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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三〇九話 黒炎
しおりを挟む建物はコの字型に建築されている為、僕達は右側を、ブラック達は左側を担当する事になっていた。
特に連絡も来ないので順調に進んでいるんだろうね。
「ソイヤッサァ!」
「なんだこのジジイ! めちゃくちゃ強いぞ! 気を付けっぎゃん」
革命軍の一人がタウルスを警戒するべき、と言いかけたがそれはタウルスの拳により顎を砕かれ最後まで言い切る事は出来なかった。
「おやおや、舌を噛まれてしまいましたかな?」
通路は広いが大勢で戦闘をするにはいささか狭く、兵士二人とタウルスが横並びになってやっと、という具合だ。
通路の両サイドにはいくつもの扉が設置されており、開いている扉と開いていない扉が混合しているけど、開いていない扉は僕が魔法で爆破して強制的に開けていく。
二階に上がる階段はロンシャン兵により抑えられ、二階にいる革命軍と睨み合いをしている。
「執事さん、僕は上の階を掃除してくるよ。このままだと殺る事が無くなっちゃうからね」
「承知致しました!」
『わたっ、私は!?』
「シャルルちゃんは観戦でもしていてよ。こんな戦いで無駄に魔力を消費する必要なんてないさ」
『あ、うん……わかった』
奮戦するタウルスを後目に僕は階段まで歩き、上を覗き込んでみた。
「死ね!」
僕が顔を出した途端、上で機会を伺っていた革命軍から矢が放たれるが、残念な事に矢は僕に届くこと無く、金属で作られた矢は僕の手でしっかりと握られていた。
「くそ! 勘のいい奴め!」
矢を撃った革命軍の男は、舌打ちをしてすぐさま身を隠してしまった。
「お返しをしないとね【ダークフレイムブラスト】」
指先に拳大の黒い炎球を生み出し、二階に向けて弾き飛ばした。
着弾と共に漆黒の炎が通路を壁を舐めまわし始める、そして僕達が上がってくるのを待っていた革命軍達の身を焼いていき、二階は闇に包まれた。
「闇の炎は生者を求めて舌を伸ばす。骨すら残さず闇へと溶けろ」
一瞬断末魔の叫びが聞こえたが、それもすぐに消えた。
闇の炎に抱かれた生者は闇に全てを食い散らかされ、魂の残滓すら残さず消えるのだ。
僕をこんな戦いに巻き込んだ報いだよ。
すぐに消えてしまったけど、君達の恐怖はとても美味しかった。
これを償いとして受け取っておくよ。
実は最近、というよりもロンシャン連邦国に来てから僕の能力の一端が浮き出てきている。
そういう能力があるのは知っていたけど、僕にはあまり縁のないものかと思っていた力。
負の感情を自らの力に変換する上位アンデッドにのみ許された能力。
怒りや悲しみもいいが、一番濃くて美味しいのはやはり恐怖や絶望、中でも死を感じ、命散る直前に発生する負の感情は素晴らしい熱量を持つ。
「何となくだけど、アンデッドが生者を襲う理由が分かる気がするよ」
低級のアンデッド達は生者を憎み、襲い、魂の欠片や残滓、魔力を吸収して成長する。
僕の場合は、家の敷地に発動した呪いがその役目を果たしていて、ゆっくりとだけど低級から中級、上級へと成長していった。
もしこのままロンシャンで発生する負の感情が増え続け、僕が成長していった場合、僕はどうなるのだろうか?
「クリア、行こう」
「は!」
そんな事を考えていると、二階の闇の炎が消えていき、静まり返った廊下が現れた。
もう敵はいないと思うけど、念のためにゆっくりと階段を昇って顔を覗かせた。
「リッチモンド殿……先ほどの黒炎、あれは一体?」
僕の後ろに控えるロンシャン兵の一人が遠慮がちに聞いてきた。
「あれは闇属性魔法の一種だよ。生者のみを燃やし尽くすから屋内でも使えるかなって思ってね。そんなことより二階にはもう誰も居ないみたいだね」
「闇属性魔法を扱えるのは魔法使いでも一握りだと聞き及んでおります。リッチモンド殿が召喚したスケルトンホースといい今の魔法といい、貴方は……その、うまく言えませんがとんでもないお方のようですね」
「どうだろうね。僕は誰かと違って自分の強さを理解しているけど……世の中には常識を覆すような化物が隠れ潜んでいる」
「はぁ……」
「よく分かってない顔だね。つまり上には上がいるって事さ」
「なるほど! ですがリッチモンド殿とタウルス殿、それに別動隊のブラック殿は我々と一線を超す別格の強さをお持ちです。貴方達がいれば勝利はすぐそこだと思っております!」
「そうだね。さっさと終わらせて美味しい食事をしようじゃないか」
「は!」
ロンシャン兵と雑談をしながら、手近な部屋をチェックしたけど敵の姿は見当たらない。
この建物は二階部分も一階と同じようにコの字型だ。
建物の突き当りまで調べてから引き返し、昇ってきた階段を通り過ぎてブラック達が進んでいる方へ向かう。
すると反対側からブラック率いるロンシャン兵がこちらに歩いてくるのが見えたので、僕は手を左右に振り敵の姿が無い事を知らせた。
「無事かい?」
「あぁ、こちらの損害は軽微だ。問題ない」
ブラックと合流し、近くにあった階段でタウルス達のいる一階へと戻ると、傷一つないタウルスとシャルルちゃん、タウルスと共に戦っていたロンシャン兵が待っていた。
「これで終わり、ですかな?」
『一階に敵の姿は無さそうよ』
「うーん……まだ居るんじゃないかな?」
僕が感じる正者の反応は地下で息を殺して潜んでいるようだ。
数はそこまで多くないけど、このまま見逃すつもりもない。
「こういった商会の建物の多くは地下に保管庫や金庫を作ることが多い。誰か地下への入口を見つけた人はいるかい?」
一堂に会したメンバーを見回すが、誰も返事をせず首を振るばかりだ。
僕の生家がそうだったように、商人が管理する屋敷や建物には必ずと言っていいくらいの確率で隠し通路や隠し部屋が存在する。
これは徹底的に家探しをするしかないようだね。
「そっか。ならもう少し調べてみようじゃないか」
生前は商人の息子だった僕が、他人とはいえ商会の建物で魔法を使って荒らし回っているんだから皮肉なものだね。
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