欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

三一〇話 捜索

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「さて困った」

『そうね』

「私にはお手上げですなぁ」

「どうしたものか」

 地下に繋がる階段なり昇降機なりを総出で探し、一時間が経ったころ、僕達はビップルームのような部屋に集まって頭を抱えていた。
 確かに生者の反応は地下にある、だけど肝心の地下へ繋がる経路が一向に見当たらないのだ。
 部屋にいるのはいずれも戦闘タイプばかりの者で、罠や隠し通路などを探し当てるプロフェッショナルがいないのだ。
 
「まさかこんな事になるとはね」

 僕は肩をすくめ、おどけたように手を挙げる。

『リッチモンドを疑っているわけじゃないけど、本当に地下があるの?』

「そりゃ……あるよ。絶対」

「なぜそうも断言出来るのですかな?」

 シャルルちゃんとタウルスの視線が僕に向き、「本当かよ」という意思がひしひしと感じられる。
 そりゃ大人数で一時間も探し回った挙句、見つからないのだから疑いたくなるもの分かるけどさ、ここで僕が「生者の気配がする」なんて言ったらそれこそ面倒なことになるのは目に見えているし。

「実はね、僕は商人の息子だったんだよ。それなりに大きな豪商だった。でも商人っていうのはケチでね、他の敷地を買って倉庫などを建てるより一つの敷地内に全部を纏めてしまおうって考えの人間が多いのさ。それに強盗や空き巣なんかを警戒して経路が隠されている場合が多いんだ」

「ほう……リッチモンドが商人の息子とは意外だな」

 ヘルメットを外したブラックが目を丸くして相槌を入れてくれたけど、そんなに意外かな?
 
「だろう? 経費はなるべく安く抑え利益を最大化させる、商人の基本さ。とまぁそんな訳でこれだけ大きな建物だ、地下は必ずある」

「なるほど……確かにそう言った考えがあるのでしたら断言してもおかしくはありませんな。ですがこうも見つからないというのは」

 本当に納得しているのかは分からないけど、タウルスが顎に手をあてて考え込む。
 必ず見落としている場所があるはずなんだよね、隠されているからぱっと見では絶対に分からない偽装がされている。

「あの……よろしいでしょうか」

 僕達がうんうん唸っていると、話を聞いていたロンシャン兵の一人が手を挙げた。
 
「なんだい?」

「その……この建物の中心にやけに太い柱がありました。普通の柱を束ねたような太さのものです、やけに太いなと疑問に思っておりましたが……何か関係はありますでしょうか?」

『きっとそれは大黒柱じゃない? これだけ大きな建物だもの。大黒柱が太くてもおかしくは無いんじゃないかしら?』

 発言した兵士に向けてシャルルちゃんが言葉を返し、兵士も自分の疑問が杞憂だったことが分かり頷いて納得しているようだった。
 けど僕はピンと来た。

「そこだね」

『え?』

「シャルル様には無礼でありますが、私もリッチモンド様に同意見でございます」

「なぜだ? 柱が太くて駄目な理由でもあるのか?」

 シャルルちゃんとブラックの二人が不思議そうな目で僕とタウルスを交互に見る。
 ロンシャン兵達もお互いに顔を見合わせてヒソヒソと話を始めた。

「隠し通路はきっとその柱だね。この建物は大黒柱を据えるような構造じゃない。行こう」

『ちょ、ちょっと待ってよ。説明してよー!』

 すぐさま立ち上がった僕は扉を開け、発言した兵士に連れられてその柱へと移動を始めた。
 後ろでシャルルちゃんが何か言っているけど、説明するより実際に見せた方が納得するだろうし、聞こえないふりをして足早に去る。
 数分で柱の前に到着して現物を見てみると確かに太い。
 柱は壁にくっつくようにして立っており、大人三人くらいの横幅は余裕でありそうな太さだ。

「柱の後ろの部屋は他の部屋に比べて面積が狭いんです」

「なるほどね。これは確定でよさそうだ」

 ロンシャン兵の報告を聞きながら、僕は柱の表面をペタペタと触って質感や継ぎ目などがないかを確かめていった。
 結論。

「開け方が分からないから吹き飛ばすしかないね」

 実力行使という事になった。
 どうやら柱は石で出来ているらしいけど多少吹き飛ばしたとしても、これだけ太い柱だ、一人通れるくらいの穴を開けたとしても問題は無いよね。
 
「ではその役目、このタウルスめが」

「大丈夫かい? 結構堅そうだよ?」

「問題ありませんな」

「じゃお願いするよ」

 すっと前に出たタウルスの背中を見守りつつ、もし崩れてしまった場合の対処法として対物障壁を張り、この場にいるロンシャン兵達と僕達を包み込む。
 この障壁の中に居れば万が一崩落したとしても無傷で生還出来る。
 
「コォォオオオ……」

『タウルス頑張って!』

 柱の中央部分に陣取り、独特な呼吸法と構えで集中するタウルスにシャルルちゃんの黄色い声援が飛び、緊張感があまり感じられない。
 地下に潜んでいる革命軍達も、自分たちの敵がこんなのほほんとした空気でいるなど予想もしないだろう。

「粉岩撃!」

 ひと際大きな声を上げたタウルスから繰り出された拳が柱に激突する。
 すると建物全体が揺れたような振動が起き、柱を構成していた石が砂粒になって崩れ去っていき、一メートル四方ほどの穴がぽっかりと開いた。
 柱全体が崩れる心配も無さそうだし、万事オーケーといったところだね。
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