのだが、ちょっとしたヘマをして人間に追い回されることになったのだ。いくつかの傷を負った私は這う這うの体で逃げ出し、この国のオアシスにて休んでいた所で主人と出会ったのだ』
「へ、へぇー……」
なんだろう、物凄い既視感を覚えるのだけれど。
目を閉じてしみじみと思い出を語るラプターだが、どうにも気になることがあるのでちょっと聞いてみようと思う。
「えと。よろしければご出身の森の名前を伺っても宜しいでしょうか?」
『私の故郷はサーベイト大森林だ。あそこはとても広くて静かで、なにより食糧が豊富だった』
その単語を聞いた瞬間、盛大に吹き出しそうになったがギリギリの所で我慢出来た。
まさかとは思うけど……。
「ちなみになんですが……変異する前、霧の中にいたりしました? あと近くに家があったりとかは」
『ほう。よくわかるな! そうなのだ、私が住処としていた木があるのだがな? ある日を境によく霧が出るようになったのだ。変異する前の日も濃い霧が出ていたな……そうそう、家もあったな。だが私が活動するのは夜だから家の住人を見ることはなかったがな』
「へ、へぇー……ソウナンデスネー……」
「こいつと出会った時は度肝を抜かれたぞ? なんせ大型の鳥モンスターなんぞこの国では珍しいからな。捕獲して獣魔兵にしてやろうと思ったら唐突に語りかけてきたのだ、「私は危害を加えるつもりはありません、どうか見逃してくれないか」とな。今思えばラプターと出会ったのは空を飛ぶ貴様と渡り合うためなのだろうな! ハイエルフよ!」
うーん、あの森で魔獣に変異したのはクーガだけじゃないとクライシスに聞いていたけど……まさかここで出会うとは思っても無かった。
クライシスの言っていた森での騒ぎというのは、ラプターを含む魔獣に変異した動物の討伐やら調査やらなのだろう。
文殊を造り上げるまでの間に、俺が森の生態系を大きく狂わせてしまったのは変えようのない事実だ。
でもそれを踏まえた上で一つの疑問がある。
この疑問はサーベイト大森林で過ごしていた時から今までずっと気にかかっていた。
すなわち俺の実家、アルウィン家の状況だ。
十五年住んでいた俺の実家は霧なんて出た試しがないし、秘境のひの字も無いごく普通のお屋敷だった。
家の規模はかなりの大きさだったけど、周囲で魔獣騒ぎや問題が起きた話も聞いたことがなかった。
こればかりは実家に行って聞いてみないとわからない。
もしかしたら俺の知らない何かが隠されているのかもしれないし、俺が追放された裏側に少なからず関わっているんじゃないか、とも思う。
追放された当時は欠陥品だから、と父の言葉を鵜呑みにしていたけど、様々な事実が判明していくにつれ実家への疑問は増していくばかりだった。
今となっては知る術は無いけど……いつかアルウィン家に帰る事が出来たのなら……この疑問も晴れるのだろうか。
0
お気に入りに追加
5,173
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。