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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三〇六話 環状作戦
しおりを挟む「全員傾聴! 陛下のお言葉である!」
太陽が少し顔を覗かせるくらいの早朝、王城の中庭には整列した正規軍の姿があった。
俺はと言うと、そんな兵士達を見ながら寝ぼけ眼を擦っていた。
激しい雷雨と暴風はなりを潜め、空には雲ひとつない青空が広がっている。
太陽が昇りきっていないために空の色は群青色に染まっている。
「くぁ……あふ」
こっそりと欠伸をしたのだが、隣にいるタウルスにはバッチリ聞こえてしまったらしく、「寝不足ですかな?」とニヒルな笑みを向けられた。
「兵士諸君、まずは私に付いてきてくれている事を感謝したい。本当にありがとう。そして諸君に再び願いたい。革命軍が声高に王制廃止を叫んでいる今、なお私に付いてきてくれる勇気と誠実を持ち合わせた勇者達よ、私の為に命を掛けて欲しいと切に願う。この戦いに負ければきっと王という存在は居なくなるだろう、だが住み良くなるとは限らない。私はこの国をもっと良くしていきたいと思っている、至らない事も多々あるだろう、しかし! 私は王としてやるべき事をやり、誠心誠意国の為に尽くすとここに誓う。諸君らにも家族がいるはずだ、この戦争の最中、安否の確認も取れないのは悲しいだろう、切ないだろう、悔しいだろう。私もガバメントに囚われた時、ヘカテーの事を第一に思っていた。それは今も変わりない。もし戦闘中、哨戒中に諸君らの家族を見つけたら即時保護せよ、そして必ず連れ帰り、諸君らも生きて帰るのだ! この戦いは苛烈で厳しいものとなるだろう。各自無理だと判断した場合、撤退も許可する。敵前逃亡も大いに結構だが……ケツを掘られないように注意するのだぞ? では諸君……戦争を始めよう。この美しい市街地を瓦礫の山にした愚か者共に鉄槌を下すのだ!」
おおおおおおおーーー!!!
アーマライト王が演説を締めると、中庭に集まった兵士達が揃って声を上げ、剣を、盾を、槍を突き上げる。
晴れ渡る青空の下、先行きの全く見えない戦争が再び始まろうとしていた。
〇
「ではフィガロ様、頼みましたぞ」
「はい。お任せ下さい! フライ」
臨時の司令室となった王城の一階にある客室にて、アーマライト王から指示を受け、俺は開け放たれた窓から外へと飛び出した。
既に各隊は状況を開始しており、騎馬隊、歩兵部隊、遊撃隊は四方に散っている。
ヘカテーやシャルルは別室で待機しているが、シャルルはシキガミを使役してリッチモンド達と行動を共にしている。
ヘカテーとシャルル本体の警護は、ピンクとブラウンに任せてあるので大丈夫だろう。
「隊長、今いいか」
「ブラックか、どうした……ってえ? 何で?」
王城の上空に滞空していたところで脳内にブラックの声が響いた。
ブラックにウィスパーリングは渡していないのに……なんで思念が届くんだ?
「何でとは?」
「一体どうやって思念を?」
「何を言っているんだ? 別に今まで通りじゃないか、今までもやっていた事だろう?」
「いやだってそれは俺がリングを通して……」
「リング? リングとはなんの事だ?」
話が噛み合いそうで噛み合わない。
とりあえずブラックには、俺がどうやって思念を飛ばしていたのかを説明した。
「なるほど、どうやってとはそういう事か。隊長は知らないんだな。最初は確かにそのウィスパーリングとやらが思念リンクとのコネクト役になったのだろうが……思念リンクは一度形成されてしまえば後は自動的に繋がるようになっているんだ。確か複写術式がどうの、とか言っていたな」
「へ、へぇー……そーなんだ……」
ナンダヨソレ。
じゃあ何か? 今までリングを使っていたふうでいて、実際はダイレクトに直結していたって事になるのか?
まじかよ、複写術式って何の事だよ……。
「複写術式とは。発動条件が揃えば異なる場所に同じ術式を展開させるものだ、強化兵には皆これが埋め込まれている」
「ふ、ふぅーん……」
「つまりはそういう事だ。もういいか? 本題に入りたいのだが」
「ごっ、ごめん! ついうっかり……で、どした?」
「今俺達は北側の大通りを進行中だ。特に敵の姿も見えないのだが、一つ気になる建物を発見した。第一段階地点よりも先にあるのだが踏み込んでもかまわないだろうか」
「いや、今踏み込んでこちらの動きを察知されるのは不味い。作戦遂行エリアだけに留めてくれ、出来るなら……シャルルかリッチモンド、ブラックの誰かが監視していてくれると助かる」
「承知した」
そこでブラックからの思念は途切れた。
北側に方向転換し、大通り沿いに飛行する。
王城からは凡そ二キロ地点になるだろうか、大通りが交差する場所にコの字型の大きな建物を発見した。
建物の中央部には、盾の中に二つの剣が合わさった大きなシンボルマークが設置されている。
「なるほど、確かに気になるな」
ブラックやリッチモンド達の姿が見えないが、どこかに潜んでいるのだろうか。
周囲の建物はかなり破壊されているにも関わらず、シンボルマークが付いた建物だけはほぼ無傷で建っていた。
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