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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三〇八話 第二段階へ
しおりを挟むリッチモンドたちが東側に移動し始めたのを見届けた俺は、人の動きが視認出来る程度の速度で作戦エリア上空を旋回しては止まり、旋回しては止まりを繰り返した。
そんなこんなで約三時間が経とうとした時、脳内にアーマライト王の声が届いた。
「フィガロ様、ただいま全部隊からの報告が纏まりました。第一段階エリアには一切人の気配は無いとのこと。これより状況を第二段階へ移行したいと思います。フィガロ様は引き続き上空からお願いしますぞ」
「分かりました。それと遊撃隊からの報告なのですが、第二段階エリアにて不審な建物を発見したとの事です。今現在は監視を続けている状態ですが……突入を許可しても宜しいですか?」
「いや、そちらには援軍を送りましょう。援軍が到着するまで待って頂きたい」
「分かりました。建物は北部大通り沿いにあるコの字型の建物で、盾の中に二本の剣というデザインのシンボルマークがあります。お分かりですか?」
「あぁ……分かりますとも。そこはロンシャンきっての武具商店の本店ですな」
「なるほど……では遊撃隊には待機を命じます。突入の際は一報願います」
「心得た」
アーマライト王の声が途切れたのを確認し、そのままリッチモンドへと思念を繋ぐ。
「リッチモンド、今どこだ?」
「今はもうシャルルちゃんの所に合流済みだよ。もう報告が上がっているとは思うけど、王城周囲一キロに人の気配は無い」
「そうか。アーマライト王がそっちに援軍を送ってくれた、援軍と合流し突入の合図があるまで現状維持だ」
「オーケー。で、だ。シャルルちゃんが監視を続けていた建物だけど、何回か人の出入りがあったらしい。ここが革命軍の拠点の一つと見て間違いは無いだろう」
「お、了解了解。じゃあ引き続き監視を続けてくれ」
「はいよ」
そこでリッチモンドと会話を終わらせ、北側にある建物へと向かった。
どうやらアーマライト王は援軍を即時送ってくれたらしい。
連絡を取って三十分足らずにも関わらず、遠目には五人規模の小隊が三隊、こちらに進んでくる光景が目に入った。
今回はいつ何処で敵とかち合うのかが不明な為、兵士達に強化魔法の類は一切掛けていないので、進軍は一般的な速度だがそれでも急行している事には変わりない。
やがて援軍がリッチモンド達と合流し、何やら話をした後二手に分かれた、どうやら正面入口と裏口の挟撃を行うようだ。
俺も参戦したい所だが、ここで俺が戦闘に入ってしまえばアーマライト王の指示を無視する事になってしまう。
「じゃあリッチモンド、そっちは任せたぞ」
「問題無い、すぐに終わらせるさ」
参戦したい気持ちを抑え、方向転換した俺は別のエリアに向けて加速した。
〇
「さて、とブラック、聞こえるかい?」
「聞こえている」
「うん、いいね」
強化兵であるブラックがフィガロと連絡を取っていた事が気になった僕は、その手法を教えて貰いうまい具合にブラックと思念リンクをする事に成功した。
何しろ第一段階エリアはただの廃墟外だったからね。
シャルルちゃんの所に戻ってから、小一時間ほど暇を持て余していたので色々と試してみたけど、僕とブラックの連携が思念で行えるのならこれほど便利な力は無い。
魔導具無しでダイレクトにやり取り出来る、この術式を考えた人物はきっと優れた才能と魔導センスを兼ね備えた人物、いわゆる天才というヤツだろうね。
まぁ、生身の人間を改造して自我を封印し、脳に直接術式を刻み込むような非人道的な事をするヤツでもあるのだけれど。
「そっちの準備は?」
「いつでも行けるぞ」
「よし……なら突撃だ!」
「おうともさ!」
僕の合図でタウルスが正面扉を蹴り壊し、控えていたロンシャン兵達が建物内へ一気になだれ込む。
この建物は二階建て、中にいる生者の反応は百近いが地下にも反応があるので地下室もあるのだろう。
建物の奥の方からも争う声が聞こえてくるが、先に目の前の敵を片付けてしまおう。
「チェストオオォ!」
「がはっ!」
と思ったのだけど……扉を蹴破って建物内へと飛び込んだタウルスの威勢のいい声が響き、敵の一人が壁に叩きつけられた。
「くそ! ロンシャン兵め! どこから湧いてきやがった!」
突入の際の音を聞きつけて、どこからともなくぞろぞろと革命軍が姿を現し、そんなことを言っている。
各々が様々な武器を携え、ロンシャン兵やタウルスと戦闘を開始している。
もちろん少しながら敵の凶刃は、僕とシャルルちゃんにも向いているのだけど。
「【ブラストラッシュ】」
『【ウッドスパイク】』
僕とシャルルちゃんが敵を近付けさせる事無く、それぞれの魔法で切りかかってくる革命軍を撃退していく。
驚くべきはタウルスだ。
見事な足さばきと丁寧な打撃で、襲いくる革命軍の意識を一撃で刈り取っている。
「ほっほっほっほ! そいやああ!」
見た目は六十を過ぎた老人にも関わらず、洗練された動きはまさに達人のそれであり、僕の考えを改めさせるには充分な強さだった。
掌底で敵の鳩尾を打ち抜き、ハイキックで首の骨をへし折り、手首を掴んで投げ飛ばし、膝を踏みつけて関節を砕いたりとまさに八面六臂の活躍でほぼ僕達の出番が無いのだからね。
「シャルルちゃん」
僕はタウルスが足の裏で敵の顎を下から打ち上げたのを見ながら、横に立つ執事の主に声をかけた。
『なぁに?』
「あの執事さん、何者なんだい」
『だから言ったじゃない、タウルスは強いって。あの人昔はランチアの戦闘教官だったの。無手百人抜きとか、拳で岩を砕いたとか、ランチアの象徴でもある獅子と掛けて四肢王とか呼ばれてたり、結構な逸話を持つ人で近接戦にかけては右に出る人がいないくらいだったのよ? 以前レマット叔父様が存命の時、私のそばからタウルスを引き剥がそうとしつこかったんだから』
「なんとまぁ……人は見かけによらないと言うけどね。」
『レマット叔父様がようやく私からタウルスを引き剥がして、私を暗殺しようと思ったらフィガロとの出会い。ねぇ? 運命的だと思わない?』
「さぁ、どうだか。僕は生憎とその運命とやらに命を奪われたんでね、運命なんて言葉はあまり信用していないよ」
『リアリストなのね』
「夢見るリッチっていうのも気持ち悪いだろう?」
『あはは! 確かにー』
僕の言葉に一度キョトンとした顔をしたシャルルちゃんだけど、次の瞬間には弾けたように笑いだし、しまいにはお腹を抱えて笑う始末だ。
「笑いすぎじゃないかい?」
『あは、あはは! ごめんごめん! 恐ろしい顔のリッチが手を合わせてぽわぽわ夢見てる場面を想像したら可笑しくって』
「生憎とロマンチストじゃないもんでね」
とまぁこんな具合に歓談をしているけど、目の前に現れる敵は尽くタウルスの鈍器と化した四肢により葬られているし、黙っていてもバラバラと現れる敵は、部屋の死角で待ちに徹したロンシャン兵達の剣の餌食になっていく。
攻め手側の人数が少ない時の屋内戦は、攻め込むより待ちに回った方が優位に運ぶ事がある、らしいね。
ケースバイケースなんだろうけど、とりあえず現状は大成功だ。
正面玄関付近の部屋と廊下を制圧したタウルスとロンシャン兵達は、ハンドサインにより意思の疎通を図り奥の方へと進むようだ。
「じゃ、僕達も行こうか。【ストーンウォール】」
『そうね【キュア】』
僕は地属性魔法で発生させた石壁で出口を塞ぎ、シャルルちゃんは負傷したロンシャン兵を治癒して先に進んだ。
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