欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

三一七話 ラプター

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『さて、フィガロと言ったな? 主人からの許しも出たことだ、少し話を聞かせてくれないか?』

「え、えぇ、まぁ……かまいませんけど……」

 予期しない展開に面食らった俺は、しどろもどろになりながらも了承の意を示した。
 ラプターは大きな翼をはためかせてゆっくりと展望台に着地し、静かに翼を畳んだ。
 今のところは敵意を感じられないので、俺もラプターに倣って展望台へ降り立ちフライを解除、一応念の為に対魔障壁を張りつつある程度距離を取ってラプターと対峙した。
 
『フィガロよ。私の他に魔獣を知っていると言っていたな? それは本当なのか?』

「本当ですよ。ヘルハウンドという魔獣です、ご存知ですか?」

『いや、私はつい最近魔獣に変異したばかりなのでな、細かい種族は分からない。だが嘘は言っていないようだな』

 ラプターが展望台に降りてくれたおかげで、やっと全体像を見ることが出来た。
 頭部の半分以上を占めるであろう大きな瞳は猛禽類のそれであり、頭頂部にはこじんまりとした二本の角が生えている。
 丸い頭部に同じく丸い胴体、胴体の下からは丸太のような足と短剣のような鋭いかぎ爪が伸びており、触っただけで切れてしまいそうだ。
 全体的な色合いは白と灰色が混ざったような羽毛で包まれており、おなかの部分だけは純白の羽毛が生えている。
 これはあれだ。
 梟だ。
 梟をとことん巨大化したような体躯を持つ魔獣、それがラプターだった。

「はい。嘘を言っても仕方ありませんしね。ところでラプターさんの種族は何になるのですか?」

『私の種族はダークキーパー。主人曰く一応は中位の魔獣らしいぞ』

「ダークキーパー……確か百五十年前に出現、討伐された魔獣、ですよね」

「よく知っているなハイエルフよ!」

「それ系の本や文献はさんざん読みましたからね。百五十年前に出現した際は数十の村や街を壊滅させたとか」

『らしいな。主人から色々と教えて貰ったはいいが、私には暴れるという行為が理解出来ない。なぜわざわざ敵を増やすような事をするのか不思議でならない』

 ラプターは首を百八十度回転させ、背中に乗っているウルベルトを見た後、再び俺に顔を向けた。
 普通の梟が首を回転させるのと、巨大なラプターが首を回転させるのでは迫力が違う。

『私自身、魔獣に変異した時は驚いた。ある日目が覚めたらこのような姿になり自分がどういう存在なのかを本能的に理解した。しかし困ったことになってしまってな……私は見ての通り大きい、住んでいた森ではどうにも目立ってしまった。しばらくは隠れ住んでいたのだが、ちょっとしたヘマをして人間に追い回されることになったのだ。いくつかの傷を負った私は這う這うの体で逃げ出し、この国のオアシスにて休んでいた所で主人と出会ったのだ』

「へ、へぇー……」

 なんだろう、物凄い既視感を覚えるのだけれど。
 目を閉じてしみじみと思い出を語るラプターだが、どうにも気になることがあるのでちょっと聞いてみようと思う。

「えと。よろしければご出身の森の名前を伺っても宜しいでしょうか?」

『私の故郷はサーベイト大森林だ。あそこはとても広くて静かで、なにより食糧が豊富だった』

 その単語を聞いた瞬間、盛大に吹き出しそうになったがギリギリの所で我慢出来た。
 まさかとは思うけど……。

「ちなみになんですが……変異する前、霧の中にいたりしました? あと近くに家があったりとかは」

『ほう。よくわかるな! そうなのだ、私が住処としていた木があるのだがな? ある日を境によく霧が出るようになったのだ。変異する前の日も濃い霧が出ていたな……そうそう、家もあったな。だが私が活動するのは夜だから家の住人を見ることはなかったがな』

「へ、へぇー……ソウナンデスネー……」

「こいつと出会った時は度肝を抜かれたぞ? なんせ大型の鳥モンスターなんぞこの国では珍しいからな。捕獲して獣魔兵にしてやろうと思ったら唐突に語りかけてきたのだ、「私は危害を加えるつもりはありません、どうか見逃してくれないか」とな。今思えばラプターと出会ったのは空を飛ぶ貴様と渡り合うためなのだろうな! ハイエルフよ!」

 うーん、あの森で魔獣に変異したのはクーガだけじゃないとクライシスに聞いていたけど……まさかここで出会うとは思っても無かった。
 クライシスの言っていた森での騒ぎというのは、ラプターを含む魔獣に変異した動物の討伐やら調査やらなのだろう。
 文殊を造り上げるまでの間に、俺が森の生態系を大きく狂わせてしまったのは変えようのない事実だ。
 でもそれを踏まえた上で一つの疑問がある。
 この疑問はサーベイト大森林で過ごしていた時から今までずっと気にかかっていた。
 すなわち俺の実家、アルウィン家の状況だ。
 十五年住んでいた俺の実家は霧なんて出た試しがないし、秘境のひの字も無いごく普通のお屋敷だった。
 家の規模はかなりの大きさだったけど、周囲で魔獣騒ぎや問題が起きた話も聞いたことがなかった。
 こればかりは実家に行って聞いてみないとわからない。
 もしかしたら俺の知らない何かが隠されているのかもしれないし、俺が追放された裏側に少なからず関わっているんじゃないか、とも思う。
 追放された当時は欠陥品だから、と父の言葉を鵜呑みにしていたけど、様々な事実が判明していくにつれ実家への疑問は増していくばかりだった。
 今となっては知る術は無いけど……いつかアルウィン家に帰る事が出来たのなら……この疑問も晴れるのだろうか。
 
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